113:連携・2
静けさを取り戻したと思われるレグヌム城下町に到着した時、ラフマが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「フィカスたち!」
その様子を見るだけで、何か起きていることが分かった。
やっぱり、向こうの偵察兵の情報は正しいってことなのかな……。
「何があったんですか?」
「死神だ!奴がいる!」
死神――。
その名を耳にするだけで、背筋が凍る気がした。
あの時、死神に殺されかけた記憶はまだ鮮明だ。ちょっとでも仲間の到着が遅れていたら、僕はそのまま殺されていたことだろう。
「死神が来てんのか……。」
「フィーくん?」
迷っている時間はないはずだ。
過去がどうであれ、今どうすれば良いか、それ自体に変化はない。
「行こう、皆。」
「はい……それでラフマ、場所は?」
ラフマは真っ直ぐ奥を指さした。
「このまま進んでいった先。あたしも行きたいけど、ここにいないといけないから……頼んだよ。」
フィカスたちは黙って頷いた。
そして、闇の中へと向かって走り出した。
――少しばかり、身体が重い気がする。
……大丈夫。何とかなる。独りじゃないんだ。もしもの時は、皆を頼れば良い。
死神の元に向かいながら、フィカスは自らに暗示をかけるように言い聞かせる。
「……!あれよ!」
夜の闇の中、目立つ赤いローブを纏った背の高い男。
彼の近くに負傷した燕尾服を着た少女。そして、ドレスを着た女性を背負った女性がいた。
「皆!大丈夫!?」
「……やっと来たか……頼んだわよ……。」
セプテムが振り向き、絞り出すような声でそう言った。
あのセプテムがこうなるなんて……どれだけ強いんだ……奴は……。
「姉さん!?」
「あらアベリア、貴方もここに来たのね。」
姉であるアモローザに駆け寄り、アベリアは彼女が背負っているノウェムを見た。
「姫様は……?」
「命に別状はない……はずよ。それより貴方、早くあの男を何とかなさい。」
特に襲いかかってくるでもなく、ただ立っている死神に視線を送る。
その態度は自信か余裕か……。
「……分かってるわ。だから姉さんたちは、どこかに隠れていて。」
「あら?勝負の行方を見守らせてもらうわよ?」
「えっ!?」
あの妹が自分に対して、ここまではっきりと意見を述べているのだ。その成長ぶりを見逃す選択肢はない。
それに……どうせ負けたら、誰もが死ぬ。逃げるだけ無駄だと考えて良いだろう。
「姉さん……ええ。それでいいわ。」
アベリアは溜め息を吐いた。
どうせ自分では、彼女を動かすことなんて出来やしない。ここは素直に言うことを聞き入れるしかない。
「……フィーくん。」
「うん。やるよ、皆。」
フィカスを中心にアベリア、ジギタリス、サンナが集まる。
「――余計な準備は整ったか?」
そう死神が問いかけてきた。
「ああ。……僕のこと、憶えているか?」
「当然だ。フィカス。」
意外な返答だった。
死神にとって自分は、有象無象の一つでしかないと思っていた。けれど、実際はそうではなかったらしい。
「あの時は仕留め損なったが……今回はそうはいかんぞ。」
「あの時のようにはいかないさ。」
決意でもあり、払拭でもあった。
「……それは楽しみだ。」
死神が右足を動かした。
それと同時に――。
「――ハッ!」
アベリアが飛び出した。
肉体強化魔法で跳躍し、一瞬で死神に詰め寄り拳を向ける。
「……。」
死神は身を捩り、左手でアベリアの腕を掴んだ。そしてそのまま、流れのままに引っ張り地面に引き倒した。
「ッ……っと!」
倒れたアベリアはすぐさま両手を石畳につけ、逆立ちするように身体を起こした。そして腕を曲げ、空中へとジャンプした。
ワンテンポ遅れて、大鎌がその位置を横切った。
――今だ。
死神が空振りし、こちらに背を向けている。
サンナは金色の翼を広げ、滑空し接近する。
「フィカス!」
死神が自分の方を向いた瞬間、サンナもまた空中へと飛んだ。
――これで正面が空いた!
フィカスはすぐさまブーメランを創造し、間髪入れずにそれを投げつける。
「オラアァァッ!!」
ジギタリスがブーメランを追いかける形で走った。
これで……空から二人の攻撃。正面にブーメラン。それと時間差でジギタリスの大剣。
アベリアの攻撃はともかく、サンナの攻撃を避けきることは難しい。なぜなら、飛べるからだ。翼で自由に宙を動ける彼女から逃げることは、地上の生物にはまず無理だ。
……打ち合わせした様子はなかった。即興でこの連携か。
「――面白い。」
ただ一言、死神はそう呟き、行動を開始した。
まず、大鎌を宙にいる二人めがけて投げつけた。
「……ッ!」
狙いは雑だ。当たることはない。けれど、これにより攻撃のタイミングがズレた。
アベリアは空中で身体を捻って躱し、そのまま着地した。
――次は正面だ。
懐から再びナイフを取り出し、それを正面に向けた。
「ハァッ!?」
ブーメランはナイフに当たると真っ二つに裂け、失速するとともに落下した。
その様子を見て、ジギタリスは慌てて止まる。
大鎌だけじゃねぇのかよ!?
「……。」
派手な音を立てて落下した大鎌を拾い上げ、死神はフィカスに向かって走り出した。
「次は……。」
お前だ。
フードの奥から、そう言葉が零れてきた。