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マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
108/222

105:思考

……どうすれば……いい…………?


胸部をブーツで押さえつけられ、まともに身動きが取れない……。



「ぐぅ……っそ……!」



……まだ諦めていないのか。


この状況においてももがくフィカスを見て、フォルフェクスは静かに感嘆する。


普通、ここまで追い詰められたら、もう勝てないと悟り抵抗を止めるものだ。けれど、この少年にそれは見られない。


まだ勝つ算段があるのか。


それとも、諦めが悪いだけか。


いずれにせよ、このまま刀を心臓に突き刺せばそれで終わりだ。



「結局のところ……私の勝ちに変わりはない。」



静かに、ゆっくりと、しかし確実に刃が迫ってくる。


……どうすればいい?どうすればこの状況を抜け出せる?


アベリアやジギタリスならば、力任せに立ち上がることが出来るかもしれない。


サンナなら、ここから抜け出す方法を知っているかもしれない。


セプテムなら、ここからでも魔法で反撃するだろう。


……けど、僕にはそういうことは出来ない。


ダメだ……最後の最後まで考えることを止めるな……。


皆だったら、どうやってここから反撃する……?


皆なら……。



「……あ…………。」



ふと、思い出した言葉があった。


”過去を振り返りつつも今に集中する……それが冒険者フィカスだよ。いいね?”


……この言葉を聞いた時、僕は何を思った……?


”初心を忘れるな”


――これだ。


他の誰でもない、僕ならばこの状況、どうやって打開する……?



「……まだ…………だ……。」



創造魔法!


己を踏みつけているフォルフェクス、その上空に岩の塊をイメージする。



「何を言って……ッ……!」



勘がいい。


フォルフェクスは頭上を見やり、咄嗟に飛び退いた。


――これで、押さえつけていた力はなくなった。


でも、この弱った身体で上手く動けるか……?


――大丈夫。自分を信じろ。周りをよく見ろ。


今まで通りに!



「……!」



気のせいか、落ちてくる岩石がゆっくりに見える。それに、細部まではっきりと視認出来る。


……一体どうなって……いや、今はどうでもいい。


フィカスは素早く立ち上がり、落下してくる岩石を躱すと同時にフォルフェクスへと前進した。



「……!まだそのような余力が……!」



――見える。


太刀筋だけじゃない。全体の挙動。表情。暗闇の中だというのに、その全てがくっきりと見える。


小剣を創造し、刀を弾き、身体の深部へと迫る。



「ぐっ……!」



フォルフェクスは上体を大きく後ろへと逸らし、刀を胸の前に持ってきてフィカスの一撃を凌いだ。


防がれた……!次の一手は……!


――脚が動いた……下がろう……。


フィカスが後退した次の瞬間、フォルフェクスから蹴りが繰り出された。



「なっ……!?」



――一歩前に出た体勢……次の刃はきっと、僕から見て右から来る……!


フィカスは再び前へと出、右から振られた刃に沿って小剣を振るい、左へと大きく流した。


――今だ!いや……逃げられる……。


刃を叩きつけるよりも速く、フォルフェクスは距離を取った。



「……見えているのか……この私の動きが……!」



「うん……見えるよ……。」



どうしてかは分からない。


これまでにない感覚だ。


色々な思考が水に浮かぶように出てくる。けれど、それによって動きが阻害されることはない。


まるで、身体と頭が別々にあって、それをまた違うところから見ているような……。



「……忘我状態フローに入ったということか……!」



「フロー……?」



「そうだ。頭の回転が限界を超えた状態……それがフローだ。その状態に入れる者はほとんどいない。さらに君は特異魔法の能力センスをも持っている。」



この二つを兼ね備えた人材が、はたしてこの世界に何人いることだろうか……?


片手で事足りるかもしれない……それほどまでに貴重な存在だ。



「――君は、その力を世の中のために使うつもりはあるのか?」



世の中の……?


きっと、政治とか社会貢献とか、そういう類の話なのだろう。


なら、答えは決まって……いや、現時点では……。



「――ない。僕は冒険者だ。パーティのために、僕はこの力を使う。」



そうだ。これが原点だ。


自由が欲しくて、友達が欲しくて。


――信頼出来る、苦楽をともに出来る存在が欲しかった。


そして、それは手に入った。


だから、今は今のままでいい。



「……そうか。ならば、仕方がない。君を取り入れることは諦める。……無理やりにでも捕まえてやろう。」



「絶対にそうはならない。僕はあなたに勝って……皆と一緒に冒険を続ける!」



重心を少し下げ、腕を引く。



「いいだろう……この私に勝つつもりか。」



フォルフェクスが動き出した瞬間、フィカスもまた動いた。


地面を強く蹴り、間合いを一気に詰める。



「……良いことを一つ、教えてやろう。」



互いの刃がぶつかり合い、鍔迫り合いに入る。



「フローは脳をフルに稼働させる。果たして何分持つ――?」



フローとは、極限の集中状態だ。


数分でそれが途切れるだけでなく、余計な思考、雑念、外部からの刺激――。


僅かな出来事によって、簡単に途切れる。



「なら……それまでにあなたを倒す……!」



素早く腕を右に振り、互いの刃を弾くとともに距離を取る。


単純な力比べだと、集中力だけではどうにもならない。


仕切り直しだ。



「いいだろう……。」



ここまで勝負に熱くなれるのは、一体いつぶりだろうか?


フォルフェクスは、かつてないほどの胸の高ぶりを実感する。



「君の名前は――?」



「……フィカスだ。」



フィカス……か。


これほどまでに優秀な存在だ。是非とも我が配下に欲しい。


彼の才能を、実力を観察していたい。


だが……それは叶わないことだ。


私は軍師だ。この戦争に勝つ義務がある。それを成し遂げるためには、たとえ誰であっても始末せねばならない。



「さぁ……来いフィカス!決着を着けるぞ!」

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