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マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
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112:行動

いつの間にか戦場の騒がしさは消え、真夜中の静けさが辺りを支配していた。


恐らく、敵味方双方の戦力がほとんど倒れたことだろう。今この場で動けるのは、ほんの一握り。その一握りの人物たちが一か所に集っていた。


……敵の増援が来る気配もないし、そもそも物音がない。


戦争が良い方向へと動いているのかもしれない。けれど、それ以上に気になることがあった。こちらの戦力の話だ。


戦っている者が他にいないのであれば、ここに来てもおかしくはない。しかし、実際にこの場に来る者はいない。つまり、他で戦死したとも考えられる。


――あの勇者がやられるとも思えないが……気になるな……。



「……何を思考している?さっさと来い。」



「……煽られちゃ、行かないわけにはいかない、か。」



――優位なのはこちらだ。怖気づくな。


左手を死神へと向け、雷魔法をセプテムは放った。


それと同時にアモローザは水魔法を、ノウェムは氷魔法をそれぞれ放つ。



「フン……。」



大鎌を地面と水平に振るい、全ての魔法を切り裂いた。


そこに、大きく踏み出したノウェムが接近し、首元めがけて剣を振るった。


死神は大鎌を上げて柄でノウェムの剣を受け止めた。そこに脇からセプテムが接近し、短刀を腰めがけて突き出す。


そしてアモローザが水の膜を死神の背後に張り、退路を断った。


……抜け出せない、か。


ノウェムの剣の扱いが上手い。大鎌を動かしてシャドウの攻撃をも防ぎたいが、それを許さないように仕掛けてきている。


さらに背後には水の障壁。これをくぐり抜けるのは難しいだろう。


身動きが許されないこの状況。


ならば……。



「エッ!?」



死神は大鎌を手放した。


対抗していた力が消え、ノウェムは込めていた力を制御出来ず前のめりになり、そのまま水の膜に顔を突っ込んだ。



「……ぐっ!」



アモローザは慌てて水を消した。


このままにしておいたら、ノウェムが窒息死する恐れがあったためだ。


だが、これにより死神の退路が出来たことにもなった。



「逃がすかっ!」



いくら退けるようになったとはいえ、もう短刀は間近に迫っている。このまま刺せば……。



「逃げなどしない。」



肉薄するセプテムに対し、死神は静かにそう答えた。


ローブの中に手を伸ばし、ナイフを取り出した。


そしてそれを、無造作にセプテムの肩に突き刺した。



「はっ……があああぁぁっ!?」



肉を貫通し、骨に突き刺さった。その痛みに咆哮し歩みは止まる。


何が起きた!?なぜこんなにも簡単に刺さるんだ!?


握っていた短刀を思わず落とし、セプテムは右肩を押さえる。



「……。」



「がっ……ぐっ……!?」



死神はセプテムの腹に蹴りを入れると、悠々と手放した大鎌を拾い上げた。


そして、立ち上がるノウェムにその刃を突きつける。



「……ッ!」



ノウェムは死神を睨みつけたまま、動かない。


……動いたら、殺られる。



「……!」



その様子を後方から見ているアモローザもまた、動けなかった。


ここで下手に動いたら、姫様の身が……どうしたら……?



「……油断してんじゃ……ないわよ……ッ!」



死神の背後でセプテムが吠え、火球を投げつけた。



「……。」



死神は後ろを見ずに、横に動いて炎を躱した。



「ッ……!」



死神が避けたことにより、自分に向かってくる炎をノウェムは氷壁を創り受け止めた。


これで動ける……!


セプテムの魔法で、死神のこちらに向けられていた刃がいなくなった。ノウェムはその隙に動き出し、死神に迫っていく。


ここで退くという選択肢は端からなかった。



「覚悟なさいっ!」



剣の柄を強く握り、鋭い突きをノウェムは繰り出した。



「……五月蠅い奴だ。」



大鎌の柄を握る力を緩め、掌を滑らせる。そして、刃のすぐ根元で握り直し、それを振ることでノウェムの剣を真っ二つに斬った。



「そんな……!?」



短く持ち替えることにより、中距離まであった攻撃範囲はなくなったが、短くコンパクトに振ることが可能となり、近接戦に対応出来るようになる。


振った刃をそのまま自分の身体に引き寄せるように動かし、長くなった柄をノウェムに突き出した。



「ぐぅ……!」



腹部を強く突かれ、よろめいたところに左右から滅多打ちにし、ノウェムは地に伏した。


……今のは棍術か……!


ただ強いだけではない。対応力が凄まじい。


判断力もそうだが、実際にその場面に直面した時に、すぐさま行動出来る実行力がある。まさに歴戦の強者だ。



「こんのっ……!」



セプテムは思いつくままに様々な魔法を連射し、死神をその場から動かさせる。



「アモローザ!ノウェムを連れて行け!」



「え、ええ!」



いくら死神といえど、絶え間なく撃ち込まれる魔法を前にして、ノウェムへ攻撃を仕掛ける余裕はないはず。


当たらなくていい。ただこちらに注意を引きつけられれば、それでいい。



「くっそっ……化け物め……!」



死神がじりじりとセプテムに接近していく。


これほどまでに魔法で攻撃されているというのに、それらを全て大鎌で切り裂き、僅かに生まれた隙に動いてくる。



「貴方も逃げてちょうだい!」



アモローザは倒れているノウェムを何とか背負い、逃げながらそう叫んだ。


右肩を刺され、あの子はもう武器を振るえない。


それでは勝ち目はない。魔法は切り裂かれ、通用しない。そもそも、魔法を使うのにも体力と集中力を要する。もう長くは持たないはずだ。


……勝てない。


その言葉が頭に浮かんだ。


逃げるしかない。いや、逃げたところでそれは延命にしかならないのかもしれない。


どうすれば……もう……。


暗い感情が浮かび上がってくるその時、外から声が聞こえた。



「皆!大丈夫!?」

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