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マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
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99:天使・3

初めて人を殺したあの日から、そういう類の仕事は加速的に増えていった。


一年も経つ頃には、それに対する感覚が、感情が全て麻痺していた。



「――サンナちゃんは、将来何になるの?」



「えっ?私ですか……?私は……まだ……エレジーナは、決まってるんですか?」



あの日から数日間、サンナちゃんの様子が少し変だったような気がした。


けれど、そうだったのは数日間だけで、すぐにいつもの調子に戻っていた。



「私……私は……そうだねー……冒険者、かな?」



思いつきでそう口にしたが、中々良い仕事だと思っていた。


自由に、やりたいことをやって生きていくって素晴らしいよね。



「冒険者?ちょっと意外です。」



「え?そうかなー?」



生活リズムがグチャグチャな私には、むしろ合ってると思うんだけどなー。



「はい。その……エレジーナは、暗殺者アサシンには……ならないんですか……?」



急に何の……。


と思ったが、すぐに合点がいった。


ああ……きっとこの子は、見てきたんだろうな。



「……なるよ。」



「やっぱり……そうなんですね……。」



「でも、冒険者になるよ。」



「はい?」



何を言っているんだこの人は?


みたいな目で見てくる。


まぁそりゃそうだよね。対照的な仕事を両立するなんて、おかしな話だ。だけど……。



「本気だよ。私は正義のアサシンになる。自分にとって正しいと思える仕事を選んで、悪い人をやっつける。そんなアサシンになる。」



これも思いつき。でも、こんなにスラスラと言葉が出てきたんだから、無自覚だっただけで心の奥底ではそう考えていたのかも。



「じゃあ……!私もその時は……!」



「だーめ。サンナちゃんには、サンナちゃんに合ったメンバーが必要だよ。それは私じゃない。じゃ、そういうことだからー。」



「えっ……どこに行くんですか!?」



「お仕事だよーまた明日ー。」



時間的にそろそろ、また次の仕事が入ってくる頃だ。



「今回の仕事は、この屋敷にいる人を全て――です。」



「……了解。」



真夜中――。


馬車で移動し、村からかなり離れたところにある大きな町。


その町の一番大きな屋敷の前にサンナと紹介人は来ていた。



「では、お気を付けて……。」



「どうもー……。」



屋敷に向かって歩きながら、珍しいと首を傾げた。


紹介人はいつも、もっと離れた地点から見ているのに、今日は近いところにいる。


まぁどうでもいいか。ついて来られたら、流石に邪魔だと思うけど。見ている分には、どこにいてもさして変わらない。


玄関の扉を音を立てぬよう、慎重に開け侵入する。


知識と技術さえあれば、大抵の鍵は開けられる。もっと進化した鍵が出てきたらお手上げだけどね。


屋敷内は寝静まっていた。



「……。」



変なの。普通、警備員とかいるんじゃないの?


おおらかな人なのか、見かけよりも金を持っていないのか……。


とにかく、人がいる部屋を探して歩き回る。


――一階には誰もいなかった。


となると、必然的に二階にいることになる。


大きな階段を上がっていき、一つひとつドアを小さく開けて確かめていく。



「……いない。」



まだ一人も見つからない。


留守?いや、それなら今日にここに来るはずはない。仕事が滞りなく進むよう、在宅時に依頼がくるはずだ。


残り一部屋……。


確実にここにいる。家族全員でここで寝ている?


いや、もしかしたら屋根裏にも部屋が……。


あった気がする。正確には、それらしき入り口が、だが。


でもまぁ、そこのチェックはこの後でいいだろう。


まずはここを調べてから――。



「…………ッ!?」



ドアノブを慎重に回し、扉を少しばかり開いた瞬間、背中に蹴りを入れられ部屋の中に私は倒れ込んだ。



「ふむ……まだ少しばかり幼いが、いい娘ではないか。」



顔を上げると性格の悪そうな、下品な顔をした男性がそこには立っていた。



「でしょう?大人しい気質なので、あまり大声も出さないと思います。」



……知っている声が、背後から聞こえた。



「ぐがぁっ!?」



起き上がろうとした背中に強く足が入り、顔を床に打ち付けた。


エレジーナは床に押さえつけられた状態で顔を動かし、背後に睨みつける。



「怖い顔をしないでください。これからこの方に、大人にしてもらえるのですから。ほら、もっと笑ってください。」



「どういう……つもりですか……!?」



自らを踏みつけている男――紹介人の男を殺気の宿った目で見つめる。



「どうも何も……この方から依頼があったのですよ。美しい娘を持ってこい、とね。」



「そういうことだ。君は騙されたんだよ。」



……うかつだった。


仕事内容への感覚が麻痺していたせいで、警戒心が薄くなっていた。


そのせいで、警戒心は常に持っておくという、当たり前のことを怠っていた。


……どうにかして逃げないと――マズい。



「さて、俺の気は長くないんでね。娘も屋根裏に閉じ込めたことだし、邪魔する者は誰もおらん。」



屋敷の男が近づいてきた。


……もう動けないと油断しているはずだ。


エレジーナは背中に力を込め、金色の翼を――天使だけが持つ翼を生やした。


一気にこれで……。



「ぐあぁぁぁっ!?」



直後、右の翼に激痛が走った。


見るとナイフが突き刺さっていた。



「あなたが天使であることは知っているので。これでもう、逃げられないでしょう?」



「さて……これで準備は万端だな。」



屋敷の男はそう言ってしゃがみ込み、エレジーナの顔を掴んだ。

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