表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジックセンス  作者: 金屋周
第九章:日の出
124/222

121:姉妹

「えっと……中庭で待ってるからね!」



朝食を終えた時――。


アベリアはそう告げて早々に席を後にした。



「フィカス!たとえどんな結果になろうとも、俺たちは親友だからな!」



そして、ジギタリスがそう言って肩を叩いてきた。



「あ……うん。ありがと。」



いまいち話が見えてこない。


今の台詞からすると、ジギタリスにもアベリアの話が分かってるってことだよね?



「ねぇサンナ。アベリアの話って……?」



「ん?大丈夫です。友人の決意に茶々を入れるほど、私はひん曲がってはいないので。」



「えっ……うん。サンナのことは知ってるつもりだけど……?」



と、サンナと話してみても、ピンとこなかった。


口ぶりからして、セプテムも分かっているみたいだったし……うーん……。


考えても仕方がないか。


どんな話か、ある程度でいいから見当が付いていれば、心の準備も出来るんだけど……そればっかりはどうしようもない。


たとえどんな話であっても、真摯に受け止めよう。


……パーティを抜けるとかだったらどうしよう?


見当違いの心配をして、フィカスは中庭へと向かっていった。



それと同時刻――。



一足先に中庭に来ていたアベリアは、自分の胸を押さえて深呼吸を繰り返していた。



「あら?一体どうしたのかしら?」



「ふぇっ!?姉さん!?」



突然後ろから話しかけられ、全身を震わせて振り返ると、実の姉であるアモローザが木陰に佇んでいた。



「どうして姉さんがここに?」



「どうしてって……私も色々と今回の件に関わっていたからよ。その話でね……それで、貴方はどうしてここに?」



アベリアと比べ短い髪を揺らし、アモローザはゆっくりと近づく。



「冒険者なら、ここに用はないのではなくて?」



「あっ……ううん。フィーくんに……仲間のフィカスくんに話があって……。」



「ふーん……。」



その名前を口にする時、どこか恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうな表情を見せた。


さらに言えばあだ名。本当に親しい人には、何かあだ名で呼ぶと良いって子供の頃に言った気がするけど……なるほどね。


何かを確信し、アモローザは一人頷いた。


フィーくんってたしか……あの金髪の子よね?


雰囲気としては、良く言えば穏やかで優しそう。悪く言えば大人しい、消極的。細身の方であり、世間一般に言う殿方の理想像とは外れているけれど……。



「彼なら……悪くないかもしれないわね。」



「ふぇっ!?何の話っ!?」



彼はあの死神を倒した。その実力は申し分ない……どころか、国の英雄と言って差し支えない。昨日の今日でまだ広まっていないが、彼が戦争の立役者であるという話が広まるのは時間の問題だ。


そんな彼なら妹にも……どころか……。



「隠さなくて良いのよ?素敵な彼じゃないかしら?」



非常に貴重で希少な創造魔法の使い手。


そんな彼が婿に来てくれれば、フロス庭園も益々安定するというものだ。



「そ、そうじゃなくて……私は……。」



「いいのよ。素直になりなさい。」



アベリアの頭を撫でる。



「貴方が家出をしたことは分かっている……つもりよ。良家の娘であるという重圧に耐えられなくなったのよね。」



……違うんだけど。


そう思ったが、それを口に出来るほどアベリアは強くない。



「でもね……私は戻ってきてほしい。そう心から思っているわ。また、いいえ……これからは、二人で頑張っていきましょう?」



「二人で……え?お父さんとお母さんは?」



前に来た時は辛い思い出ばかりで気が回らなかったが、両親はどうしているのだろうか?


姉の口ぶりからすると、庭園はもう姉が運営しているようだが……。



「あら?そういえば、リアは知らなかったのね。両親はもう引退したわ。と言っても、まだまだ私の仕事ぶりに口出ししてくるけれどね。」



「そう……だったんだ……。」



家出する時には、きっともう引退を決めていたのだろう。


何だか悪いタイミングで家出してしまった気がしてきた。



「だから、貴方が気に病む必要はないのよ?けどね……。」



「けど……?」



アベリアは自分を撫でる姉を見つめる。



「私一人だけじゃ、どうしても大変なこともあるの。まだ本格的に仕事を始めて間もないけれど、分かるのよ。働くということが、どれほど大変なのかってことが。」



「……うん。」



自分たちで好きに決定し、行動出来る冒険者とは訳が違う。


それが分かっているがために、ただ頷くことしか出来なかった。



「ふふ……心配してくれるのね。やっぱり貴方は良い子だわ。」



撫でる手を止め、アモローザはアベリアに微笑みかける。



「だからね……リア、貴方が婿を連れてきてくれると、私としてもグランディフローラ家としても、とても助かるのだけれど……。」



「だから!フィーくんはそうじゃなくて……!」



顔を真っ赤にして否定する妹を見て、思わず笑ってしまう。



「ふふ、そんなに否定しなくても良いじゃない。それに、本当はどうしたいの?素直になってみなさい?」



「素直に……ローザ姉さん……私ね……。」



「あら?彼が来たみたいよ。それでは私は失礼するわね。」



そう告げてアモローザは早々と退散していってしまった。



「えっ?このタイミングで?」



……せっかく、久しぶりに本音で話せそうだったのに…………。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ