116:レイピア
動きが予測されているのか……?
ならば――!
「フィカス!一度下がれ!」
「ッ!うん!」
フィカスはスクォーラから距離を取り、サンナが入れ替わりで前に出る。
――まずは創造する時間を。そして……。
とにかく、時間を稼ぐ!
「無駄なことだ。」
サンナは素早くスクォーラの周囲を動き、隙が生まれるのを待つ……はずだが……。
動かない……!?
死神はサンナを追うとしなかった。前を向いたまま動かない。
「どういう……くっ……!」
斬りかかろうとしたその刹那、大鎌が目の前を横切った。
攻撃のタイミングが見切られている……!
――やはり個人技では……。
「なら!五人がかりだ!」
一瞬、何かが光った。
思わず目を閉じるが、目を開けると大鎌が振り下ろされた体勢となっていた。
「……まだ動けたのか。」
「回復したから、よ。似非勇者。」
セプテムの雷魔法だ。
彼女はジギタリスに傷を癒してもらい、死神に攻撃を仕掛けたのだ。
「――よし。」
サンナは飛び上がり、仲間の元に降り立つ。
「これで五人。全員で行きますよ。」
「ああ。そのための私よ。まぁ、あんたたちは好きに動きなさい。合わせてあげるわ。」
「ふん……余裕そうだな。それなら大丈夫か。」
そう言ってサンナとセプテムは笑い合った。
やっぱり……。
その二人の様子を見て、フィカスは密かに頷いた。
喧嘩したりそりが合わなそうな二人だけど、本当は上手くやっていけるみたいだ。
「フィーくん?どうかしたの?」
アベリアが何か気になる様子で声を掛けてきた。
「あ、いや……何でもない。」
うん。人を気に掛けて、自分が誰かに心配されちゃダメだよね。
「……行くぞ、皆!死神を……倒すんだ!」
「おう!」
フィカスが槍を創造し、それをジギタリスが一直線に投げた。
「斬るしかないよな!?」
大鎌がそれを斬った直後、セプテムとサンナが左右から飛びかかった。
……どちらを優先するか。
――答えは決まっている。
スクォーラは大鎌を振るい、サンナを遠ざけた。そして大鎌を捨て、腰に手を伸ばす。
「何をして……っと!」
魔法を繰り出そうとしたセプテムが手を引っ込めた。
避けきれず、僅かに血が流れる。
「レイピアか……そりゃそうか。」
元は勇者だ。普段から使用しているレイピアを携えていても、不思議ではない。
「けれど……!」
刃となる箇所がない武器だ。大鎌ほどの脅威はない。
「セプテム!」
短刀を創造し、セプテムに投げて渡す。
「……!流石!」
それをキャッチすると、そのままセプテムはスクォーラに斬りかかる。
左下から斬り上げ、それが阻まれると半身になり突き出す。
「……っ……!」
これも防がれた。
細身のレイピアで受け止めるとは……こいつ……!
魔法で攻撃しようとしたその時、脚を蹴られセプテムは倒れた。
「ぐっ……やろ……!」
レイピアの立ち回りじゃない……!
動きが荒すぎる。これは剣術というより……。
「まるで喧嘩だな!」
接近したサンナが二刀流で仕掛ける。
それを素早くレイピアを振って防ぎつつ移動し、不意にレイピアをも手放した。
「はっ……?」
捨てられたレイピアに思わず視線が釣られた。
直後、胴を掴まれ投げ飛ばされる。
「あだっ!?」
それは走ってきたアベリアの方向であり、サンナとアベリアは頭をぶつけ合って石畳を転がった。
「隙ありだぜッ!」
武器は二つとも捨てられた。
この瞬間なら……!
ジギタリスが大剣を持って死神に振り下ろした。
「……フン。」
「なっ!?」
スクォーラは転がっているレイピアを蹴り上げて握ると、それでジギタリスの大剣を正面から受け止めた。
上からの力がかかった大剣を受け止めるなんて……!
一瞬、フィカスは驚嘆した。
やはり、彼は勇者と呼ばれるだけの力量を持っている。そこに偽りはない。
……って感心している場合じゃない!
手裏剣を創造し、それを投げつけた。
これは躱されていい。その猶予が出来れば……!
「……。」
案の定、スクォーラは手裏剣を避けた。同時にそれはジギタリスから離れる行動でもあり、彼の大剣が石畳を叩いた。
「こ……んの……!!」
体勢を崩したジギタリスが死神を睨みつける。
――いくら凄んだところで、躱せない事実は変わらない。ここで……いや……。
スクォーラはジギタリスから視線を外した。
「チィ!」
判断力が良ければ勘も良い。
大鎌を拾い上げようとしていたサンナは顔を歪ませた。
拾うことは出来ても、そこから逃げる前に刺される。
諦めるか……。
翼をはためかせ、サンナは空中へと飛び退いた。
「次……か……。」
天使の女には退かれた。好判断だな。となると……次に打つ手は……。
スクォーラは後ろを確認せずにレイピアを突き出した。
「うぐっ……!」
拳を突き出した体勢で、アベリアの動きが止まった。
気付かれてた……!
中指から深くレイピアが突き刺さった。その痛みに歯を食いしばり、無理やり引き抜く。
防刃グローブでは、斬撃を防ぐことが出来ても刺突を防ぐことは出来ない。
「次だ……。」
立ち上がっている怪盗シャドウ。
奴が次なる脅威だ。だが……。
妙だな。
彼が動いてこない。