122:告白
中庭に到着すると、誰かが待っているアベリアの傍から去るのが見えた。
「アベリア……今の人は?」
「あっフィーくん!ううん、何でもないの。気にしないで。」
「ああ……うん。」
はぐらかされてしまった気がする。
誰だったんだろう……遠目で一瞬だったからよく分からなかったけど、アモローザさんに似ていた……気がする。
もしそうなら、隠す必要がない気もするけど……。
「……駄目だ。」
余計な思考をするようになってきてしまっている。
忘我状態の後遺症か……?
何にせよ、仲間を疑うような思考は良くない。気を付けよう。
「フィーくん?何が駄目なの?」
「あっ……何でもないんだ。ただの独り言。」
……いけない。
余計な思考も、今の対応も。
全て不信感を煽るだけだ。
「そ、それでアベリア。話って?」
「えっ……とね。」
身体を左右に揺らし、チラチラと視線を送ってくる。
とても緊張していることが感じ取れた。
「大丈夫。落ち着いて。どんな話でも、僕はしっかりと受け止めるから。」
「本当ッ!?」
「え……うん。勿論だよ……?」
励ますために言ったつもりだが、想像以上に食いついた。
その気迫に押され、思わず後ずさりしてしまう。
「うふふ……えへへ……。」
本当に嬉しそうな顔を見せた後、真面目な顔に変わった。
「……フィーくん。伝えたいことがあるの。」
「――うん。」
彼女は一歩前に出、僕の正面に立つ。
そよ風が吹き、彼女の長く綺麗な蒼銀の髪が靡いた。
「私ね。ずっと前からなんだけど……。」
一度言葉を区切り、深呼吸。
目を閉じ、心を落ち着かせようとしているようだ。
「……よし。」
閉じていた瞼を開けた。
頬を朱に染め、キラキラと輝く瞳が真っ直ぐに目を見つめてくる。
「私は――フィーくん!ずっと貴方のことが……!」
「おっ!ここにいたのか英雄よ!」
「す……えっ?」
大きな声で呼びかけられ、そちらを見ると国王が歩んできていた。
「っと!何か話をしていたのか?」
「……いえ……大丈夫です……。」
……目が死んでいる。
「……あの……失礼します……。」
虚ろな瞳のまま、アベリアは暗いトーンでそう言うとその場を去ってしまった。
――タイミングがちょっとあれだったな。後でちゃんと聞きに行かないと。
「あの……王様はどうしてこちらへ?」
「うむ。愛娘のノウェムから既に聞いていると思うが、本日のパーティーの最後に、君の勇者式を行うことにした。そのことを伝えておこうと思ってな。」
「あ、ありがとうございます……。」
……勇者、か。
伝えないと駄目だよね。
自分の意思はきちんと伝える。そう決意したじゃないか。
「あの……いいですか……?」
「ん?どうした?」
国王の持つプレッシャーに押しつぶされそうになる。
もし受け入れられなかったら……いや、今はそれを考えるのは止めよう。
「あの……僕は……。」
息苦しい。思考が上手くまとまらない。
「僕は……人殺しをした。」
「なんだ?そんなことか?気にするな。敵を多く仕留めてこそ、英雄というものだ。その頂点に立つのが勇者。それを恥じることなど必要ない!」
「……えっ?」
やっぱり、そういう考え方なのか?
いや、それがきっと普通なんだ。僕の考え方が異常なんだ。
それでも……。
「それでも、誰かの命を奪うことが正しいだなんて、おかしいと思います。」
「……ほう?」
心なしか、国王からのプレッシャーが強くなった気がした。
けれど、今はそれに怯えては駄目だ。自分をしっかりと保って――。
「――僕は人殺しを正義だと認めたくない。だから……僕は勇者になりません。」
これが僕の意思だ。決意であり、本音だ。
「ふむ……おかしなことを言うものだ。それを本気で言っているのであれば……。」
ますますプレッシャーが強まる。
「君を……。」
「フィカス!」
セプテムが物陰から走ってきた。
「ノウェム様が呼んでいらっしゃるわ!早く来て!王様、失礼します!」
「えっセプテム?っと……失礼します。」
半ば引きずられるような形で、中庭を後にした。
そのままセプテムに腕を引っ張られ、寝泊まりした部屋の近くまで来たところで、ようやく掴む手を放してくれた。
「どうしたのセプテム?ここは……。」
「分かってるっての!ったく……あんたも感じてたんじゃないの?王様の考えとか……。」
「まぁ……うん。」
僕の意見を良く思っていないことは感じ取れた。
はっきりと断定は出来ないが、何か僕にとって悪いことを言おうとしていた気がする。
「だから、隠れて見ていたのよ。ああいう事態に備えてね。」
「そっか……。」
ノウェム姫が呼んでいるというのは嘘だったのか。
「……でも、どうしてああなるって分かったの?」
「それは……まぁいいでしょ。」
……アベリアの告白を見届けるためだったのは言えない。
「とにかく!あんたは一度どっかで……エレジーナの家にでも籠ってなさい!私が情報収集してくるわ!」