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マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
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106:直感

小剣を強く握り直し、フィカスは思考を巡らせる。


相手の武器は刀。中距離戦は相手の間合いだ。もっと近づくか、遠距離から攻撃するしかない。相手の魔法がある、武器を壊すことは諦めた方が良い。


最善手は……。


その解答が出てくる前に足が動き出していた。


……武器を無視して倒す。


これだ。


距離を詰め、全体の様子を窺いつつ刃を振るう。


一手目、互いの刃がぶつかり合った。


ならば……。


素早く逆手に持ち替え、右回りから大振りの攻撃を仕掛ける。


フォルフェクスは柄を握る手を正面のままに、刀を左斜め下へと向けフィカスの小剣を受け止めた。



「……!」



読まれた?いや……まだ分からない。


小剣を上に向けて振ると同時に手を離し、敵の刀を上向きに弾く。


そして落下してくる小剣を宙で掴み、そのまま胸に向かって突き出す。


が、フィカスは直前で腕を引っ込めた。


直後、フォルフェクスの空いていた左手が空を掴んだ。


――あのまま腕を伸ばしていたら、掴まれて反撃カウンターを喰らうところだった……。


……やはり、読まれている?きっとそうだ。



「今の君であれば、既に理解していることだろう。」



刀を動かしながら、フォルフェクスが語りかけてきた。



「今の私はフィカス……君の動きを予測した上で戦っている。」



細かく腕を振って、フィカスは器用に刀の猛攻を捌いていく。



忘我状態フローは強烈な能力だ。だが……脳の働きが素晴らしいだけの状態。ならば、それを前提にした動きを取れば良いだけの話だ。」



「それを……僕に言っていいのか?」



またしても鍔迫り合いの状態に入り、互いの動きが膠着こうちゃくする。



「ああ。必ず君は考える。私の言葉から、次の一手をな。だが……思考すればするほど精神をすり減らし、フローの制限時間タイムリミットは近くなる……!」



確かにその通りだ……。


今の状態では言葉は勿論、自然のあらゆる音が耳に入ってきて、それが何の音か回答が頭に浮かんでくる。そんな風に頭を使っていては、近いうちに限界がくるだろう。


でも……まだ大丈夫だ。


もっと集中……!


……違う。


集中しようとしたらダメなんだ。


もっとリラックスして……直感のままに……!


腕に込める力を抜き、フィカスは突如右半身を引いた。



「なっ……!?」



襲いかかってきていた力が突如としてなくなり、フォルフェクスの体勢が前のめりになった。


そこに、フィカスの左手が襲いかかる。


爪……いや……ナイフ。


始めにラフマの腕が頭に浮かんだ。


手がもう一瞬動いた後、エレジーナの袖に隠していたナイフを思い出した。



「ぐぅっ……!」



フォルフェクスの肩にナイフが突き刺さった。


このまま背中側に回り込んで……いや、引こう。


フォルフェクスは刀を横へと薙いだが、それを予知していたかのように躱した。



「……くっ……!」



動きがまた一段と変わった……!


これまでは多くの思考から最善手を選んでいる様子だったが、今は無心状態に近い。


直前まで選択肢を放置し、直感的に最善手を打ってきている。


読めない……!


だが……面白い……!


肩に刺さったナイフを抜き捨て、準備運動のように刀を振るう。



「君がそうするのであれば……私も余計な思考なぞ捨てよう。」



頭を使うことを止め、ただ本能のままに刃を振るう。


理解出来ない世界だと思っていたが、まさか自分からそれをするときが来ようとはな……!


フィカスの身体が動いた。


一歩目は小さく、二歩目は大きく。


勢いをつけた、直進的な動きだ。


どう来る……見ろ……だが考えるな!


フォルフェクスの刀がピクリと動いた。


対応されそう……。


駆けながら思ったのは、たったそれだけだった。


他にも漠然と色んなことが頭に浮かんでくるが、どれも形にはならず沈んでいく。



「……フゥ…………!」



息を一つ、吐いた。


――回避しよう。


フィカスは過去の出来事を振り返る。


使えそうなものは……。



「……!?これは……!?」



フォルフェクスは、目の前に出現した巨大なバネに吃驚する。



「ふっ……!」



ジャンプして巨大なバネに乗り、フィカスは空中へと跳躍した。


ここからの攻撃は……。


体勢が上下逆さまになり、天地が逆となった景色を見ながら、星形の刃を創造する。


空中の感覚は、アベリアのおかげで知っている。


落ちていく感覚はとても緩々だ。この状態なら、攻撃を失敗するはずがない。



「……がぁっ……!」



これは……手裏剣か!


腹部に刺さった手裏剣を引き抜き、フォルフェクスがフィカスの方を見ると、着地を決めているところだった。


それを見て、今度はフォルフェクスが駆け出した。


フィカスが大勢を整える前に攻撃をする算段だ。



「後ろから……きっと……!」



振り向いてから小剣を振っては、間に合わない気がした。なら、後ろを見ずに攻撃をするしかない。


この場面で有効な武器は――。


レイピアを創造し、フィカスは振り向かず背後に向かって刺突を繰り出した。


きっとこの人なら、最善の動きをしてくる。だから――。



「――ここに来る。」



「……ッ……見事だ……ッ…………。」



フィカスのレイピアが、フォルフェクスの腹部を貫通した。


手ごたえはあった……だが……。



「まだだ!」



二人は同時にそう叫んだ。


次の攻撃への一手は、まだ死んでいない。


フィカスはレイピアを手放し、剣を創造すると振り向いた。


フォルフェクスは腕を動かし、刀を振る体勢に入っていた。


そして、両者は同時に己の刃を振るった。

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