108:戦線
「ん……?何か騒がしいな……?」
敵の援軍が来る様子もない。
すっかり暇になってしまったセプテムは、ふと町中の方が騒がしいことに気が付いた。
これまでの戦場だから、という騒ぎ方とは何かが違う。
「何事だい、アモローザ嬢?」
「さぁ何かしらね?それよりも貴方、見張りはいいのかしら?」
「特に増援が来る様子も……っと、そんなことを言っていたら……。」
誰かがこちらに向かってくる。
大きさの違う、三人分の影だ。
「……って君たちか。」
掌に火球を創り出したところで、セプテムは魔法を消した。
「どうもーエレジーナ一行でーす。」
「どこに行っていたんだ?」
戦争が始まる少し前から、エレジーナたち三人の姿が見当たらなかった。
この町のギルドに登録している冒険者だというのに、どこにもいないから皆が捜していたのだ。
「ちょっとお仕事でねー……まぁそれも終わったから、今更ながらお手伝いをしようと思ってね。六号ちゃんとマカナくんも一緒に。」
「はいはい。それじゃあ、奥を見てきてもらおうか。何だか騒がしいからね。」
「了解でーす。」
既に戦闘済みか……?
少しくたびれた様子であり、ウルミとマカナの衣装は汚れていた。
何か一悶着あったのだろうか?
まぁだとしても、そこまで疲れている様子ではなさそうだし、問題はないか。
セプテムはエレジーナから視線を外し、再び町の外――森の方へと視線を向けた。
「うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
戦場では続々と悲鳴が上がっていった。そして、それと同時に死体の山が築き始められていた。
死神はその大鎌を振るい、レグヌム・インペリウムを問わず片っ端から攻撃を仕掛けていた。
その刃はあらゆる魔法・防御を引き裂き、全てを一撃で葬っていった。
「まさかここに現れるとは……災厄者め!」
ネモフィラが劫火を死神に向けて放った。
「ふん……魔法では温い。」
大鎌が一振りされると、炎は真っ二つに裂かれ左右に飛び散った。
チィッ……!
全てを切り裂く大鎌。やはり魔法では効果が薄いか……!
だが、近接戦には一撃死の危険が伴う。安全を取るなら、遠距離からの魔法による攻撃だ。
しかし、それだけでは決定打に欠ける。そればかりか、魔法に限界がきたところに接近される恐れがある。つまり、一人だけではどうにも戦いにならない相手だ。
「うらっ……アアアァ!!」
咆哮とともに、衝撃波が死神の背後を襲った。
「……。」
死神は肩を大きく回し、大鎌を背中側に向かせた。その刃に衝撃波が触れると、それは裂かれローブを僅かに揺らすだけとなった。
「くっそぉ……やっぱとんでもないな!」
「ラフマ!いいところに来た!二人でやるぞ!」
死神を挟み、ネモフィラとラフマは頷き合う。
前回やった時は、三人がかりでも勝てなかった相手だ。どう戦う?
「……考えても仕方がないっつーの!」
ネモフィラが思考している最中にラフマが動いた。
「チッ……またあいつは勝手に動いて……ラフマ!好きに動け!援護は任せろ!」
「あいよ!」
石畳を強く蹴り、左右にフェイントを入れながら死神に接近していく。
衝撃波での攻撃は掻き消されるだけだ……!
なら……近距離で斬る!
獣の爪を構え、一段と強く石畳を蹴ると、一気に死神の真正面まで詰めた。
そして救い上げるようにその爪を振るった。
「んなっ!?」
だが、死神はその攻撃を避けた。
ただ速いだけではない。
読まれた!?
「退け!」
ネモフィラの声がした。
ラフマはジャンプして後退すると、紙一重で刃が通り過ぎていき、続いて炎が死神を包んだ。
が、炎の渦から銀色の刃が飛び出した。そのまま縦横無尽に刃は動き、炎を斬り消した。
「くそっ……やはり攻撃に使うだけ無駄か。」
「なら、援護に使ってもらおうかー。」
「ッ……貴様はエレジーナ!?」
以前、襲いかかってきた冒険者だ。
だが、今は過去の出来事などどうでもいい。戦力があればそれでいい。
「――いいだろう。俺が炎で援護する。貴様はラフマとともに前線で動け。……仲間はどうした?」
「二人には、別のところを調査してもらってるよ。負傷した人を助けないといけないしねー。救護兵くらい、いるんでしょ?」
「ああ。ならばそれでいい。いくぞ!」
ネモフィラは再び炎を発射した。
一直線に伸びる炎を死神は左に避け、動いた先にラフマが飛びかかった。それと同時にエレジーナも動き出す。
あの大鎌で炎壁を斬る時間はないはずだ。
右には移動出来ず、ラフマを避けようとエレジーナの追撃が残っている。
全てを躱すことは不可能だ。
「……甘く見られたものだな。」
死神は弧を描く刃を下に向けた。
「何を……ッ……!?」
柄で空中にいるラフマの腹部を突き、そのまま衣装に引っ掛けると柄を動かした。
まるでハンマーかのように振るい、ラフマをエレジーナへと叩きつけた。
「わっとっ!」
避けるとラフマが頭から石畳に落ちる。
そのためエレジーナはそれを避けることが出来ず、ラフマを受け止めた。
そしてそこに、死神の大鎌が迫ってきていた。