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マジックセンス  作者: 金屋周
第九章:日の出
125/222

122:告白

中庭に到着すると、誰かが待っているアベリアの傍から去るのが見えた。



「アベリア……今の人は?」



「あっフィーくん!ううん、何でもないの。気にしないで。」



「ああ……うん。」



はぐらかされてしまった気がする。


誰だったんだろう……遠目で一瞬だったからよく分からなかったけど、アモローザさんに似ていた……気がする。


もしそうなら、隠す必要がない気もするけど……。



「……駄目だ。」



余計な思考をするようになってきてしまっている。


忘我状態フローの後遺症か……?


何にせよ、仲間を疑うような思考は良くない。気を付けよう。



「フィーくん?何が駄目なの?」



「あっ……何でもないんだ。ただの独り言。」



……いけない。


余計な思考も、今の対応も。


全て不信感を煽るだけだ。



「そ、それでアベリア。話って?」



「えっ……とね。」



身体を左右に揺らし、チラチラと視線を送ってくる。


とても緊張していることが感じ取れた。



「大丈夫。落ち着いて。どんな話でも、僕はしっかりと受け止めるから。」



「本当ッ!?」



「え……うん。勿論だよ……?」



励ますために言ったつもりだが、想像以上に食いついた。


その気迫に押され、思わず後ずさりしてしまう。



「うふふ……えへへ……。」



本当に嬉しそうな顔を見せた後、真面目な顔に変わった。



「……フィーくん。伝えたいことがあるの。」



「――うん。」



彼女は一歩前に出、僕の正面に立つ。


そよ風が吹き、彼女の長く綺麗な蒼銀の髪が靡いた。



「私ね。ずっと前からなんだけど……。」



一度言葉を区切り、深呼吸。


目を閉じ、心を落ち着かせようとしているようだ。



「……よし。」



閉じていた瞼を開けた。


頬を朱に染め、キラキラと輝く瞳が真っ直ぐに目を見つめてくる。



「私は――フィーくん!ずっと貴方のことが……!」



「おっ!ここにいたのか英雄よ!」



「す……えっ?」



大きな声で呼びかけられ、そちらを見ると国王が歩んできていた。



「っと!何か話をしていたのか?」



「……いえ……大丈夫です……。」



……目が死んでいる。



「……あの……失礼します……。」



虚ろな瞳のまま、アベリアは暗いトーンでそう言うとその場を去ってしまった。


――タイミングがちょっとあれだったな。後でちゃんと聞きに行かないと。



「あの……王様はどうしてこちらへ?」



「うむ。愛娘のノウェムから既に聞いていると思うが、本日のパーティーの最後に、君の勇者式を行うことにした。そのことを伝えておこうと思ってな。」



「あ、ありがとうございます……。」



……勇者、か。


伝えないと駄目だよね。


自分の意思はきちんと伝える。そう決意したじゃないか。



「あの……いいですか……?」



「ん?どうした?」



国王の持つプレッシャーに押しつぶされそうになる。


もし受け入れられなかったら……いや、今はそれを考えるのは止めよう。



「あの……僕は……。」



息苦しい。思考が上手くまとまらない。



「僕は……人殺しをした。」



「なんだ?そんなことか?気にするな。敵を多く仕留めてこそ、英雄というものだ。その頂点に立つのが勇者。それを恥じることなど必要ない!」



「……えっ?」



やっぱり、そういう考え方なのか?


いや、それがきっと普通なんだ。僕の考え方が異常なんだ。


それでも……。



「それでも、誰かの命を奪うことが正しいだなんて、おかしいと思います。」



「……ほう?」



心なしか、国王からのプレッシャーが強くなった気がした。


けれど、今はそれに怯えては駄目だ。自分をしっかりと保って――。



「――僕は人殺しを正義だと認めたくない。だから……僕は勇者になりません。」



これが僕の意思だ。決意であり、本音だ。



「ふむ……おかしなことを言うものだ。それを本気で言っているのであれば……。」



ますますプレッシャーが強まる。



「君を……。」



「フィカス!」



セプテムが物陰から走ってきた。



「ノウェム様が呼んでいらっしゃるわ!早く来て!王様、失礼します!」



「えっセプテム?っと……失礼します。」



半ば引きずられるような形で、中庭を後にした。


そのままセプテムに腕を引っ張られ、寝泊まりした部屋の近くまで来たところで、ようやく掴む手を放してくれた。



「どうしたのセプテム?ここは……。」



「分かってるっての!ったく……あんたも感じてたんじゃないの?王様の考えとか……。」



「まぁ……うん。」



僕の意見を良く思っていないことは感じ取れた。


はっきりと断定は出来ないが、何か僕にとって悪いことを言おうとしていた気がする。



「だから、隠れて見ていたのよ。ああいう事態に備えてね。」



「そっか……。」



ノウェム姫が呼んでいるというのは嘘だったのか。



「……でも、どうしてああなるって分かったの?」



「それは……まぁいいでしょ。」



……アベリアの告白を見届けるためだったのは言えない。



「とにかく!あんたは一度どっかで……エレジーナの家にでも籠ってなさい!私が情報収集してくるわ!」


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