125:カフェ
青緑色の長めの髪をした女性のウェイトレスは、エレジーナの名前に強く反応しフィカスに顔をぐいと寄せてきた。
「え、えっと……貴方はエレジーナの知り合い……ですか……?」
突然の行動に戸惑いながらもフィカスがそう尋ねると、ウェイトレスはハッとした表情になり頷いた。
「はい……失礼しました。……それで、エレジーナを知っているのですか?あ、ご注文はお決まりでしょうか?」
――口ぶり的に、本当にエレジーナを知っているようだな。でも誰だ?
セプテムはウェイトレスを見つめるが、その顔に見覚えはない。
「……私はスパゲッティで。フィカスは?」
「僕も同じ……いや、このランチセットをお願いします。」
スパゲッティを上手に食べられる自信がないことに気が付き、テキトーにメニューを指さした。ランチセットはボリューム満点のイラストがメニューに描かれているが、気合で完食しよう。
「かしこまりました。マスター!スパゲッティとランチセット一つずつです!」
大声で厨房へと叫び、ウェイトレスはセプテムの隣に座った。
図々しいな……。
「で?エレジーナの知り合いなわけ?」
セプテムがウェイトレスを睨むと、彼女は誇らしげに胸を張った。
「私、エレジーナの相棒一号なんですよ!」
一号……?
その呼び方には聞き覚えがあった。
そうだ……初めて会った時に聞いた。
「それで、どうしてあなたはここに?」
思い出しながらフィカスは頷き、当然の疑問をぶつけた。
一号が辞めた理由をエレジーナ本人が喋っていたが正直、戦闘中の彼女の言うことは信用出来ない。
「それがですね……私にはアサシンは向いてないって言って、宿で寝ている私を置いてどっかに行ってしまったんですよ。ヒドイですよね!?」
「ああ……はい。」
「あ、名乗っていませんでしたね。私はエヌマエルっていいます。それでですね――。」
エヌマエルはまくし立てる。
「私は今、転々としながらエレジーナを捜しているんです!お二人がエレジーナのお知り合いならば、どこにいるか教えていただけませんか!?」
「それなら……。」
レグヌム城下町にいるはず。
と言おうとしたら、セプテムに口を塞がれた。
「私たちも最近会ってないのよ。で、あんた――。」
「へい!注文コンプリート!」
奥の方から威勢のいい声が聞こえてきた。
「すみません、一度料理を取ってきますね。」
そう言ってエヌマエルは席を立った。
今の声、ここのマスターの声だったのか。
「全然、マスターって感じじゃなかったわね……。」
「うん……。」
少しすると、両手にトレーを持ったエヌマエルが戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらになります。――で、何でしたっけ?」
「私たち、海を渡りたいのよ。だから、港を知らないかしら?」
「海……ですか……。」
エヌマエルは思考する。
ここから近いところだと……。
「ここから南西に行ったところ、ですかね?レグヌムから行く方が近いと思いますけど。」
セプテムはそれを聞いて舌打ちする。
今からでは、もう遅い。港に辿り着く前に追手に見つかるだろう。
「海はなしよ。逆方向……山に行くわよ。」
「うん。分かった。食べて準備したら出発……。」
「それなら!私も連れていってください!」
突然の大声に耳を押さえ、セプテムはジト目でエヌマエルを見る。
「何であんたを連れて行かなきゃいけないのよ?」
「エレジーナに会いたいからです!お二人は最近、エレジーナに会ってないんですよね?それはつまり、この辺りにはいないということ。なら、旅の最中に出会えるかもしれないじゃないですか!」
さっきのセプテムの嘘を真に受けているのか。
うーん……この人、良い人そうだけど、色々と単純というか……。
僕たちの事情を知ったら、どういう反応をするか分からない。だから、一緒に行動しない方が良さそうな気がする。
「悪いけど、僕たちは二人で旅をするから……。」
「何でですかッ!?」
再びフィカスに顔をぐいと近づける。
「私は荷物持ちでも何でもやりますから!連れていってください!お願いしますッ!」
「えっと……でも……。」
危険、というかリスクも多い。だから断りたいんだけど……。
「いいわよ。」
と、セプテムは首を縦に振った。
「セプテム!?」
てっきりセプテムも反対かと思っていただけに驚いてしまった。
「ただし、私たちの言うことを何でも聞くこと。それが条件よ。」
「はい!何でもやります!」
食いつきが凄い。
「決まりね、エヌマエル。さっフィカス。これを食べてすぐ出発するわよ。」
「うん……でも……。」
予想以上に量が多い。これを食べきるのは至難だ。
「少し手伝ってほしい……かな。」
「はい!私に任せてください!」
フィカスからフォークを奪うと、エヌマエルは凄い勢いで食べ始めた。
こうして、新たな道連れが出来たのであった。