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マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
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102:感情

シュッ……!


空を切る、小気味良い音が夜の森に響いた――。


……以前と比べ、拳に迷いが減った気がするな。


距離を取ってアベリアの攻撃を避け続けていたマカナは、ものぐさな目で彼女を見つめていた。


と言っても、はっきりとした違いは分からないが。何となく、そう思った。


マカナは日頃から表情の読めないエレジーナと、無口で滅多に口を開かないウルミと一緒に仕事をしている。そのせいで、人の感情とかを機敏に察知する能力が養われていた。


拳は真っ直ぐ……目も。


その目はどこを見つめている?


多分……目の前にいる俺じゃない。


既にもっと先を見ている。


フィカスか。


あいつのところに行くことを、もう考えている。もう俺を倒せるってことか。



「時間稼ぎって仕事だから、そう簡単に負けてやるわけにはいかないな。」



「……私にはそんな事情、関係ないことよ!」



強く地面を蹴って、一気に間合いを詰めてきた。


相変わらず、速い。



「でも分かりやすい。」



マカナはあえて前進を選んだ。


相手にとって予想外の距離の詰め方をし、間合いが悪くなったところで足払いを仕掛ける。



「きゃん!?」



見事にすっ転んだ。


迷いがなくなったのは良いことなんだろうけど、今度は逆に素直すぎる気がするな。


もうちょっと慎重になった方が……。



「てか何で、そんなにあいつのとこに急ぐんだ?あいつの実力なら、そうそう負けないと思うけど……?」



「……だから、あなたには関係ないって!」



そんなムキになるようなこと、言ったか?


これまでに見てきた、冷静さと言うか、落ち着きが今の彼女にはまるでない。



「……違うか。」



俺を倒せるから先を見ているんじゃなくて、先しか見えていないんだ。


でもって、そのことを自分でも理解出来ずにいる。


だから、俺なんかに行動が読まれてしまっている。


……でも何で?



「……まずは俺を倒すことに集中した方が……フィカスのこと考える前に。」



一応敵なのに、何でアドバイスしないといけないんだ……。


後でエレジーナに給料アップを頼むか……アドバイス代ってことで。



「えっ!?べ、別にフィーくんのことを考えていたわけじゃ……。」



……ん?


何この反応?


ドキリとした表情で、頬を赤らめている。そして瞳は綺麗に輝いている。



「あー……なるほど……。」



あの目は見たことがある。


好物を食べている時のエレジーナと同じ目だ。


つまり……。



「……好きなのか、フィカスのこと。」



「ふぇっ!?」



いや何で驚いた顔になるんだ?


普通、誰だって気が付くと……エレジーナは気付かなそうだな。


まぁ……ともかく。



「それは別にいいけど、戦う時くらいは忘れて……。」



「そんなことないからぁっーーー!!!」



「んなっ!?」



照れを隠すように、アベリアは右腕を全力で振るった。


それにより凄まじい衝撃波が巻き起こり、慌てて伏せたマカナの後ろに立つ樹が倒壊した。



「なんていう力だ……。」



「いったっーい!!」



「……。」



何で攻撃した方がのたうち回っている?


いや……当たり前か。


あれほどの力を出したんだ。反動があって然るべきだ。


そもそも、彼女アベリアの魔法は肉体強化。それにより、人の限界を超えた力を放つことが可能だ。


しかし、あくまで人の身体から放たれている。その放出する力に耐えられるだけの筋肉と骨がなければ、文字通り身体を壊すことになる。



「んー……。」



マカナは頭を掻いた。


まぁ話をして時間を使っても、時間稼ぎということに変わりはないだろう。



「なぁ……いつも、どれくらい魔法の力を使って攻撃しているんだ?」



「えっ?えーっと……五、六割くらい?かな?」



予想通りと言えば予想通りだ。


それくらいでセーブしているところに、急にそれ以上を出したら反動がきて当たり前だ。


……今の攻撃が、何割くらいなのかは分からないけど。はっきり言えるのは、今のでさえまだ百パーセントの力ではない、ということだ。



「まず、反動で怯むと致命的だから、いつも以上は出さないようにするんだ。」



「え、急に……うん。」



敵意がないと明確に伝わったのか、アベリアは大人しくなった。



「どうしてもそれ以上の力を使う時には、腕だけじゃなく全身を使うんだ。」



「……そういうこと?」



マカナは実際に自分の身体を動かしてみせる。



「腰を捻って肩を……胸を反る。全身の勢いを拳に乗せる。腕だけに魔法を使うから、反動が……痛みが酷いんだ。」



武闘家である以上、全身の筋肉を使って戦うことは知っているだろう。


けれど、きちんとした指導がなかったり、経験が薄ければそのことが頭から抜けてしまっていてもおかしくない。



「一部ではなく、全身を使うことを意識する。これを戦う時、常に忘れるな。そうすればまぁ……今よりはもっと楽に戦えると思う。」



「……うん。ありがとう。」



さて、いい具合に時間も経ってきた頃だし、そろそろ行かせてもいいだろう。


しかし、彼女アベリアくらい分かりやすい反応をしてくれる方が、会話がしやすくていいな。



「じゃ、もう行っていいぞ。あ、それと……フィカスによろしくな。」



「だから、違うのーーー!!!」



……何で隠そうとする。

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