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マジックセンス  作者: 金屋周
第十一章:英雄
138/222

135:渡航

「……船?」



「そう。船を創ってもらうわ。」



セプテムは頷き、目の前に広がる海を指差した。


その先には微かに陸が見える。



「向こうに行くには、それなりの船が必要よ。」



「でも、僕は船を見たことがないから、想像イメージ出来ないよ?」



「……それもそうね。どうしようかしら。」



山間の農村で育ったフィカスは海を見たことがなかった。当然、船を見たこともない。



「はいはーい!」



悩んでいると、エヌマエルが元気よく手を挙げた。



「何よ?」



「私、船の絵を描きます!それを元にフィカスさんに創ってもらうのはどうでしょう?」



良いアイデアだけど……何に描いてもらうかよね。


荷物に落書きするのは嫌だし……って別にそんな必要はないか。



「じゃあフィカス、まずは紙とペンを創造して。」



「うん。」



エヌマエルの手元に紙とペンがある……。


集中してそう想像イメージすると、実物がそこに創造された。



「……何か違くないですか?」



「そう……?絵の通りに想像イメージしたんだけど。」



エヌマエルに船の絵を描いてもらい、それを元に創造したわけだが……。


どこかバランスがおかしい。



「絵が下手ってことでしょ。まぁ私の風魔法で動かすから、人が乗れればそれで良いのよ。」



「なるほど~……私の絵が下手っ!?」



「一人で漫才してないで、ほら乗って。」



風で浮かせ水面まで運び、その上に足を乗せてみる。



「……わっと。」



かなり揺れる。片足だけでこの揺れだ。三人で乗ったら転覆しそうだ。



「バランスは……こんなもんかしら?」



風を左右から当てて、船が真っ直ぐになるよう調整する。



「大丈夫ですよ!」



その証拠とばかりに、エヌマエルは船上でジャンプして見せた。



「はいはい。それじゃ、出航するわよ。」



風を後部から放ち、船を前へと動かしていく。


――かなり疲れそうね。これ。



「ねぇ……あの布って何で付いているの?」



フィカスが頭上にある帆を指差した。



「ああ……それで風を受けて進んでいくのよ。普通の船は。」



セプテムは両手を前に出し、後部から視線を逸らさずそう返事をした。


一般的な船では重要な帆だが、この船に限って言えば必要のない部分だろう。



「ねぇ……陸までどのくらい?」



ずっと魔法を使い続けることに疲れてきた。


出来ることなら休憩したいが、この船で風を止めてしまえばたちまち沈没してしまう。



「まだかなり遠いですよ。」



「……そうよね。」



出航した土地から、まだそんなに離れていない。考えれば分かることだが、意識してしまうと余計に辛くなってくる。



「セプテムさん、こういう時は気合で乗り切るんです!もっと!熱くなれぇっ!です!!」



「うるさい。」



「はい。」



それから、セプテムは風の出力を上げ、かなりのハイペースで船は進み続けた。


そして――。



「よ、ようやく着いた……。」



北大陸に到着する頃、セプテムはくたくたになっていた。



「お疲れさま。」



フィカスが肩を貸し、安定している陸へと降り立つ。


船の揺れている感覚も面白いけど、やっぱりしっかりとした地面の方がしっくりくる。



「君たち……どこから来たんだ?」



その場にいたであろう冒険者たちが集まって来た。


後方には魔物の群れの死体がある。この人たちがやっつけたんだろうか?



「僕たちは向こうの……。」



そう言いながら振り向くと、沈んでいく船の背景には霧ばかりだった。


こっちからだと見えないんだ……。



「……私たちは西大陸から来たのよ。町はどこかしら?」



「具合が悪そうだな……!よし!俺たちが案内しよう!こっちだ!」



親切にもこの人たちは案内をしてくれるようだ。


肌寒い気候の中、針葉樹の森を歩き固い地面を踏んで進んでいくと、やがて大きな町に行き着いた。奥には城らしきものが見える。



「ここが城下町のフェルティだ。で、宿は向こうに……。」



宿、と聞いてエヌマエルが声を上げた。



「あっ!私たち、この国のお金を持ってません!」



「そうか……それは困ったな。俺たちも貸せるほど余裕はないし……。」



「なら、ギルドで稼ぐしかないわね。」



フィカスから離れ、セプテムがそう言った。



「嬢ちゃん、もう大丈夫なのか?」



「ええ。平気よ。」



「そうか……ってそこじゃない。ギルドで稼ぐって……言うほど簡単じゃないぞ?」



「その点に関しては問題ないわ。」



こちらが冒険者に見えないからこその心配なんだろうけど、それはお節介みたいなものよ。


私とフィカスがいれば、大抵のクエストはこなせる。エヌマエルがいるのが、ちょっと心配だけど……まぁ大丈夫でしょう。



「クエストの経験はあるから、ギルドに案内してくれる?」



「そ、そうか。そう言うなら……。」



ギルドに向かう途中、周囲に視線をやってみると、レグヌム周辺とは雰囲気が異なることに気付いた。


まず、屋根がどれも急な角度だ。それと、遠目で分かり辛いが、窓やドアが二重になっている。



「ここがギルドだ。でも、今は入らない方がいいかもしれない。」



「いや、時間的にはもういないんじゃないか?」



「他に用がなければ、の話だろそれは?」



何やら話し合っている。


内容から察するに、危険人物でもいるようだ。



「あ、大丈夫ですから。」



「そうか?まぁ奴には気を付けてくれ。」



そう言って冒険者の人たちは去っていった。



「奴って誰でしょう?」



「さぁ?会えば分かるんじゃない?」



新たなギルドへの扉が今、開かれた。

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