表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
113/222

110:選択

大鎌は歪な軌道を描き、剣が根元から落ちた。そのまま迫りくる追撃を後ろに転ぶように回避し、思わず舌打ちをする。



「……くっ……!」



……規格外の強さだ、死神こいつは。


助けに行かない方が、案外賢い選択だったのかもしれないな。


そんなことを考えつつも、マカナは死神から距離を取り、別の武器を取り出した。



「……魔法による攻撃も効果が薄いみたいだし……どうするよ?」



折れた杖を持ったネモフィラは真っ直ぐに死神を見つめる。



「――ここで退くわけにはいかん。持ちこたえるぞ。」



「……そうは言っても……。」



エレジーナも当てにならない。


そう言おうとして、マカナは喋るのを止めた。たとえ気休めだろうが虚言だろうが、前向きな気持ちを保てる方がいい。だから、現実的な発言は控えた方が良いと判断したのだ。


――けど実際、エレジーナが来ても戦局は変わらない気がするな。


俺とウルミとネモフィラの三人では、どうにも火力が足りない。おまけに小細工もあの大鎌には通用しない。


……どうする?



「……マカナ。」



「うおっ喋った。で、何だ?」



ウルミが俺に口を利いたのは、これが初めてだ。今はどうでもいいけど。



「……潮時。」



「……そうだな。」



ここで無理してまで戦う理由なんてない。自分の命は一つだけだ。


プロを名乗るならば、自分と相手の実力を見定め、それに準じた対応が求められる。つまり、この場においては――。



「俺たちはここで退く。」



「……そうか。」



意外とクールな反応だな。


そう思った。ここを去ることにどれだけ憤怒するかと思いきや、この冷静さ。もしかしたら、最初から頼りにしていなかったのかもしれない。



「まぁ余ってる戦力を代わりに誘導しといてやる。だからまぁ……頑張れ。」



せめてもの罪滅ぼしか。罪悪感からか。


考えてもいないことが、言葉となって飛び出してきた。


……でも結局、そうしないとダメだろうしな。


ここでネモフィラが死んだら、そのまま死神は移動する。となれば、遅かれ早かれ町にいる奴は全員殺される。



「行くぞ、ウルミ。」



「……。」



無口に戻った。どうでもいいか。


死神とネモフィラの両者に背を向け、駆け足でその場を去った。


……大半は既にやられている様子だった。呼べるとすれば……。



「っといいところに。」



「ん?君はエレジーナの……。」



セプテムもとい怪盗シャドウ。それと金持ちの……アモローザだっけ?



「セプテム、奥に死神がいる。相手を頼んだ。」



「今の僕はシャドウだが……まぁいい。で、君は?」



君?俺一人だけが対象か。ウルミはどうした?


……既に遠くを走っていた。止まりもしなかったらしい。



「俺は逃げる。命が惜しいからな。」



金は大事だ。けれど、それ以上に自分が大事だ。


だからこそ、状況によっては逃げもするし隠れもする。


どんな時でも自分の都合が優先で、絆や信頼よりも自分の価値観。それがマカナという少年だ。



「あっそ。好きにしろ。行くぞ、アモローザさん。」



「ええ。ではごきげんよう。」



「……どうも。」



生き延びる前提か。大したもんだ。


でも、それくらいでちょうどいいかもしれない。絶対的な自信と精神。それがなければ、どれだけ強くとも生き残れないだろう。


……死神にも、そういう何かがあるのか?


ふと疑問に思ったが、考えるのはやめにした。


考えるだけ無駄だ。どうせ、生きるか死ぬか。どっちに転んでも、その信念やら信条やらを聞くことはない。



「……賢い選択ではあるな。」



「あら?何か言ったかしら?」



「いいや、何も。」



情や雰囲気に呑まれ、自分の判断力を見失うことが、一番命を落とすことに繫がる。どんな状況下においても、冷静に非情な判断を下すことが生き残るコツだ。


だからこそ、彼は賢い。


死神を倒したら、その考え方を教えてもらおうか。色々と参考になりそうだ。



「――あれか。」



赤いローブに全身を包んだ、背の高い人物。


本人を見たことはないが、あれが死神で間違いないだろう。



「おい!下がれ!」



一人で奮闘する男――ネモフィラにそう怒鳴り、入れ替わるように前線に立つ。



「僕たちがここからはやる。君は入り口の方に行っていろ。」



「いや、俺はまだやれる。このまま……。」



「いいから言う通りにしろ。いても足手まといになるだけだ。」



合わせたことのない奴と共闘なんて、自殺行為に等しい。尚且つ、彼は既に疲弊している。


ただでさえ、合わせたことのないアモローザとタッグを組むというのに、そこにこいつまで入ってきたら、いよいよ動けない。



「……分かった。任せる。」



「ああ。……それと、オオカミの少女は見たが、幽霊と勇者はどうした?」



ラフマは瀕死の姿を見たが、あとの二人は見ていない。この戦況で見かけないということは……あり得ない話ではない。



「知らん。戻りがてら、一応捜してみる。ここは頼んだ。」



「ああ。」



去ったネモフィラを頭から削除し、目の前の敵を見据える。


さて……どう戦うか……。



「僕が前に出る。アモローザさんは後方から魔法で援護を。」



「ええ。任せてちょうだい。」



とりあえず、こうするしかないな。呼吸も合わないだろうし、並んで立つのは危険だ。



「少しでも怪しいと思ったら、攻撃は止めてくれよ?」



「あら、誰に向かって言っているのかしら?」



この状況で軽口を叩けるのなら、何も問題はないか。



「……さてと。」



息を深く吸い込み、セプテムは集中する。


――やるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ