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マジックセンス  作者: 金屋周
第九章:日の出
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119:朝陽

ふと、目が覚めた。


欠伸を一つし、フィカスは寝ているベッドから身体を起こす。


……皆、まだ寝ている…………。


時計に目をやると、時刻は早朝を差していた。


身体にはまだ、疲れが残っている。


……良いベッドだと、かえって眠れないのかも。


思い返してみれば、ホテルに泊まった時もそうだった。今でこそ慣れたが、最初はギルドの宿泊室のベッドでもそうだった。


これが、性に合わないってことなのかもしれない。


――散歩でも、しようかな。


寝ている皆を起こさないように、そっと部屋を出る。



「ふぁ……眠い?かも……。」



ボーっとした頭で、とりあえず廊下を歩く。


どこに行こうか。そうだ……。


城内がどうなっているのか分からないので、壁伝いに進んで行き外へと向かうようにしていくと、目的地に到着することが出来た。


庭だ。


まだ薄暗く、澄んだ空気が充満している。


深呼吸を一つ。



「ふぅ……さてと……。」



早朝の空気を肺に入れることによって、少しばかり頭が冴える。


――僕はどうしたら良いんだ?


目を閉じ、自分自身にそう問いかける。


敵の軍師であるフォルフェクスを倒し、混乱を招いた災厄者である死神をも倒した。その実績だけを見れば、相当優秀な冒険者であり、讃えられて然るべきだ。


けど、自分がその立場になってみると、そう人事のように言っていられない。


これまで自分は、一つの観点からしか物事を見ていなかったことに、今回の出来事で気付かされた。



「……あんまり我が儘も言えないしな……。」



他人の命を奪うことで、新たな勇者と呼ばれることになるかもしれない。本当にそれを許容して良いものなのだろうか?


僕自身としては、それを否定したい。


けれど、国王から直々に勇者という称号を授かることになるだろう。


そのため、強く自分の意見を言うことが出来ない。もし強く反論しようものなら、今度は僕が迫害される立場となる。



「……やっぱり、受け入れるしか、ないのかな……?」



現状のことも、この考えと周囲との差も……。



「何の話よ?」



「へっ?」



突然後ろから声を掛けられ、肩がビクンと跳ねた。


後ろを振り返ると、セプテムがボサボサの髪を撫でていた。



「そんな驚かなくても……少し整えてから来るべきだったわね。恥ずかしい……で、何を考えていたのよ?相談に乗るわよ?」



相談か……話したとして、ちゃんと聞き入れてくれるだろうか。変なことを言っていると思われないだろうか。



「……仲間なんだから、遠慮しなくていいの。ほら?」



躊躇っている僕を見て、セプテムがそう言って手を差し伸べてきた。


その手を見つめてから、僕は頷いた。



「――分かった。話すよ。」



彼女の目を真っ直ぐに見つめ、自分の胸の内を明かした。


セプテムは途中、何も言わずただ黙って話を聞いてくれた。



「――なるほどね。」



自分の考え、葛藤を話し終えると彼女は静かに頷いた。



「あんたの考え方は分かるわ。私も同じだもの。」



怪盗シャドウは、世間からは悪という認識しかされなかった。けれどシャドウは、自分の正義に従って働き、活動していただけに過ぎない。


死神も同じだ。彼もまた彼の価値観に従って生きていた。


それを他人が軽はずみに口出しして良いはずがない。人には人の考え方がある。それに共感するかどうかは別として、そういう思考もあると受け入れることが大切だ。



「私はあんたの――フィカスの思考が理解出来る。その考えもまた、正しいと言える……と思う。でも……。」



セプテムの表情が暗くなる。



「周囲が……世間がそれを受け入れるとは限らない。というか、多分だけど認められないと思うわ。もし認められるのなら、そもそも戦争にまで発展しないもの。」



余所が認められない、異常だと思う。そういう考えの延長線上にあるのが、攻撃という手段だ。それの規模を大きくしたものが戦争である。



「けど……その考え方を捨てる必要はないと思うわ。たとえ認められなくても、それがあんた自身の考えってことに変わりはない。」



「でも……思っているだけじゃ、何も変わらないよ。」



どんな思考・思想を持っていようと、周囲がそれを認知しなければ、受け入れなければ、それは異端に過ぎない。戯言に過ぎない。


いつの世だって、少数の弱者は多数の強者に喰われるのだ。



「それもそうね。で、あんたはどうしたいの?自分の考えを捨てたいの?」



僕の考えか……これを僕はどうしたいんだ……?


少し考えて、すぐに答えが出た。



「捨てたくない。この気持ちを忘れちゃ……駄目な気がするから。」



「なら決まりね。」



セプテムが笑った。



「勇者にならなきゃいいのよ。パーティーは今日の午後からでしょうけど、賞与式はもっと後だと思うわ。それまでに王様に言うの。自分の意見をね。」



「もし……その時、駄目だったら?」



国王が受け入れてくれるという保証は、どこにもない。



「その時は……逃げるしかないわね。ふふ……その時は、付き合ってあげるわ。」



目の前が突然明るくなった。


朝陽だ。



「うん……分かった。」



その万が一が来ないことが、一番良いんだけど。


でも、心が軽くなった気がする。


やっぱり、相談して良かった。



「ありがと。せっかくだから……少し散歩していく?」



「そうね。そうしましょ。」

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