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マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
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107:強襲

腕を振り下ろした直後、目に映る景色が変わった気がした。


あれほどまでの鮮明な景色は消え失せ、暗闇と言って差し支えない森の闇に戻った。



「……ハッ……ハァ…………!」



自分の呼吸が異常に荒い。


身体に力が入らない。


思考が回らない。


一言で言うならば、凄まじい疲労感だ。



「……忘我状態フローの限界がきたようだな……フィカス……。」



フォルフェクスが真っ直ぐに目を見つめてくる。



「……君の勝ちだ。」



そう言うと、彼は膝から崩れ落ちた。


派手な音を立て、手から滑り落ちた刀が落下した。



「…………勝った……?」



実感が湧かなかった。


思い返してみれば、自分の力だけで勝った勝負はなかったように思える。



「フィカス!無事だったか!」



後方から聞き慣れた声――けれども、ひどく懐かしい気がする声がした。



「みんな!うん……僕は無事……かどうかは……分からないけど。」



皆の顔を見たら、不思議と先ほどまであった疲労感がなくなった気がした。



「フィーくん!良かった!良かったよ!」



「わっと……痛いよ、アベリア。」



飛びついてきたアベリアを受け止めたが、その衝撃で身体が悲鳴を上げてしまった。



「わ、ごめん!でもフィーくんが生きていて、本当に良かったわ!」



生きている。


その言葉がズシリときた。



「で、この男……フォルフェクスは虫の息、ということですか。」



「君たちは……そうか……あの時に、私に探りを入れていた……のか……。」



サンナとアベリアの顔を見て、納得したような表情になった。



「さて……ここで始末しますが、遺言はあるか?」



ナイフを取り出し、サンナはフォルフェクスに突きつける。


殺す……か。


当たり前か。それが戦った意味でもあるんだから。


でも……本当にそれでいいのか……?



「ふ……この傷ならば、何も……しなくとも……じきに死ぬ。だが……。」



フォルフェクスは歯を食いしばる。



「一つ……言っておく……フィカス!私のようには……なるな!君は生き方……を……間違える…………な…………。」



「……どういう……意味?」



そう問いかけたが、返事が返ってくることはなかった。



「……死にましたか。これで、戦争も終わりですね。思っていたよりも短いものですね。」



……そうか。


さっきの感覚は、これだ。


僕が、この人の命を奪ったんだ。



「すげぇぜフィカス!一人で勝っちまったんだからよ!」



「ですね。英雄として崇められるかもしれませんね。」



「え、う、うん……。」



英雄……それって何だ?


人を殺す人が英雄なのか?



「ううん。フィーくんは間違ったことはしてないよ。だから、何も悩まなくていいの。」



考え事が伝わってしまったのだろうか。


アベリアの言葉に、とりあえず頷く他なかった。



「では、レグヌムに帰りましょう。そして、明日からまたクエストをやっていきましょう。目標が出来たので。」



そう言うサンナの横顔は、いつもよりも険しかった。



「……何かあったの?」



「……エレジーナとなんかあったみたいだぜ。そっとしといてやれ。」



「……うん。」



ジギタリスと小声で会話をし歩きだしたその時、走ってくる影が一つあった。



「ぐ、軍師殿!大変です!なっ!お前たちは!?」



帝国の視察兵だ。



「フォルフェクスなら死にましたよ。お前もここで……。」



「い、いや!もうお前たちでもいい!戦争どころではない!」



「は?」



「レグヌムの戦場に、第三者が現れた!そいつが双方の兵士を殺戮している!俺はもう逃げるぞ!」



それだけ言うと、視察兵は奥へと駆け抜けていった。


第三者?


それって……?



「……なんか嫌な予感がすんな。急ごうぜ!」












レグヌム城下町――。


フィカスとフォルフェクスが戦い始めた頃、戦場となっていたこの地では敵味方問わず入り乱れていた。



「ひ、ヒィ!化け物だァ!」



「化け物呼ばわりは酷いなぁ。」



リコリスは霊体を利用して敵に突っ込み、攻撃する瞬間だけ実体化するという戦法を取った結果、化け物認定されていた。



「さて、と……。」



これであらかた片付いたかな?


ってまぁ、僕の近くにいるのはって話なんだけど。


他には当然ながら、まだ沢山の敵兵がいる。



「にしても……本当にスクォーラくんの言った通りになったなぁ。」



霊体であるリコリスは周りをよく観察出来ていたが、これだけ人がいる状況では、他の人は周りを見る余裕なんでないだろう。


自分の面倒は自分で見るしかない。


さて……どこに行こうか?


ラフマとネモフィラくんなら、応援に行かなくても平気だろう。スクォーラくんならば、尚更だ。


入り口の方はシャドウと美人さんがいたはずだし……もう少し深いところに行ってみようかな。


霊体のまま道路を歩き、入り口から離れた地点へと足を運ぶ。



「幽霊の状態でも、飛んだり出来ないっていうのは、何だかなぁ……絵本に出てくる幽霊は大抵、飛べるっていうのに。」



なんてのんきなことを呟くくらいには、余裕があった。



「……え?」



曲がり角に差し掛かった時、自分の胸から刃が飛び出ていることに気付いた。


あれ?今は霊体だよな?何で刺さっているんだ?



「ほう……幽霊でも斬れたのか。あの時、逃がしてやる必要はなかったということか。」



「……は……はは……。」



戦争という目の前の問題に集中していたせいで、完全にその存在が頭から抜けていた。


そりゃそうだ。これだけ強者が集まるんだ。その機会を逃すはずがない。


赤いローブ。大鎌。


死神だ。

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