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マジックセンス  作者: 金屋周
第九章:日の出
123/222

120:朝食

暖かな日差しが振り注がれるようになってきているのを肌で感じながら、広い庭を当てもなくただ歩く。


二人は特に会話もせず、ただ黙って散策するだけだったが、それを気まずいだとか、心苦しいだとか感じることは一切なかった。


むしろ、静かに何も言わず歩くだけの方が、気が楽で落ち着けるとまで言えるほどだ。


丹念に動物の形にカットされた低木を見て、改めてここがどんな場所であるかが理解出来た気がする。たとえ歓迎されていたとしても、やはり上流階級の場であり、どこか違う世界のような気がしてならない。



「……そろそろ、戻るわよ。」



「うん。」



腹の空き具合からして、そろそろ朝食の時間なのだろう。


疲労感は未だに身体にあるが、日差しを浴びたことで幾分かすっきり出来た……と思う。



「あっ!いた!」



城内に戻ろうと歩いていると、扉が開いてアベリアが顔を見せた。


そして、こちらを視認すると駆け寄ってきた。



「起きたらいなかったから、ビックリしたわよ!お散歩してたの?」



「うん。早く目が覚めちゃったから……。」



「私も同じよ。」



フィカスとセプテムの顔を交互に見て、アベリアは安心したように溜め息を吐いた。



「そうだったのね~……そ、それでね、フィーくん。」



深呼吸をして、真っ直ぐに見つめてきた。


心なしか、頬が赤い気がする。



「この後、朝ごはんなんだけど……その後にお話があるの……いいかな……?」



「……?うん。いいよ。」



どうしてこの場で言わないんだろう?


そう疑問に思ったが、隣に立っているセプテムに気を遣ったのかもしれない。



「……うん!じゃあ、また後でね!」



「あ、いや、別に一緒に……。」



朝食はどうせ同じテーブルだろうから、一緒に行こう。


そういうことを言いたかったが、それを言い終える前にアベリアは走り去ってしまった。



「……今日はあんたにとって、人生の転機になりそうね。」



「うん。王様に自分の意思を伝えるのは緊張するけど、そうだね。」



「……そういう意味じゃないわよ…………。」



「……え?」



セプテムはそっぽを向いてしまい、意図が分からないまま会話が途切れてしまった。


……人生の転機?それ以外のことで?


ああ……アベリアの話か。だとすれば、セプテムはどんな話か分かっているってことだよね。


……当の僕だけが分かってないって、どんな話だ……?



「おう!来たな!ほら、座れよ!」



朝食の席に行くと、ジギタリスが豪華なテーブルを嬉しそうにさした。



「これほど豪勢だと、逆に困りますが……タダですし、遠慮なくいただきましょう。」



「あんた……それはそれで、どうかと思うわ。」



セプテムがサンナをたしなめ、席に着く。


目の前に所狭しと置かれた朝食を見て、思わず唾を飲む。


多分、上流階級……少なくとも、この城に住んでいる人にとっては、これが普通の朝食なんだよね。やっぱり、住む世界が違うなぁ。


……勇者も……スクォーラさんも、こういう食事をしたことがあるんだろうか?



「おっほ!めっちゃ美味いぜこれ!フィカスも早く食えよ!」



「えっ?あ、うん。」



気が付くと、皆食べ始めていた。


ジギタリスに勧められるがままにパンを口に運ぶと、その味に驚かされた。


これまで食べてきたパンとは全然違う。



「……ホントだ!凄い美味しいね!」



「そうでしょう!レグヌム自慢のコックが作ったのだから!」



後ろから元気な声がした。


口周りを食べかすで汚したノウェム姫だ。



「おはようございます。もうお怪我は……?」



「ええ!回復魔法をかけてもらったし、もう平気よ。」



そう言ってフィカスの持っているパンをヒョイと奪った。



「それよりフィカス。お父様から伺ったのだけれど貴方、勇者の称号を授けられるそうね。とても素晴らしいことだわ。」



「ありがとうございます……でも僕は……。」



ノウェムはフィカスの前に置かれているスープを飲む。



「……うん。美味しい!今日の夜に式を行うそうだから、よろしくね。それと――。」



「姫様!また油を売って!本日の予定はびっしりですぞ!さぁこちらに!」



臣下の人たちが駆け寄ってきて、ノウェムを羽交い締めにすると引きずっていった。



「あ、ちょ、まだ話が……。」



「問答無用!姫らしく業務をこなしていただけなければ!」



「ちょ、ちょっとだけ……。」



「駄目です!」



そんな会話が遠ざかっていくのを、呆然と見つめることしか出来なかった。


ふと我に帰り、フィカスが自分の料理に目を向けると、半分ほどなくなっていた。


姫様が食べただけにしては、減っている量が多い気がする。



「おう!中々食わないみたいだから、貰っといてやったぜ!」



「ああ……うん。そうなんだ……。」



…………まだほとんど食べてないのに……。

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