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マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
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100:天使・4

「……何だその顔は?」



不意に屋敷の男はそう言った。



「普通、泣き喚いたりするだろ?何で無表情なんだ?」



翼をナイフで刺された痛みを感じつつも、それを一切表情に出さないエレジーナを見て、恐怖にも似た感情を男は覚えた。


刺された瞬間には流石に悲鳴とともに表情を歪ませていたが、もうそれも収まっている。



「おい、このガキ、本当に大丈夫なんだろうな?」



「……はい。今は無口でも、すぐに声を上げるようになるでしょう。構わずに……。」



ダンッ!


と強く床を蹴る音がした。



「やああああああぁぁぁぁぁっっ!!!」



「がはっ!?」



次いで空を切る音がし、直後鈍い音とともに紹介人は床に倒れ込んだ。



「なっ……!?エヌマエル……お前どうやって……!?」



押さえている力がなくなった。


今だ――……!


全身に力を込め、エレジーナは身体を起こした。



「……ぐっ……うぅ……!」



翼から嫌な音が聞こえ、激痛が走った。


そして、軽くなった。


下を見ると、ナイフに刺された翼が床に固定されている。


千切れたか……。でも……。



「うっ……ああああああぁぁぁっっ!!!!」



野獣のような咆哮を上げ、エレジーナは男に飛びかかった。


右手で顔を掴み、そのまま床に叩きつける。


そして、指を両目に突き刺した。



「ぎゃあああああっっっ!!??」



両手で顔を覆った男の股間を蹴飛ばし、のたうち回るその身体に、心臓にナイフを突き刺した。



「……あとは……!」



「押さえています!とどめを!」



見知らぬ少女――青緑色の長い髪をした、上品そうな少女が紹介人を床に押さえつけていた。



「ま、待て!私は……!」



「黙れ下衆がッ!!」



これほどまでに力を込めたことはなかったと思う。


それくらいの勢いで、頭蓋骨にナイフを突き刺した。


もの凄い絶叫が響き渡った。


町中に響き渡ったのではないかと思えるほどだ。



「ふぅ……これで……。」



「ありがとうございます!あの、お名前は!?」



見知らぬ少女はエレジーナの手を掴み、凄い勢いでブンブンと振った。



「あー……落ち着いて……いたた……。」



冷静になってくると、痛みを思い出してきた。


右翼を見ると、ボロボロになり半分以上が床に落ちていた。


こりゃあ……もう治らないかも。少なくとも、もう飛ぶことは出来ないかな。



「あっすみません!すぐに手当をしますね!ついて来てください!」



少女はエヌマエルと名乗った。


屋敷の男の一人娘で、日頃から酷い目に遭っていたそうだ。



「……母はあの男によって精神的に病み、自殺しました。私は、ずっとこの屋敷を出たいと思っていたんです。でも、いつも屋根裏部屋に閉じ込められて……。」



「で、私が来てその機会チャンスがきたと……?」



少女が持っていた武器を見やる。


長剣の両刃に沢山の棘が付いた、変わった武器だ。



「はい。貴方のおかげです。本当に……あっ!この武器は屋根裏にあったのをたまたま見つけて!……それで、相談なんですけど、私を雇ってもらえませんか!?」



雇う?


私が?


……おかしな話でもないか。もう私に仕事を紹介する者は死んだ。これから先、当ては何もない。


つまり、自分の力だけで生きていかなければならないわけだ。



「……いいよ。パートナーがいる方が、きっといいだろうからね。」



「はい!ありがとうございます!えっと……。」



「エレジーナ。それが私の名前。これからよろしくね。」



「はいエレジーナさん!あの……他にお仕事をされる方とかは……?」



仲間がいるのかどうか、という意味の質問だろう。



「いない。私と、君だけ。」



「えへへ。それじゃあ、私はエレジーナさんのパートナー一号ですね!」



「あーうん。いいねー。」



これが私と一号ちゃんの出会い。


それから故郷に帰ることもなく、二人で色々な国を回って――。


……。



「――サンナちゃんはさ、私に憧れてるから駄目なんだよ。」



ナイフが静かに、しかし鋭く空を切り、サンナの服を切り裂いた。



「……くそっ……!」



まただ。


身体には一切触れず、服だけを斬っていく。


全力で戦っているというのに、こちらの攻撃は一切当たらず、エレジーナの攻撃は衣装を切り裂いていく。


明確な実力差を見せつけられている。



「私の戦い方を参考にするのはいいけど、そこにオリジナリティを混ぜていかないと。多分、私が村に帰らなくなった後も、私の動きのコピーを練習し続けたんでしょ?」



「……っ……そうですよっ!何が悪いっていうんですかっ!?」



思わず怒鳴ってしまった。



「悪くはないよ?でも、それだけじゃ駄目だ。サンナちゃんが戦わないと。私のコピーじゃなくて。」



「でもっ……私は貴方に……っ!」



「その気持ちは嬉しいけど、否定させてもらうよー。私に憧れている限り、君は成長出来ない。だから、この場でその意識を変えて……っと。」



エレジーナはサンナから視線を外し、左右を見やった。



「もう周りは終わりそうだねーちょっと時間使い過ぎたかなー?まーいーか。二人の勝負が終わったら、皆でフィーくんのところに行っていいよ。」

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