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マジックセンス  作者: 金屋周
第十章:逃亡
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127:徒行

「ぜぇ……ぜぇ……きゅ、休憩……しませんか……?」



「はぁ?まだそんなに歩いてないでしょうが。」



フィカスとセプテムはエヌマエルという新しい仲間を加え、町を出るとそこから北へ――そびえ立つ山脈を目指して進んでいた。


出発してから小一時間――ひたすら歩いていると、エヌマエルが呼吸を乱しながら休憩を訴えてきた。



「まぁセプテム。エヌマエルは僕たちの荷物を持ってるから、僕たちよりも疲れていると思うよ。少し休んだ方が……。」



「その余裕はないわ。」



フィカスの意見をぴしゃりとはねつけ、太陽を見上げた。


少し頂点から西に寄っている。時間的に見て、そろそろ逃走がバレて追手が放たれた頃ね。


恐らく大量の追手がやってくる。相手側はそのうちの一つでもこちらを見つけられればそれでいい。けれどこちらは、誰か一人にでも見つかってはいけない。


その差を考えると、休んでいる時間などない。追手がまだ散らばっていない間に、出来るだけ距離を稼いでおきたい。



「……大丈夫?」



フィカスはこっそりとペースを落とし、エヌマエルの隣に並ぶとそう尋ねた。



「だ……大丈夫です……。」



大粒の汗をかいていて、とても大丈夫そうには見えない。


段々と日も伸びてきて、気温も上がってくる季節だ。ただでさえ暑さで体力を奪われる時期。それに加えて町で買い物したものを全て背負っている。


いくら自分の命が懸かっている状況であるとはいえ、目の前の人物を非情に扱えるほどフィカスの神経は図太くない。



「きょ、今日は……あの山のどこ……まで行くんですか……?」



遠くに見える岩肌の目立つ山脈。距離があって尚一際高い。



「……このペースで行くと、日が沈む前に麓には着くはずよね……なら、少し登って……見つからないところまで行きたいわね。」



もし数値で表すならば、途方もない距離になるだろう。


そのことを想像してしまい、エヌマエルは青ざめた。



「えぇ……そんなにですか……?」



「夜中に急に移動するよりはマシでしょ?」



「そう……ですけど……って……その……。」



ふと気になっていたことを口にした。



「お二人の口ぶりからして、何かから逃げている……んですよね?一体何から……?」



その質問に二人は顔を見合わせた。


どう答えようか。本当のことを言うか、誤魔化しておくか……。



「……反乱分子……からよ。」



「なるほど……大変なことですね!私、頑張ります!」



……嘘は言っていない……のかな?


まぁ僕たちの視点から考えれば、向こうの――つまりレグヌム国王の考えが間違っているってことになるけど……。



「ええ。頑張んなさいよ。で、エヌマエル。地図出して。」



「はい!」



歩きながら背負っている鞄を開け、町で買った地図を取り出した。それにはこの近辺の情報が描かれている。



「――これから向かう山が、霊峰と呼ばれているサークルム山。その端の方ね。」



「珍しい薬草が自生しているんですよね。冒険者や商人がよく訪れるとかで。」



「そうらしいわね。今は迷惑な話だけど。」



珍しい薬草が生えている霊峰……どこかで聞いた気がする。



「……この地図に霊峰のことは載ってないのね。」



「山まで行く人向けではないみたいですからねぇ……フィカスさん?」



「えっ……何でもないよ。気にしないで。」



霊峰の話をどこで聞いたか思いだそうしとしていて、話を聞いていなかった。



「そう……ですか?それでセプテムさん。あの霊峰を越えていくんですか?」



「そのつもりよ。あんた、その先に何があるか知ってる?」



その問いにエヌマエルは首を横に振った。



「いえ……そっちの方には行ったことがないので。」



――霊峰の先は未知ということか。


けれど、そこもレグヌム領土のはず。ならばそこまで文化等に差はないだろう。そういう面で困ることはないはず。



「そういや、あんたの出身はどこなの?」



「私はですね、ここからずっと東の方に行ったところ――天使が多く住まう村の近くにある町に住んでいました。」



懐かしそうに、けれどどこか悲しそうにそう言った。



「ふーん……エレジーナとはそこで会ったわけ?」



「はい。町にエレジーナが来た時に出会いました。あの方は私の恩人なんです。」



恩人ね……。


エレジーナがいつからアサシンをやっているかは知らないが、エヌマエルの口ぶりからして、そこまで前の話ではないだろう。


そうだとすると、アサシンに救われたということになる。それは中々――。



「――ハードな人生ね。」



「はい?」



「何でもない。少し休むとしましょうか。」



戦闘をゆくセプテムは歩みを止め、その場に座りこんだ。


それに倣って二人も腰を下ろす。



「追手が海の方に行くとしたら、こっちの方にはこないよね?」



今のところ周囲には人影はないが、追われている立場からするとそれでも落ち着かない。



「そのはずよ……。」



普通はそうする……はずだ。


しかし、例外もあるだろう。むしろエレジーナみたいな性格の奴は、山の方を優先してくる可能性が高い。


油断は出来ない、というより、落ち着く余裕はない。



「少し休んだら、すぐにまた歩くわよ。どこかに隠れるまで、気は抜けないわ。」

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