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マジックセンス  作者: 金屋周
第十章:逃亡
131/222

128:健気

それから黙々と歩き続け、夕日が山脈の影に隠れ辺りが暗くなる頃、三人は霊峰の麓に到着した。



「も……もう……歩けません……。」



「……休んでる……暇はない……わよ……。」



皆、息が上がっている。


このまま登山を開始しても危ないだけだ。



「セプテム、エヌマエル。一旦休もう。」



ここで無理をしては、かえって時間のロスになるだろう。


それならば、一度身体を休めてから行動を再開した方が良い。



「……そうね。」



流石のセプテムもフィカスの言葉に頷いた。


平地を歩き続けてこの消耗だ。斜面を進んでいくのはさらに難しいと判断したのだろう。


固い地面に腰を下ろし、溜め息を吐く。


……この疲労感。それと焦り。


これがいつまでも続くとなると、精神的に参ってくる。



「フィカス、コップ。」



「あ、うん。」



コップをイメージし、創造されたものをセプテムに手渡す。


それにセプテムが魔法で水を注ぐと、コップをエヌマエルに手渡した。



「あ、どうも……ってええっ!?何ですか今のは!?」



「急に大声出さないでよ……何って水魔法よ。見たことないの?」



二つ目のコップを創造し、またセプテムに渡す。



「そっちじゃないです!フィカスさんの魔法ですよ!」



「ああ……そっちね。」



たしかに初見の人から見たら、珍しいどころではない。何しろ物質が何もないところから創造されたわけだ。


三つ目のコップに水を注ぎ、言葉を選ぶ。



「フィカスの魔法は……まぁ記憶にある物を創り出す……みたいな感じの魔法なのよ。」



「うん。だから出来ることはそんなには……ないかな。」



実際には応用が効くのだが、今はそこまで話す必要はないだろう。


フィカスがそこまで考えて喋っているとは思えないが。



「す……凄いです!そんな魔法が存在するなんて!」



「あはは……ありがと。」



笑いながら、この人はどっちだろうと考えてしまった。


サンナみたいに、ただ敬意を払うのか。それとも故郷の人たちみたいに、欲望を押し付けてくるようになるのか。


もし後者なら……。



「セプテムさんは水魔法の使い手なんですね!私は魔法が使えないので羨ましいです!」



「もう私の話?……どうも。」



フィカスの話題で喋りまくると思っていたら、意外とあっさり次の話になった。


思った以上に単純というか……けれど、この性格ならば裏切ったり欲に塗れたりしないか。


――私の魔法については、話しておいた方が良さそうね。


こうもリアクションされては、非常時にも魔法に注意が行ってしまうかもしれない。そういう事態を防ぐためにも、先に言っておく必要がある。



「……私が使えるのは、水だけじゃないわ。」



そう言って、指先から炎を出してみせた。



「……へ?」



目をぱちくりさせ、エヌマエルはポカンとセプテムを見つめた。


信じられないものを見たという表情だ。



「フィカスにもしっかりとは話してなかったわね。」



まぁこれまでの出来事から、何となく察しがついているでしょうけど。



「私の能力センスは、自然魔法を操る……といったところかしら?」



自然魔法という括りの中に炎や水、風等といった魔法がある。


その中の一つを扱えるというのが、普通の才能センスだ。



「でも何故か、私は自然魔法という括りに属している魔法を全て扱える。理由は分からないわ。」



「……生まれつき……ですか……?」



「だと思うわ。物心つく前に何かあったのかもしれないけどね。」



断定は出来ないが、恐らく生まれつきの才能センスだろう。


この世界によって稀……どころか唯一の才能センスだ。この事実があるからこそ、怪盗シャドウの正体を誰も掴めなかったと言える。



「で、エヌマエル。あんたは何かないの?見た感じ人間よね?」



「はい。私は人間です。それでですが、私は何の能力センスも持っていません。ただの一般人ですよ。」



そういう彼女の顔は笑っていたが、瞳に寂しさや悲しさを含んでいた。


人間という種族は、ただでさえ異種族と比べ身体的に劣っている。それに加え能力センスの有無まで問われたら、最弱と言っても過言ではない。


それでも尚人の上に立てる人物は、それだけのカリスマがあるということだ。しかし、人間が全員そのような才能を持っているわけではない。



「私も何か魔法が使えれば、いろいろと人生が違ったんだろうなぁ……。」



「……。」



ボソッとそう呟いた彼女に対して、フィカスの何の言葉もかけてやれなかった。


魔法が使えない人がいることは知っている。故郷にいた人は大半がそうだったし、身近なところでいくとサンナがそうだ。けど、サンナは天使という種族であり、人間と違って翼で空を飛ぶことが出来る。


人間にとって何の能力センスも持っていないということは、大きな障壁であり劣等感である。



「辛気臭くなってる暇はないのよ。休めたし、そろそろ出発するわよ。」



セプテムが立ち上がると、エヌマエルも元気に立ち上がった。



「はい!荷物持ち、頑張りますね!」



だからこそ、彼女は健気だ。

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