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マジックセンス  作者: 金屋周
第十章:逃亡
133/222

130:霊峰

ごつごつとした歩き辛い山道を慎重に進む。踏ん張るために脚には力が入り、高度も徐々に上がって行き呼吸が荒くなっていく。


予想以上に体力の消耗が激しい環境だ。


無論、普通に登山をする分には、ここまで消耗することはないだろう。追手から逃れるために、通常よりもハイペースで動いていることが、体力の消耗を加速させている。


ふと歩いてきた道を振り返ってみると、地上がかなり遠くに見えていた。


気が付かないうちに、こんなに歩いてたんだ……。


ここから見る限り、この山の近くには誰も来ていないようだ。



「良い景色ですね~。何だか元気が出てきますね!」



「うん。景色が良いとやっぱり……。」



「ストップ!」



小さくセプテムが叫んだ。



「え?何でですか?」



「ちょ、あんた……。」



喋るな。


と言おうとしたが、遅かったようだ。



「ん?誰だ?」



岩陰の向こうから男性の声がした。


そして、足音が徐々に大きくなってくる。こちらに向かって歩いてきている。



「……こんなところに一体誰が……って人間か?」



かなりデカイ男だ。


二メートルはあるのではないだろうか。それほどの高さと屈強な肉体。褐色の肌。


この人……もしかして……。



「悪魔?」



「ん?そうだが……ったく、人間がこうも来ると面倒なんだよ。言っとくが、この辺りに薬草はないぞ。」



やっぱりそうか。ジギタリスに身体的特徴が似ていると思った。



「別に私たちは薬草を取りに来たわけじゃない。ただ向こう側まで行きたいだけよ。」



呆れた様子でセプテムがそう説明した。


この辺りに住んでいる悪魔だと分かったので、警戒したのが馬鹿らしくなったのだろう。



「向こう?山の先ってことか?」



「ええ。そうよ。」



すると悪魔の男性は肩をすくめた。



「おいおい。行ったところで何もないぞ。ただ草原があって、その先に海があるだけだ。」



「海ね……向こう岸は見えるのかしら?」



男性は頭を掻いた。



「あー……どうだったか……うっすら見える時もある……気がするな。まさか、海を渡るつもりか?」



「そのまさかよ。情報ありがと。行くわよ。」



セプテムは止めていたその歩みを進め始めた時――。



「おう。こっちも面白い話が聞けて満足だ。しばらくは話題に出来るから助かったぜ。頑張れよ。」



と、男性が口にした。



「は?」



一歩踏み出したところで足を止め、男性を睨みつける。



「ん?どうした?」



「言いふらされたら困るのよ。悪いけど秘密にしといてくれない?」



逃亡者の身としては、好き勝手に情報を話されては困る。


霊峰と呼ばれる場所である以上、そうそう人が来ることはないだろうが、それでもゼロとは言い切れない。



「そりゃ困るな。町と違って、ここには話題がないんだ。だから人間の話をネタによくしてるんだが……第一、お前ら人間は勝手にやって来て、勝手に薬草を取っていくじゃないか。だったらこっちも多少は何やってもいいだろう?」



……薬草の件に関しては、悪魔が薬草に興味がないとか聞いたことがあるけど……。


ってそうか。そう思って思い出した。ここがジギタリスの故郷なんだ。



「知らないわよ。他の奴のことなんか。私たちはただここを通るだけ。迷惑はかけていないわ。それに文句を付けるっての?」



セプテムの視線が鋭くなる。


まずい……臨戦態勢だ。



「セプテム、落ち着いて。ここで戦っちゃ駄目だ。」



ここで戦えば、少なからず他の悪魔がそれを目撃する。


そうなればこの人が黙っていてくれたとしても、他の悪魔が噂として広めてしまうだろう。


それでは駄目だ。自分たちがここに来たということを隠したいのなら、穏便にやり過ごす必要がある。



「……分かってるわよ。」



凄い怒っている。


声音から感情がひしひしと伝わってくる。



「……くそっ……これだから悪魔は。」



「ん!?今何て言った!?」



男性も怒った声で怒鳴るように訊いてきた。



「何にも言ってない……ジギタリスといい、何で悪魔って面倒な奴しかいないのかしら。」



「言ってるじゃ……ジギタリス?ジギタリスの知り合いなのか?」



その口ぶりからして、ジギタリスの知人のようだ。



「はい。そうですけど……。」



「そうか。ジギタリスの知り合いか……ちゃんと人間の社会に入れたってことか……。あの騒がしい奴が……。」



腕を組み、うんうんと頷いた。



「ジギタリスはどんな様子だ?しっかりとやれているか?」



「あ、はい。いつも頼りになります。」



「そうか……ならいいんだ。」



……何だかよく分からないけど、もう怒ってないのかな?



「今度来た時にジギタリスも連れて来るんで。私たちはもう行くわ。サプライズにしたいから、秘密にしといてちょうだい。」



「おう!サプライズはたしかにいいな!邪魔して悪かったな。もう行っていいぞ!」



「どうも。」



上手いこと男性を丸め込み、その場を後にした。


それからもただひたすら歩き、時折休憩を挟みながら進むこと数時間――。


日が暮れ始め、野宿するところを探そうと思い始めた頃――。


下り坂の向こうに、緑色の草原が見えた。


そして顔を上げて遠くを見やると、夕日に照らされキラキラと輝く途方もなく大きな水。



「――海ですよ!」

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