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マジックセンス  作者: 金屋周
第十一章:英雄
137/222

134:北大陸

初夏だというのに、肌寒さを感じる環境――。


針葉樹で構成された森の中、複数の獣の叫びが響き渡る。



「――ったく、んな吠えてんじゃねぇよ。」



威嚇を続ける巨大な熊型の魔物を複数前にして、その男は気だるそうに持っている槍を構えた。



「今日は風が強いな……まぁ俺には関係ねぇか。」



彼の青髪が風に靡き、一筋の白髪がキラキラと輝く。


顔を前に向けたまま視線を動かし、魔物の数を数えていく。



「十……十三……分かんね。どーでもいいか。」



途中で数えるのが面倒になった。とにかく、沢山いる。それだけだ。


そして――。



「――何体いようと、関係ねぇんだよ。」



そう呟き、男は無造作に手にしていた槍を投げた。


槍は冷たい風を受けながら落下していき――。


突如として、まるで意思を持ったかのように魔物の群れに向かって突撃した。



「オラオラ、さっさとくだばりやがれ。」



槍が次々と魔物を倒していく。


そんな中、彼に向かって走り出した魔物がいた。


理由は分からない。けれど、槍が動いているのは奴の仕業だ。


そう判断したのだろう。



「……ハッ!後手に回ってる時点で遅えんだよ、ザコども。」



彼の前の地面が揺れ始めた。


それに気付いた魔物が警戒し始め、動きを止めた。



「潰れろ――。」



大地が隆起し、土の塊が人の手の形となり、魔物たちを握り潰す。


魔物たちの悲鳴とも言える叫び声が森に響き渡った――。



「何があったんだ!?」



バタバタと足音がし、冒険者のパーティが駆けつけてきた。



「あ?今頃来たのかよ。何しに来やがったザコども。」



「ザコだと!?何様だお前……!?」



顔を赤くし、冒険者の屈強な男が彼に詰め寄る。



「はぁ?ザコをザコと言って何が悪いんだ?教えてくれよザコ?」



「キ・サ・マ~!!」



冒険者の男はますます顔を赤くし、彼の胸倉を掴む。



「離せよザコ。死ぬぜ?」



「は?何言って……?」



次の瞬間、二人の間に槍が突き刺さった。



「なぁっ!?一体どこから……!?」



森の中でも、ここは開けている場所だ。頭上には空しかない。槍が引っかかるところはないはずだ。



「いい加減放せよ、ザコ。つーか、マジで俺のこと知らないのか?」



「当たり前だ!お前みたいな無礼者なんぞ……!」



「ん……?まさか……!」



どう止めるべきか迷っていた、男の仲間の一人が彼を指差して震えた声を出す。



「青髪に前髪の白い筋、万物を自在に操る魔法……あんた、まさか……!」



「賢者ドゥーフか!?」



「あ?何だこの俺を知ってるのかよ?それでそんな態度、よくとれたもんだなぁオイ。つーか人を指差してんじゃねぇぞ。」



ドゥーフと呼ばれた彼は呆れ声とともに男の手を払いのけ槍を掴んだ。



「分かったか?てめぇらの前にいるのは、この大陸で……いや、この世界で一番強い男なんだよ。」



「ぐっ……!」



言い方に一々棘があるが、冒険者たちは何も言い返せなかった。


それもそのはず、賢者ドゥーフの噂は嫌と言うほど耳に入ってくるからだ。


万物を操る魔法を扱えるとされ、一人で魔物の大群を全滅させる……という話はよく聞くが、それはまだ易しい話だ。


土地の姿を大きく変貌させただの、独りで国を潰せる実力を持っているだの……そんな眉唾物の噂が幾つもある、このフェルティ国で最強の人物だ。


国王はそんな彼に”賢者”の称号を与えたが、それを素直に喜ぶ者は少なかった。



「つーわけだ。俺は報酬を受け取りに行くから、てめぇらザコどもはギルドに失敗したとでも報告に行くんだな。」



このように、非常に口が悪い。


しかし、それを咎める者はこの国にはいない。滅多なことを言って機嫌を損ねたら、国を崩壊させられる可能性があるためだ。



「じゃあな。次からは俺が受けないような、低レベルなクエストを受けるんだな。」



魔物の死体の山をバックにドゥーフは去っていった。



「くっそ……調子に乗りやがって……!」



彼の姿が見えなくなった後、その場に残った冒険者たちは悪態を吐いた。



「でも実際、あいつより強い奴なんかこの国にはいないし……。」



国から授けられた”賢者”の名は伊達ではない。


ドゥーフと互角に渡り合える者がいるとしたら、他の大陸にいる同格の存在くらいだろう。



「だからって!くそっ!ムカつくんだよあいつ!」



たしかに実力はある。けれどそれを素直に認めたくないほどの性格。それが国中の冒険者たちが彼を嫌う理由だった。



「それは分かるが……あいつはずっと独りであの強さだからなぁ……。」



普通はパーティを組んで挑むような難易度のクエストも、たった独りで易々と攻略してしまう。それほどの強さと実力差を持っている。


だからこそ皆、悪態を吐くばかりで誰も追い越そうとは思わなかった。それが挑戦ではなく、無謀であると知っているからだ。



「ああ。強いってのは認める。だが、それと人格は別だ!王様も何であんな奴なんかに……ん?」



ふと森の先にある海に目がいった。


遠くで分かり辛いが、海上に何かがある。



「……船か……?」

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