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マジックセンス  作者: 金屋周
第九章:日の出
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123:思想

軽く変装をし、セプテムは城内を歩いていた。


今のレグヌムは攻撃を受けたことにより疲弊し、町の修繕が求められている。そのため、城にも大勢の人々が出入りしている。


報告と作業の要請が一気に押し寄せているのだ。その慌ただしさに紛れてしまえば、フィカスが城から出ても、セプテムが訊き回ってもそれを見る者はいない。



「ん……どうも。」



話してくれた人に礼を言い、セプテムは歩きながら思考する。


流石にまだ情報が少なすぎるか。でも……。


国王の態度からして、フィカスの発言を良く思っていないのは確かだ。


けど……雰囲気を見る限り、すぐさま何かを実行するってわけじゃなさそうね。


パーティーの準備も同時に今、進められている。つまり、勇者を讃えること自体を取り消すつもりはないようだ。



「いや……理由が違うか……?」



パーティーの名目なんて、いくらでも変えられる。


最初は勇者のためのものでも、戦争勝利記念だとかに変更すれば良いだけの話だ。


となると……楽観視は出来ない。


最悪、処刑だ。


確たる証拠を掴みたい。



「噂になるには、まだ早い……ならば……。」



もっと深いところに行くしかない。


フィカスの思想を危険視するのであれば、早いうちに手を打つはず。


それを決める立場とすれば、国王の他にその直属の臣下だ。


後回しにすれば、今の感情も考えも消え失せていく。本当にフィカスに何かするつもりなら、記憶が鮮明なうちに伝達するはずだ。



「……行くか。」



ハンチングを目深に被り、セプテムはレグヌム城の深部へと歩み出した。


……この辺まで来ると、出入りが減ってくるな……。


変装していると、かえって怪しまれるか?


しかし、万が一に備えると素顔は見せたくない。



「……王様の独り言を聞いてしまったのだが…………。」



そんな声が曲がり角の先から聞こえた。


……!


壁に身体を寄せ、セプテムは聞き耳を立てる。



「……どういう話ですか?」



声の様子からして、年寄りと若者だ。



「新たな勇者の称号を授ける予定だったあの少年……良くない思想を持っているようだ。」



「良くないって……そういうのですか?」



……間違いない。フィカスの話だ。


会話の様子からして、まだ誰にも正式に言ってないようだ。



「そこまでは……だが、王様は不機嫌な様子でいらっしゃった。」



「そうですか……それってつまり、勇者は取り消しってことでしょうか?」



「それは分からん。しかし、その可能性は高い。」



「もしそうなら……残念ですね。前の勇者で悲劇が起こったばかりだというのに。」



……ここでも確たる話にまでは繫がらないか。


バレる前に引き上げるか。


その場から離れながら、再び思考する。


――まず、国王はフィカスを良く思っていない。


これは大前提だ。


けれど、そのことをはっきりと知る者はまだいない。



「でも……これ以上調べるところも……げ。」



正面から国王が歩いてくる。


隠れようにも、どこに行けば良いのかも分からない。そもそも、もう姿を見られてしまったから隠れようもないが。



「ん?君は……?」



「え……記者の者です。勇者についての記事を書こうと思いまして。」



くそっ……王が城内を歩き回ってんじゃないわよ。玉座にふんぞり返っていればいいのに。


けど……多分バレないわ。


この身長差に加え、ハンチングで顔を隠している。声を低く意識していれば、セプテムではない別人を演じることが出来る。



「ほう……耳が早いな。」



「……記者ですから。それで王様、新たな勇者についてどう思われますか?」



「新たな勇者か……ちょうどいい……。」



ここが核心だ。


一番の権力者がどう思っているかで、今後の動きが決まって……。



「奴は異常な思考を持っている。前勇者と同じく、危険な存在となり得る者だ。」



「えっ!?それはつまり……!?」



声がうわずってしまった。



「うむ。危険な芽は早く摘むに限る。」



想像以上にフィカスを危険視している。


それほどまでに、彼の思想はこの人にとって合わないものなのか。



「それはえっと……つまり彼を……?」



「大罪を犯す前に手を打つ。具体的には……牢に入れるだけでは危険か……それ以上のことを……。」



……もう良い。聞きたくない。


……そうだ。よく考えれば分かることじゃないか。


戦争は国益へと繫がる。


それを否定する思考は、国にとって邪魔でしかない。



「……分かりました。では、失礼いたします……!」



返事を聞く前にセプテムは駆けだした。


そもそも、インペリウム帝国の攻撃を真っ向から受けた国が、フィカスの意見を受け入れるはずがなかった。


フィカスの思想を受け入れられるのであれば、最初から戦争なんてしない。そうならない国策を練る。



「くっそ……!」



もう駄目だ。ここにいては。


城から飛び出し、フィカスを匿った家へと全力疾走する。



「おい!開けろ!」



到着すると、怒鳴り声とともに乱暴に扉を叩いた。



「はいはーい。死神に殺されかけたエレジーナでーす。おやおやー?セプテムちゃんじゃないかー?一体どうし……。」



「どけ!」



エレジーナを押し退け、乱暴に室内に入る。



「フィカス!行くぞ!」

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