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マジックセンス  作者: 金屋周
第十章:逃亡
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133:移動

「ねぇ……凄い今更なんだけど……。」



霊峰の登山を始めた頃、アベリアはネモフィラに尋ねた。



「どうして勇者のパーティが馬車を使わないの?」



かなりの距離を全て徒歩で来たことに対し、強い疑念があった。


勇者の仲間たちなら相当の貯金もあるだろうし、馬車やら家を持つ資金も十二分にあるだろう。


それなのに馬車を使わないというのは、かなりおかしな話だと言える。



「……レグヌムには置いてないからな。」



城下町の隣町――アベリアたちが所属するギルドがある町には馬車が置いてある。それを取りに行っていないため、馬車がここにはない。それだけの話である。



「あんまり馬車は使わないんだよね。スクォーラくんとラフマが体力お化けのおかげで。」



「お化けはリコリスだろー?」



「そういう意味じゃなくてさ……。」



流石に遠出する時は馬車を使用するが、ある程度の距離まではいつも徒歩で移動していた。


このことにこれまでは何の疑問も持たなかったが、今になって考えると目立つことを避けるためだったのかもしれない。


この町には勇者が来ている――そう思われては動き辛くなる。死神として。


そういう理由があって、馬車を使わないようにしていた……のかもしれない。



「まぁでも、今回は馬車を取りに行く時間が惜しいわけだしさ。仕方ないよ。」



時間がかかればかかるほど、先に行ったフィカスたちが遠くに行く時間が増える。そのため多少の苦労があったとしても、徒歩で追いかけた方が良い。



「そうなんだけど……それで、こっちで本当にいいの?」



「海方面を囮にするなら、こちらに来るしかないはずだ。」



霊峰は高く、広い。


身を隠すにはもってこいの場であり、探索を躊躇わせるほどの規模が追手を拒む。



「まーこっちに来てるとしてもさー……どうやって見つけんの?」



頭の後ろで手を組み、ラフマは溜め息を吐いた。


一つの山に範囲を限定しても、その範囲はあまりにも広い。少人数で人探しは無理難題と言っても過言ではない。



「それは他も同じだろう。この霊峰に範囲を絞れる分、俺たちの方が他よりはましだ。」



「そーだけどさぁ……誰か来る。」



ラフマの頭部に生える犬耳がピクリと動いた。


自分たちの他にほとんど音がない場で、石を蹴ったような音が微かに聞こえた。


動物も見かけないし……人だろう。



「おっ?また冒険者か?」



がっしりした、背の高い悪魔だ。この霊峰に住んでいる者だろう。



「また?俺たちの他にも誰か来たのか?」



「ああ。結構前にな。」



他の捜索者は海方面に向かって行ったはず。となると、ここに来る冒険者はかなり絞られる。



「男女の二人組か?」



「いや、三人だったな。」



……人違いだったか。


この者が嘘を吐く理由はないはず。ならば、本当にここには来ていないということに……。



「ネモフィラくん。」



「何だ?」



「ドンマイ。」



「黙れ。」



ここに来ていないと分かった以上、もうここには用はない。さっさと下山するに限る。



「――予定変更だ。港町に行くぞ。」



「結局そうなるんだね。いいよ、行こうか。」



それからネモフィラたちは急いで下山すると、そのまま南の方へ――港町ポルトゥスへと向かった。


到着する頃には夜になっており、身体はへとへとになっていた。



「冒険者?それなら、昼過ぎくらいかな……夕方前くらいに船で東大陸に向かったよ。」



「どんな人たちでしたか?」



漁から戻ってきた人たちで賑わう中、通行人の一人に質問をする。



「女の子ばかりだったと思うよ。あ、あと馬車を持ってた。結構なお金持ちだよね。」



「そうか。分かった、ありがとう。」



通行人に礼を言ってその場を後にし、船着き場へと歩く。



「――フィカスたちではないようだな。」



「うん。多分だけど、サーちゃんとエレジーナのパーティじゃないかしら?」



目撃情報に一致する冒険者は、知り合いの中ではエレジーナのところしかない。別行動を取っているため分からないが、行動力を考えると恐らくそうだろう。



「じゃーどうすんの?あたしたちも東に行く?」



「それはちょっと頭の悪い行動だよね。僕たちは……どうしよっか?」



「南だ。南大陸に向かう。」



他の冒険者が既に向かっているところに行っても意味がない。


まだ誰も行っていないところに行く必要がある。



「そりゃそうなるかもだけど……お金はどうするのさ?」



「スクォーラの遺した金がある。それを使うぞ。」



スクォーラは勇者として相当な額を稼いでいたが、それを何かに使うということは少なかった。元々物欲の少ない気質なのだろう。報酬金のほとんどは貯金されるだけであり、それをリコリスとラフマが勝手に使うというパターンが多かった。



「この金で船を借り、南大陸――そこの顔となっている国・パラディソスへと行くぞ。」



それと同時刻――。


山間にある農村にて――。



「えっ!?フィカスは来ていない!?」



「ああ。見かけたら村中が大盛り上がりになるからな。間違いない。」



「マジかぁ……。」



ジギタリスはがっくりと肩を落とした。


絶対にここだと思ったんだけどなぁ……。



「ジギタリス、予想が外れたな。くたびれしか儲からなかったか。」



「それで、他に心当たりはないのですか?」



「ない!」



カナメの質問に、ジギタリスは胸を張ってそう答えた。


威張って言うことじゃないだろう……。


カイドウが呆れた視線を送るが、ジギタリスは気付かない。



「んじゃ、次だ!思いつくところはないから、とにかく頑張ろうぜ!」

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