10:勉強
ギルドから離れたところにある学校――そのすぐ近くに図書館はある。
子供の声が微かに聞こえるそこに入ると、昼下がりだというのを忘れてしまいそうな穏やかな空間だった。
明るいが物音がほとんどせず、まるで時間が止まっているようだ。
「さて、武器の勉強からですかね。」
「おう。頑張れよ。俺は新聞を読んでるぜ。」
「私は……そうね~。お花の本でも読もうかしら。」
二人は自分の読みたいものを探しにいってしまい、武器図鑑を取ってきたサンナとフィカスだけが取り残される。
「えっと……サンナ……?」
「文字の勉強は、新聞でも読んでしてください。まぁ文字が読めなくても死ぬことはないので、後回しです。」
ペラペラと本をめくる。
「フィカスに覚えてもらうのは……弓矢などの武器です。」
「弓矢か。大体イメージはつくけど……。」
本物を見たことはないが、どういう見た目かはなんとなく分かる。
「大体、ではなく、正確にイメージしてください。」
弓矢が描かれたページをフィカスに見せる。
「状況に応じて、適宜武器を使い分けられるというのは、強力です。」
「うん。言いたいことは分かるけど……。」
実際にイメージできるようになるかは別の話だ。
ぼやっとしたイメージで創ろうとすると、本当にそのまま出てきてしまう。
はっきりと、鮮明にイメージをする必要がフィカスの創造魔法にはある。
けれど、人間の頭にとって、何かを鮮明にイメージすることは非常に難しい。普段、日常的に見ているものでさえ、くっきりと思い描くことが難しいのだ。
「これと同じ物を想像するためには、まったく同じイメージができないといけないんだ。そんなすぐにはできないよ……。」
「つまり、スケッチをするような感じですね。」
「うん。そんな感じ。」
完璧な模写が頭の中で必要となる。それを一朝一夕でこなすというのは、天才と呼ばれる類の存在でなければ、不可能というものだ。
「なら、もっと簡単な物から練習を……生物を創造することは、できるのですか?」
サンナの問いかけにフィカスは首を横に振った。
「ううん。それは無理。生き物とか水とか食べ物とか……そういうのは出てこなかった。」
その理由はフィカス本人にも分からなかった。試してみても、何も起こらなかった経験がある。
「万能ではないということか……というか、気が付かなかったが、本を持ち歩いていればいい話だ。クエストで金を稼いで、本を買いましょう。それを読めば、いつでも欲しい物が創れる。」
「あー……確かに。」
これまで考えたこともなかったが、その通りだと思った。
何も頭の中に詰め込む必要はない。知識というのは、本として持ち歩くこともできるのだ。
「なら、ここに来たのは完全に、とはいかずとも無駄足でしたか。」
「いーや。無駄足じゃないぜ。」
新聞を抱えたジギタリスが近づいてきた。
「何か面白い記事でも?」
「おうよ。多分、ギルドにもクエストがくるぜ。怪盗シャドウの予告状が届いたんだとよ。ほら。」
テーブルに新聞紙を広げ、その一角を指さした。
その記事に何て書いてあるかフィカスには分からなかったが、ジギタリスの言葉から怪盗シャドウとやらについて書かれていることが容易に想像できた。
「町の美術館に来るんだってよ。賞金はとんでもない額に違いない!やろうぜ!」