12:訓練
「私たちが警備する場所は、ネックレスのある広間。つまり、最終ラインです。」
用紙の内容を各自に伝えていく。
「他の冒険者は入り口から通路まで。私たちのところまで怪盗シャドウに来られた時点で、応援はないと考えていいです。」
本気で期待されていないとはいえ、最後の要ともなれば、多少の責任はつく。
迎撃体制を整えておく必要はある。
「アース美術館の広間って確か、真ん中にガラスケースが置いてあって、他は何もなかったと思うわ。戦うにはうってつけの場所ね~。」
「そうですか。……私が主に戦うので、皆はサポートをしてください。」
「おう!治療は任せろ!」
フィカスは遠慮がちに手を挙げる。
「えっと……僕は何をすれば……。」
サンナは顎をつまんで考える。
「……今から創造魔法を使い物になるようにするのは難しいので……最低限、戦えるようになってもらいますかね。ちょっと草原まで行きましょう。」
「へ?」
ギルドを出て町のすぐ外、何もない原っぱまで移動した。この草原をずっと進んでいくと砂漠がある。
「木刀は創造できますか?フィカスの小剣と同じサイズの。」
「やってみるよ。」
腰に差した小剣を引き抜き、そのデザイン、重さをよく観察する。
それを腰の鞘に収めると、フィカスは掌を見つめて集中する。
ここに木刀がある。この見た目、この重量で……。
フィカスの手の中に突如、木刀が出現した。
「よし。上手くできた。これでいいかな、サンナ?」
初めて見た創造魔法に三人は感嘆する。
「ええ。では次はこれを。」
サンナはナイフをフィカスに渡した。
先ほどと同じ要領でフィカスはナイフの木製を創造。
「はい。」
「どうも。それじゃあ、訓練といきますか。好きなように剣を振ってください。私が相手をします。」
「え……。」
木刀とはいえ、得物を扱ったことがないフィカスは、手にした木刀を見つめて困惑する。いずれ戦闘するということは理解していたが、急にその時がきても覚悟が決まらない。
「まずは思うように振ってください。何度かやるうちになれるはずです。」
そう言われても不安感は拭いきれないが、覚悟は決めた。このまま戸惑っていても、皆を困らせるだけだと思ったからだ。
「いくよ!」
サンナに向かって駆けだし、右手を引くように上げて小剣を突き出す。
右足を一歩下げて身体を半回転させ、サンナはフィカスの初撃を涼しい表情で躱した。
ギリギリで避けたサンナだが、ギリギリということは、それだけ距離が近いということ。左手で突き出された腕を掴み、そのまま引っ張る。
「うわっと!」
急に引っ張られ前につんのめったフィカスの腹部に木製のナイフを当てた。
「ぐうぅ!」
木製であるとはいえ、尖っている。そして勢いがあった。その衝撃にフィカスは腹を押さえてしゃがみ込んでしまう。
「あら、痛そうね~。」
いつも通りニコニコしているアベリア。心配が伝わってこないと、彼女の隣に立つジギタリスは思った。
「ほら、立ち上がって。もう一度きてください。」
「う、うん……!」
少しよろめきながらもフィカスは立ち上がり、数歩下がってサンナと距離を取る。
「それじゃあ、もう一度いくよ!」
そして、気合を入れて再び駆けだした。