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マジックセンス  作者: 金屋周
第九章:日の出
127/222

124:徒歩

「あれ?フィカスは?」



城内の大広間に用意されたパーティー会場を見渡して、ジギタリスはサンナにそう尋ねた。


主役である彼の姿が見当たらない。それは大いに疑問であった。



「あれ……いませんね。ついでにセプテムも。」



ついでかい。


で、いないってことは……。



「どこにいるんだ?」



「さぁ?最後に見たのはどこですか?」



ジギタリスは今日の記憶を掘り起こす。


フィカスを最後に見たのは……。



「飯食った時だ。」



「はぁ?」



大きく胸を張って答える。



「俺が起きた時には誰もいなかったしな。だから、見たのは飯の時だけだ。」



それから会ってないんですか。まったく……。


そう思って、サンナも思い出した。


最後に見たのは朝食の時だ。


……自分も同じだ。



「……ん?どした?」



黙り込んで赤面するサンナを見て、ジギタリスは間の抜けた声で訊いた。



「……何でもありません。それより、アベリアに訊いてみましょうか。」



「おっ、そうだな。」



広いパーティー会場を見渡して、大勢の客に囲まれた姿を発見した。


すぐ傍にはアモローザの姿もあった。きっと、フロス庭園の顧客たちだろう。



「アベリア、少しいいですか?」



サンナが近寄り、そう声をかけると――。



「うん!では皆様、友人が呼んでいるので、失礼させていただきます。」



嬉しそうに頷き、周りの人たちに一礼して駆け寄ってきた。



「おう!何やってたんだ?」



「……姉さんのお客様。その相手をしていたの。」



その声音から、もうすでに疲れてきていることが窺えた。



「話はそこじゃありません。アベリア、フィカスを見てませんか?」



「フィーくん?中庭で会ったっきりね~……いないの?」



アベリアも見ていないか。それと、中庭のことは聞かなかったことにして……。



「……中庭で、一緒に行動しなかったんですか?」



「え?うん。」



サンナは少し悲しそうな表情を見せた。


そうか……想いは伝わらなかったか。



「だって王様が来ちゃったから。私は先に帰ってきたの。」



……ああ、そういうことですか。


それで、今の話からすると――。



「王様に訊くのが手っ取り早いですね。」














空を見上げれば、太陽が頂点に達しようとしてくる頃だった。


そろそろ、パーティーが始まる頃かな?


野道をフィカスとセプテムはひたすら進み、レグヌム城下町からどんどん遠ざかっていった。



「ねぇ……どこまで行くの?」



「とりあえず、海辺まで。国外まで行けば、まず見つからないわ。」



セプテムが出した答え――それは逃亡することだった。


フィカスの考えは国には通じない。国王の口ぶりからして、処刑されてしまうかもしれない。どうせ捕まれば殺される。それなら、逃げれるだけ逃げた方がましだと判断したわけだ。


事情をエレジーナは訊きたがっていたが、答えられないとセプテムが言うと彼女は黙って頷き、それ以上何も訊いてこなかった。


裏社会を知っているエレジーナであれば、こちらの事情を汲み取って誰にも言わないことだろう。


逃亡に気付かれるとしたら、パーティー会場に二人の姿がないと騒ぎ出した時。そこから追手が動き出したとしても、早々追いつかれない。



「……皆にも悪いことしちゃったね。」



「そうね。そればっかりは……まぁ仕方ないわね。」



すぐに決行したため、誰にも言う余裕はなかった。けれど、逃亡が続く限り出会うことはない。その時がくるとしたら、それは捕まった時だろう。



「ところでセプテム……。」



「何よ?」



フィカスは薄々疑問に感じていたことを尋ねる。



「海ってこっちにあるの?」



「……あるはずよ。」



だって、反対方向には山があるんだから。



「……勘?」



「……推測。」



分からないってことだね。


もし海がなかったら、それはまずいことになりそうだ。


それは貴重な時間を浪費したことになる。


仲間を置いて逃げることに後ろめたさのようなものがあったが、今こうして歩いていると、誰かに出くわすことが恐ろしく思える。


――命はやっぱり大切だ。


生きていたい。


そう心から思った。



「……あ!町が見えたわよ!」



遠方に大きめな町がある。


……海は見えないけど。



「行くしかないわ!海は……ないみたいだけど、訊けばいいだけの話よ!」



「うん!行ってみよう!」



太陽に照らされ、じりじりと奪われてきた体力を振り絞って、二人は全力疾走した。


町がどんどん近づいてくる。落ち着いた雰囲気だ。



「着いた……けど……走らなくても……良かったんじゃ……?」



「……うるさい。」



呼吸を整えつつ、散策を開始する。


往来はそんなに人がいない。昼時だというのに、これは少しばかりおかしい気がしてくる。



「……ふぅ……まずは何か食べるわよ。出来れば目立たない店で。」



「うん……あ、あそこはどう?」



大きな店に挟まれた、小さそうなカフェを発見した。


あそこなら目立ちにくいだろうし、落ち着けるだろう。



「いらっしゃいませー。」



女性のウェイトレスが迎えてくれた。他に店員の姿は見当たらない。予想通り、小さなカフェのようだ。



「……はぁ。ようやく少し落ち着いたよ。」



「そうね。歩いてる時はドキドキしたもの。」



「だね……やっぱり、エレジーナにも来てもらった方が良かったんじゃないかな?こういうのに詳しそうだしさ。」



セプテムも怪盗シャドウとして色々と手慣れているのだろうが、やはりアサシンであるエレジーナの方が、こういう活動に慣れているだろう。



「エレジーナまでいなくなったら、感づかれやすくなるわ。だから……。」



「エレジーナッ!?」



突然、先ほどのウェイトレスが食いついてきた。

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