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マジックセンス  作者: 金屋周
第十章:逃亡
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131:馬車

馬車は軽快に草原を駆け、大陸の南端を目指していた。



「あ、そうだサンナちゃん。」



馬を操るマカナの背中越しに景色を見ていたサンナは、エレジーナに呼びかけられ振り向いた。



「何ですか?」



「渡すの忘れてたよ。はいコレ。」



荷物を入れた大きな袋から服を取り出してきた。


見る限り、ただの普通の服に見える。



「……何ですか?これ?」



「私たちが着ているものと同じなんだけどねー。破れにくい素材で出来てるから、役に立つと思うよー。それにアサシンの服だと目立つからね、普通っぽい見た目にしてみたよ。」



「……なるほど。」



エレジーナたち三人が普通の服を珍しく着ていると思ったら、そういう理由があったのか。


手渡された服を観察してみる。


――手触りは良い。中々高価な代物のようだ。


けれど……。



「……何でスカート何ですか?」



マカナは当然として、エレジーナも六号もズボンを穿いている。自分だけスカートというのは納得がいかない。



「サンナちゃんには、スカートの方が似合うと思ったからだよー。あ、他の服はないから、それを着ないとダメだよー?」



「……着ない場合、どうなりますか?」



「……全裸になるか、馬車を降りてもらうしかないね。」



……最初から選択肢はなかったということか。


まぁ薄々分かっていたことだし、この天使エレジーナにとやかく言っても仕方がない。こういう人なのだから。



「分かりました。着替えますよ。」



「それでこそサンナちゃんだよ。マカナくん、振り向いちゃダメだよー。」



「うす。ところでエレジーナ。」



マカナは前を向いたまま、雇い主に尋ねる。


背後から微かに布の動く音がする。着替えている最中だろう。



「なぁに?」



「南の方に行くって言ってましたけど、実際どこまで行くんですか?」



「ああ……そのことね。」



目の前で着替えているサンナを観察しつつ、エレジーナは頭の中に地図を思い浮かべる。



「港まで行って、そのまま南大陸に行こうと思ってるよー。」



「ジロジロ見ないでください。」



「見てないっての。……海を渡るってことですか?ていうか何で?」



「逃げるとしたら、海の向こうが安全なんじゃないかなーって思って。」



「マカナに言ったんじゃありません。エレジーナに言ったんです。」



「……。」



ごちゃごちゃしてきた会話の様子を傍から眺め、六号ことウルミは呆れていた。



「……船はどうするんですか?」



ふと思いついた疑問をマカナはエレジーナにぶつけた。


馬車を港が預かってくれるかも分からないのに、都合よく船を見繕うなんて出来るだろうか?



「……港だからねー。多分あるんじゃないかなー?」



「……そっすか。」



ノープランってわけか。


そもそも、馬車を他所に預けるってことが危険だ。盗まれる可能性が高い。ならば、馬車を収納出来るほどの大きな船が欲しい。


もし港にあったとして、どうやって手に入れる?


マカナは今後の予定を頭の中に巡らせる。



「――着替え終わりましたよ。どうですか?」



「おー似合ってるよ。マカナくんもそう思うよね。」



「あーそうっすね。似合ってます。」



「見てから言おうねー。」



エレジーナの台詞を聞き流し、遠方に視線を動かす。


……あれか。


町が見えてきた。あれが港だろう。



「見えてきたんで、もう少しで着きます。」



「おーやっとだねー。えーっとたしか……。」



丸めていた地図を広げ確認する。



「これだね。ポルトゥスって町だねー。」



「ここから南大陸まで、結構な距離がありますね。」



レグヌム城下町から港町までの距離よりも大分ある。かなり時間がかかりそう……どころか、日を跨ぎそうだ。



「けどまぁ、船なら馬車よりも速いだろうから。思ったよりはかからないと思うよ。」



おまけに船なら速度が一定だ。アクシデントでもない限り、おおよそ予定通りになる。



「で、実際問題、どうやって船を調達するんですか?」



遠く離れた大陸まで行く船なんて、そうそう出航するものでもないだろう。一緒に乗せてもらうというのは難しそうだ。



「買い取るのが一番なんだけどねー。それは難しいから、交換条件にしようかなーって。」



「……交渉するってことですか?」



船に見合う対価なんて、思い当たるものがないが。



「そうそう。サンナちゃんにセクシーなことでもしてもらってね。」



「は?殺すぞ。」



「はい。すみませんでした。」



声のトーンが本気だった。


それを感じ取ったのか、エレジーナにしては珍しく真面目な声で謝った。


……何やってんだか。


マカナは背後のやり取りを聞いて、溜め息を吐いた。



「……で、案は他に何があるんですか?」



「今のは案でも何でもありません。」



サンナの鋭い視線が背中に突き刺さった気がした。



「町全体の問題とか、町長の問題とか、何かを解決して船を貰う……要はクエストだね。そういうのをやろうかなって思ってるよー。」



なるほど。まぁそれしか手はないか。


そうこうしているうちに、港町が近づいてきた。



「そろそろ到着しますよ。」

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