表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
104/222

101:商人

その小柄な体躯には似合わない長剣を持って、襲いかかってくるウルミをジギタリスは大剣で防いでいた。


ジギタリスの腕力ならば、大人でも振り回されがちになる大剣を自在に操り、普通の剣を扱うかの如く振るうことが出来る。



「……っと!危なっかしいな!」



長剣が大剣とぶつかり合いつばぜり合いの状態になると、ウルミはあっさりと長剣を手放した。


受け止める体勢であったジギタリスは、その力の出し先を失い武器が身体から大きく離れた。


そこに背中から取り出した小型の鎌が襲いかかってきた。


ジギタリスは悪態を叫びながらバックステップでそれを躱し、身体を捻って大きく大剣を横に振るった。



「……。」



ウルミは鎌をジギタリスに向かって投げ捨て、それに怯んだ隙に距離を取り、今度は小型の弓を取り出した。


黄緑色に光る石が矢尻に付いた矢を構え、ジギタリスに焦点を合わせる。



「んだそれは……っと!」



矢が放たれ、着弾したのはジギタリスから少し離れた地点。しかし、その地点からドーム状に黄緑色の光が発生し、バチバチと音を立てた。



「……チ。」



ウルミは顔を僅かに歪ませた。


やっぱりこの弓じゃ飛距離が足りない。


アサシン用のローブに隠せるサイズを選んだが、それが仇になったようだ。



「いいモン持ってんじゃねぇか六号ちゃんよぉ!」



あれは……魔法石か!


魔法のエネルギーが込められた自然物。砕けると同時に込められていた魔法が発生する代物だ。


とても高価な上に使い捨て。上級冒険者でも中々買わない物である。



「……ウルサイ。」



ボソッとそう呟き、ウルミは片手サイズの白い球を取り出した。



「ん……あれは……。」



見覚えがある。


前に戦った時にやられた、粘着性の液で固定してくる道具アイテムだ。


それを振りかぶり、野球のフォームで投げてきた。



「どんな物か分かってれば、避ければいいだけの話よ!あらよっと……うぼっ!?」



ヒョイと球を躱したが、その球は後ろの木にぶつかると破裂し白い煙を大量に吹き出した。


似てるだけで別物かよ……!



「まぁでも……そうだよな!」



煙の量は凄いが、範囲はそこまで広くない。


つまり、回り込もうとすればジギタリスに見えてしまう。


だからこそ、ウルミは目くらましを盾に正面から接近を選んだ。そしてそれは、ジギタリスにも分かっていることだった。


赤く光るナイフを取り出し、それを全力でジギタリスに向けて叩きつける。



「ぐっ……うあっつっ!?」



大剣で受け止めたが、思わず大剣を落としてしまいそうになった。


これはマジックナイフか……!


それも炎魔法が宿っている。



「こんのっ……!」



反撃に出ようと大剣を振り回すが、ウルミの小さな身体を捉えることが出来ない。



「くっそぉっ……!」



――落ち着け。焦るな。


攻撃に出たくなる衝動を抑え、その場に踏み止まる。



「……?」



……らしくない。


ウルミはジギタリスが嫌いだった。


いつもうるさくて、暑苦しいから。


その気質を知っているからこそ、攻撃の手を止めた彼の姿は異様に映った。



「……ふぅ…………。」



息を吐いて、身体を、心を落ち着かせる。


落ち着くんだ。それで、思いだせ――。



”いいか?ジギタリス。良い商品を見分けるコツはな――。”



あ、違う。この記憶じゃない。



”道具のことは、可能な限り記憶しておくんだ。商人が商品のことを把握していないと、売ることが出来ないからな――。”



これだ。この次に商人先輩カイドウは何て言っていた――?



道具アイテムは必ず、正しい使用用途を守ること。無理に使おうとしても、危ない上に壊れやすいからな。”



――これだ。



「……無理に使ってはならない、か。サンキュー先輩カイドウ。おかげで冷静になれたぜ。」



「……。」



ジギタリスの雰囲気が変わった。暑苦しさが抜けて、力が抜けているように見える。



「っしゃー!!行くぞ六号ちゃん!!」



「……。」



前言撤回。やっぱ暑苦しいコイツ。


そして……動きが変わった?


今までは力任せに武器を振るっていたが、落ち着いた――丁寧な剣術に切り替わった。


……まぁ、まともに勉強していないのだろう。振り方が色々と雑だ。


でも、戦闘スタイルが変わったことに違いはない。



「おらっ!喰らえ!」



両手でしっかりと柄を握り、大剣に振られないように腕に力を込める。


振りたいところまで降ったら、そこでしっかりと止める。


イメージはフィカスの剣術だ。


とにかく丁寧に、決して無茶はするな。そして……待つんだ。



「……。」



やり辛い。


ウルミはそう思った。


スタンダードな立ち振る舞いであるからこそ、隙らしい隙が見当たらない。


ミスが出るまで待って、そこにつけ込むか?いや、それだと時間がかかる。ある程度時間が経ったら引き上げるという話だ。


なら……ここで……。



「……!待ってたぜぇ!」



ウルミがジギタリスの攻撃を躱した直後、身体が斜めの体勢で衣装から道具アイテムを取り出した。


そのタイミングで、大剣を投げ捨て左拳をウルミのわき腹に入れた。



「……ぐぅ。」



抑えめな呻き声を上げ、ウルミはその場にしゃがみ込んだ。


……勝負に焦って道具アイテムを無理に使おうとする時を待っていたのか。


……やっぱり、コイツ、嫌いだ。



「ガハハ!俺の勝ちだな!六号ちゃん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ