表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
101/222

98:天使・2

「あ……来た……。」



翌日――。


日が沈む頃、エレジーナが村の出入り口に来るのを発見した。


サンナは一日中そこに張り付き、彼女が来るのをずっと待っていた。


頼んでも連れて行ってもらいないだろうし……。


それなら、こっそりと後をつければ良いと考えたのだ。


考えてみれば、サンナはエレジーナが戦っている姿をまともに見たことがなかった。だから、その姿を見てみたいと思った。


基礎しか教えてくれないというのであれば、見て盗めばいい――。


そんな結論に考え至り、サンナはエレジーナの尾行を開始した。



「――隣町に行くのは久しぶりですねー。」



「おや?エレジーナさんのことですから、行き慣れているかと思っていましたよ。」



「いやー仕事以外で村から出ることは、ほとんどないですから。」



「そうなんですね。町には色々揃っているので、楽しいと思いますよ。」



「まーそうですよね。」



楽しい……か。


そんなことを最後に感じたのは、一体いつだっただろうか?


……思いだせないくらいには、前ってことだよね。


最初は畑を荒らす獣を殺すことにすら躊躇していたのに、これから人殺しをするのか。


人生ってどうなるか分からないもんだね。



「……緊張、していますか?」



「……いえ、平気ですよ。」



少し、嘘かな?


落ち着こう。人だろうと魔物だろうと動物だろうと……全部同じ命だ。姿形が違うだけで、命に価値を付けるのはおかしい。



「……ならいいのですが……そろそろ着きますね。」



あれ?思ったよりも早く着いた。


自分で考えているよりも、周りが見えていなくなっていたってことか。



「居場所の見当はついているので、案内しますね。こっちです。」



町とは言っても、そこまで規模の大きいところではない。けれど、故郷の村に比べたらずっと大きかった。


日が暮れ、人通りが寂しくなってきた道路を歩き、男はとある店の前で足を止めた。



「ここです。」



「ここって……?」



表通りから外れたところにある、妙な看板の店。



「ああ……字が読めないんでしたね。まぁ悪い人が集まる店ですよ。」



「……なるほど。」



文字が読めないっていうのは、何だかもどかしい。


そうだ、帰ったらサンナちゃんと一緒に文字の勉強をしよう。



「……あの男です。」



店のドアを小さく開け、奥の席に座る大柄な男を指さした。



「……分かりました。」



エレジーナは静かに頷き、男のすぐ後ろを歩いて入店した。


子供である彼女に視線が集まるが、誰もそこまで気にする様子はない。


若い男が親戚の子を連れて店に来た。その程度の認識なのだろう。



「……何か……変なお店……。」



二人の後をつけていたサンナは、入り口のところから店内を覗き込んだ。



「エレジーナ……ここで何をするんだろう……?」



……落ち着こう。


生きるためには、汚い仕事もやらないといけない。


大体、いつかは人殺しの依頼も来るんじゃないかと思ってたじゃないか。


それが今日になっただけだ。



「……?お嬢さん?君みたいな子が来る店じゃないぞ。」



近寄ってきたエレジーナに気付いた男性が、こちらを向いた。



「親戚か何か知らないが、子供を連れて来る場所じゃあるまい……何を考えて……ッ!?お前はっ!?」



紹介人を見て、男性は驚く素振りを見せた。


今だッ……!


エレジーナは抱き着くように男性に身体を密着させ、袖口に隠していたナイフを背中に突き刺した。



「ぐあっ!?このガキッ……!?」



男性は痛みに顔を歪ませ、エレジーナを振りほどこうと暴れるが、振りほどけない。


エレジーナは男性の二の腕の上から抱き着いている。そのため、男性は力を込め辛く腕も満足に動かせない。



「……そろそろか。」



唐突にエレジーナは男性から離れた。


その直後、男性の脚が暴れ出した。


もう少し遅ければ、あの脚に蹴られていただろう。


冷静な状態であれば、すぐさま脚を使って抵抗することが思いつくだろう。けれど、痛みによって判断力が低下している状態であれば、その判断には至らない。


脚を大きく動かしたことで、男性はバランスを崩し椅子から転げ落ちた。


その隙を見逃さず、エレジーナは腰からナイフを引き抜き、男性の喉元に突き刺した。



「がっ……あぁ……!?」



「……ッ…………!?」



苦痛にもがく顔を間近で見て、エレジーナの身体が固まった。


そっか……痛みで死ぬ時……人はこういう顔をするんだ……。


やっぱり、分かっていなかった。


人という生命が命を奪われるということ、それがどういうことなのか。



「逃げるぞ!」



殺人が起きた店内には悲鳴が響き渡り、呆然とした様子のエレジーナの腕を掴み、紹介人は走り出した。



「あ、こっちに……隠れなきゃ!」



入り口から一部始終を見ていたサンナは慌てて隠れた。


次の瞬間、扉が勢いよく開かれ二人は走り去っていった。



「……何をしてたの……?」



サンナは店内をこっそりと覗いた。


エレジーナが何か行動を起こしたのは見えていたが、彼女の背中の向こうで何が起きていたのか、それは何も分からなかった。



「えっ……!?人が……死んで……!?」



そこには、喉から大量の血を流して倒れている男性の姿があった。


あの人って……エレジーナが近づいた人……つまり……。



「殺したの……?エレジーナ……?」



まだ幼いサンナにとって、この光景は――殺人現場はあまりにも衝撃的であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ