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マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
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115:本性

「……顔を見せるつもりはなかったが……仕方ないな。」



切り落とされたフードを見て、死神は溜め息を吐いた。


これまでと比べ、声が少し高い。ワザとしわがれた声を出していたということだ。


――それもそのはずだ。


これまでの全てが演技である。


認めたくないが、彼の素顔を見た以上、そう考えざるを得ない。



「まぁ……構わないか。どうせ、全員殺す。俺の正体しにがみを知る者はそれでいなくなる。それだけのことだ。」



彼はそう口にした。


そこには、何の感情も含まれていなかった。


そう、何もなかった。


情も、熱も……今まで過ごしてきた時間も。



「……本当にお前なのか……?」



信じられない、そういう口調でサンナが問いかけた。


すると彼はすぐに頷いた。



「ああ……これだから面倒だ。だから死神が生まれたというのに……。」



――表の姿は、本当に害しかない。


どれだけ持て囃されても、ストレスにしかならなかった。だから、その鬱憤を晴らすべく、死神として殺し合いを楽しんでいたのだが……。



「……認めるのか…………?」



「そうだ。これが俺だ。言いたいことでもあるのか?」



高身長の彼は不思議そうに訊いてきた。


これまでの自分の行いを、何とも思っていないかのように。


風が吹き、彼の赤紫色の髪が揺れた。



「どういうことだ!?勇者スクォーラ!!」



腹の底からサンナは叫んだ。


その言葉には怒りや失望、疑念の意が含まれていた。



「どうもこうもない。これが俺の本性だ。」



「ぐっ……お前はッ……なぜ騙していた!?答えろ!?」



訊きたいこと、言いたいことが山のように出てくる。様々な感情も相まって、うまく言葉が出てこない。



「騙すも何も……死神こちらが本業だ。勇者なんぞ、勝手に周りが騒ぎ出した結果に過ぎない。」



「勇者の名は……どうでもいいってことなのか……?」



冒険者にとっての憧れであり、国の誇り。それが勇者だ。


その勇者の名を持つ男は、ただ頷いた。



「どうでもいい。むしろ、邪魔な呼び名だ。おかげで変装しなくてはならない。万が一に備えてな。」



……躊躇いとか、惜しさとか、そういう類の感情は彼にはない。


淡々と、真実を伝えるためだけに口を動かしている。



「下らん戦争のせいで五月蠅かったが……これもよしとしよう。」



こうして目の前に、多くの狩り甲斐のある奴らが現れているのだから。



「勇者が……死神……か。」



信じたくない事実だ。


けれど、だからこそ、認めたくないが合点がいった。



「……大鎌じゃなくて、あなた自身の魔法がそうさせている……ですよね?」



「ああ。お前と同じくくりになる。」



フィカスの質問に対し、彼は認めた。


ナイフでも同じことが起きていたから、間違いないだろう。


彼の魔法センスは、刃物が全てを斬るようになる。



「やっぱり……そうだったのか……。」



だから彼は、レイピアを使っていた。


レイピアに刃となる部分はない。つまり、魔法が発動することがない。だからこそ、巧妙に隠せていたわけだ。


勇者には何の特異センスもない。誰もがそう思いこんでいただけだ。



「……最後に一つだけ訊きたい。」



「何だ?」



「……仲間に手をかけることに、何の感情もなかったのか?」



勇者の仲間たちは常に信頼し合い、強力し合ってきた。そして、リーダーでもある勇者を尊敬していた。


だのに。



「当たり前だ。奴らなど、どうでもいい存在だ。」



彼はあっさりと仲間を要らないと言った。


その言葉を聞いて、フィカスは怒りが込み上げてくのを感じた。


人にはそれぞれ信念がある。人によって考え方、捉え方が違う。


それは分かっている。それに文句をつけても仕方がない。それが人というものだ。



「……でも!それでも!!」



自分を信じ、友と、仲間と呼んでくれる存在がどうでもいい?


人の気持ちを踏み躙り、数多くの命を奪い、仲間である彼にさえ何の躊躇いもなく刃を向ける。


それを悪と呼ばずして、一体何を悪と言うのか。



「許さない!絶対に!!」



そう叫ぶと、フィカスはスクォーラに接近した。


創造イメージがいつもよりも早い。一瞬で武器が創れる。


剣を想像すると、感情のままに叩きつけた。


が、それはあっさりと斬られた。


大鎌の刃がフィカスの剣を裂き、手元に柄と短くなった刃だけが残る。それを捨て……。



「ほう……。」



二撃目。


新たな剣を創造し、またそれで斬りかかる。


それも斬られた。ならば、また次の剣を……。


――頭の中が真っ白になっていく気がする。


けれど、それによって思考が阻害されることはない。むしろ直感的に、ほぼ思考せずに次の選択をすることが出来る。


これは……。



忘我状態フローか。」



勇者が……いや、死神がそう呟いた。


景色が鮮明に、まるで明け方のような視界になる。死神の挙動全体が捉えられる。大鎌の動きがはっきりと見える。



「だが、それは無意味だ。」



また剣を斬られた。


動きが見えているはずなのに、上手く対応出来ない。


これは……?



「あいにく、それは体験済みだ。」



どれだけ速くとも、どれだけ見えていようと、関係ない。


一度見れば、もうそれは想定の範囲内だ。

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