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七人岬

人気ひとけのない浜辺、腰に大刀と小刀を刺した二人の侍が馬上から海を眺めている。

 「若、ここは危のうございます」

「ははは、何を言う。こんなによい景色ではないか」

若と呼ばれた侍は、笑顔で海を見つめる。

 「叔母上も心配性よのう」

 「仕方ありませぬ、先日も浜に数人の遺体が打ち上げられましたゆえ

 「今月に入って七人目だったかな、太一たいちよ」

 「はっ!  さようでございます」

太一と呼ばれた侍が、頭を下げた。

若がしばし海岸を眺めていると、ゆらゆらとしている蜃気楼のようなものが見えた。

 「太一、あれは何じゃ?」

 「どれでしょうか?」

太一には蜃気楼のようなものは見えていないようだ。

 「人のようじゃ、七人いるぞ!」

 「私には見えませんが」

           バサ!

太一が海岸に気を取られていると、横で音がした。見ると、馬から落ちた若が倒れている。

 「若ー!」

太一は急ぎ馬から降り、若を抱き上げた。

幸い息はある、しかし意識がないように思われた。

太一は自分の馬に若を乗せ、急遽城へと向かう。

馬を操る太一の手首に腕輪のような数珠がまかれていた。

海岸の蜃気楼が、八人の人影のようにゆらゆらと揺れた。





 「ご隠居、そろそろ宿場町に着きそうですな」

 「そうですね助さん、海が近いので魚料理が楽しみです」

 「さようで、美味しい酒があれば尚嬉しいですがな」

渥美角之進、佐々木助三郎、そして水戸光圀が街道から宿場町へと足を踏み入れた。

浜から近い事もあり、焼き魚の匂いがすると思っていたが、煙が上がっている風もなく、今一つ活気が感じられない。

 「とりあえず、宿に落ち着きましょう」

光圀一行は宿に入ったが、そこの主人からお詫びの言葉を聞いた。

 「申し訳ございません。夕食に魚類はほとんど出せないんです」

 「ほう、何故ですかな?」

 「最近、漁に出れていないんですよ」

 「漁に?」

主人が言うには、浜に幽霊がでるとかで、漁師達が浜に近づけずにいるらしい。

しかも幽霊は、数人で出て来るらしく、最初に幽霊を見た城の若様が、病に臥せているとの事で、七人岬の幽霊がこの浜に来たという噂になり、浜に出るのも怖がる始末との事だった。

 「七人岬というのは誠ですかね?」

質素しっそな食事を終え、光圀と助三郎は茶をすすり、角之進は酒を呑みながら小声で談を囲む。

 「うむ、分かりかねますね」

 「ご隠居、七人岬でしたら犠牲者が次々と出る可能性があります」

助が急須きゅうすで光圀の湯呑に茶を注ぐ。

 「成仏するために、他の者を七人岬に入れて行く・・ですか」

角は徳利とっくりから湯呑へ、なみなみと酒を注いだ。

 「ですが、ここは高野衆に任せては」

 「そうしたいのですが、若君わかぎみが病で臥せているのが気になります」

 「私と角で明朝、浜を確認してまいります」

 「ご苦労ですが、そうしてもらえますか」

角は一気に酒を飲み干し、助は妖刀「暁宗」をチェックする。

光圀は窓を開け、街道向こうにあるであろう海を見つめる。ほのかに潮の香がする風が入ってきた。

白髪の老人は、風を受け思案をめぐらす。

潮風が老人の白い顎鬚あごひげを揺らした。




 「若!!   部屋にお戻りくだされ!!」

夜明け前、城内で家来たちが若を押さえ、部屋へと連れて行こうとしている。

しかし若は三人の家来を引きずりながら、外に出ようとする。

若は頬がこけ、目の下にくまができている。俗に言われる死相だ。

顔の様子から、とても男三人を引きずって歩けるようには見えない。が実際、三人の家来が引きずられて行く。

 「若!  お気を確かに!」

太一が引きずられながらも、懸命に若に話かける。だが若は答えない。

太一の言葉等耳に入っていないようだ。何かに誘われるように、一心不乱で家来を引きずって行く。

更に数名の家来が駆け付け、若を抱え上げ部屋へと連れていった。

部屋では暴れる若に、無理矢理に眠り薬を飲ませ、やっと大人しくさせた。

 「太一、若の具合いはいかがなものじゃ」

寝かしつけられた若を案じる太一の元に、婦人がやってきた。

身なりからして、位のある奥方のようだ。

 「あっ 母上。・・・若の状態はかんばしくありませぬ」

悲し気に話す太一の肩に、奥方がそっと手を置いた。

太一から母上と呼ばれる婦人。藩主、竹田裕理たけだゆうりの側女で鶴江つるえという。

 「其方そなたと若は異母兄弟。気持ちはわかるぞえ。私にとっても若は実の息子と変わらぬ」

 「母上・・・」

若の母君は、若が子供の頃になくなり、側室だった太一の母を、若は叔母上と慕っている。

 「太一、若を頼みますよ。それと、若に万が一の事があれば、家督を継ぐのはあなたなのですよ」

奥方は部屋を出て行き、太一は一人若の傍で座りこんだ。

彼は確かに若を兄のように慕い、次期当主として尊敬もしている。

それに彼は、若を一生支えていくと決め、自分が当主になろうとは微塵も考えていない。

太一は若の人間性が大好きなのだ。

 「若!  早く元の若に戻ってください」

太一は心の底から願った。




 「このままじゃあ、飯がくえねえ」

夜明け前、漁師の男が舟を出そうと、浜へ向かう。

七人岬は怖いが、このままでは生活ができない事態になってきている。

他の者も誘ったが、皆首を横に振った。   恐いのだ!

男にも分かっている。実際、男も怖い。

しかし、逆の考え方も出来た。漁の稼ぎを独り占めできる。無論、他の者に稼ぎを分ける気はない。

恐がる心を欲で押さえて、男は浜へ向かった。

自分の船が見えてきた。男はわき目をふらず、舟へと急いぐ。

後少しで舟にたどり着こうとした時、視界の端に白い物が入り込んできた。

男は見るのを拒否するかのように舟だけを見つめようとしたが、操られるように首が動き、白い物を視界に入れてしまった。

白い物が八体揺ら揺らとしながら男を取り囲む。白い物は少しづつ人型になっていく。

男女の区別、歳等は分からない。でも人の形をしている。白い物は白い者になっていく。

男は動く事ができず、白い者に取り囲まれながら、その場で倒れ込んだ。



夜明け前、助三郎と角之進が浜辺から少し離れた林で身を潜める。

七人岬対策で、光圀から護符を授かっているので、幽霊に近づいても七人岬に引きずり込まれる事は無い。

だが光圀からは、決して幽霊に近づかず、少し離れた所で様子を見るようにと念を押されていた。七人岬の霊はそれだけ危険なのだ。

しかし、二人は目の前の光景を無視できない。

助は妖刀を抜き、角は早九字をきりながら走り出した。

助が暁宗で白い者を上段から切る。しかし白い者は妖刀を振り下ろした風圧になびくように、ふらふらと刀身をかわす。角のこぶしも、風圧でふらふらと後方に流れ当たらない。

助と角は相槌をうち、光圀から授かった護符を取り出した。

二人は護符を白い者達へと放つ。

護符に触れた白い者は次々と白い煙になり、消滅していった、

九枚目の護符を角が放った。九体目の白い者も、煙のように消えていった。

朝日が昇り始めた浜辺には、意識を失くた漁師の男が倒れていた。




 「漁師の男は無事だったのですか?」

宿に戻った助と角が光圀に今朝の事を話す。

 「生きてはいましたが、意識が戻る事はありませんでした」

 「そうですか」

助達は漁師の男を村まで連れ帰り、家族に預けたが、眠っているだけで、頬を叩いても起きる気配がなかった。

 「気になるのは、白い者が八体から、九体になった事ですね」

 「はい、最初はたしかに八体でした」

光圀は二人からの報告を受け、顎鬚あごひげをなでた。

暫し静寂が続く部屋で猫の鳴き声が響いた。

          にゃーーー

白髪の老人の傍に黒猫が鎮座している。

          にゃーーーー

猫は鳴きながら、光圀に頭をこすりつけてきた。

光圀が猫の頭を撫でると、猫が消えふみ(手紙)が残されていた。

 「弥晴の式ですね」

助が文を拾い、光圀に渡す。光圀は文を読むと再び顎鬚を撫でた。

 「弥晴の文には何と?」

 「城での若君の様子が書かれています。何かに憑かれたように城を出ようとするらしいです」

 「それは危ないのでは」

 「・・・・・」

白髪の老人は顎鬚を撫でながら黙り込んだ後、顔を天井に向けた。

 「七人岬の輪廻は完成していないのかもしれません」

 「輪廻ですか?」

 「角さんは、漁師の男が再び浜に行かぬようにしてください。助さんは私と城へ乗り込むとしましょう」

考えがまとまったのか、光圀は二人に指示を出した。

そして文を一枚書いた後、窓から落とした。

陽が昇り、いつもなら漁での収穫で賑わう宿場町。しかし今は閑散としている。

三人は、人がまばらな町中を抜け、各々の場所へと向かった。





 「ご老公様が参られた!」

門番からの知らせを聞いた藩主、竹田裕理たけだゆうりが急ぎ出迎えに向かう。

こんな片田舎の藩に、副将軍が急遽訪れたので、城内は上から下から大騒ぎとなった。

 「竹田殿、忍びの旅じゃ。接待はいらんぞ」

部屋へ案内された光圀が上座に座り、助三郎が左に控えた。

 「ははっ!   で、今回こちらに来られたのは何故でしょうか?」

平服したままの竹田が汗をかく。

 「いやいや、町の方で若君が病に臥せていると聞いてな」

 「私のせがれの為にわざわざ。もったいのうございます」

竹田は、ますます深く頭を下げる。

 「今夜は私に祈祷させてもらえぬか」

 「ありがとうございます。医者にもどのようなやまいか分からず、困っていた所でしたので」

竹田は心から安堵した。医者も匙を投げる病、それを天下の光圀公が祈祷してくれるのだ。

 「うむ、陽が暮れる頃に始めましょう」

 「よろしくお願いいたします」

光圀は竹田の肩に手を置き、安心擦る様笑みを見せた後、助三郎に目配せをした。

助三郎は頷いて、準備があるので先に若の寝室に案内するよう指示をだした。

竹田は、控えていた太一に助三郎に就くよう命じ、二人は若の部屋へ向かった。

部屋に残った光圀と竹田は、藩内の問題についての話を始めている。

話ながらも光圀は、不安げに助達の背中を見る太一の母、鶴江の姿を見逃さなかった。




 「太一殿は、若様と親しいので?」

 「はい、私とは腹違いの兄になります」

若の寝室へ向かう途中で助が探りを入れる。

 「その腕に付けている数珠のような物は何ですかな?」

 「はあ、お守りだからと母上に持たされた物で」

 「ほう、母上から」

助三郎も水戸家に仕える人間、数珠に何らかの呪術がかけられているのが見てとれた。

「こちらが若の寝室でございます」

太一が障子を開け中へと入り、助三郎が続く。

まだ日暮れ前だというのに部屋の中は異様な暗さだ。恐らく、瘴気に近い空気が外界の光を押さえているのだろう。

布団の中で若が寝ているのが見えた。倒れてから数日と聞いていたが、頬はこけ衰弱状態から見て、半年以上は病で臥せっている病人に見える。

助は懐から取り出した護符を布団の四隅に配置した。

 「佐々木様、その護符は?」

 「ご老公から渡された、水戸家の護符です。暫くは若様を寝ているままにできるでしょう」

現状、若は薬で無理矢理に眠らせている状態で、薬が切れれば、外に飛び出してしまうだろう。

光圀から祈祷を行う為に、睡眠効果のある呪符を貼るように指示されたと助三郎が説明した。

続いて助三郎は、護符を障子の内と外に貼る。

七人岬からの誘いの念を、部屋に入れないようにするための護符だ。

助三郎が祈祷の準備を終える頃には、陽が暮れかけていた。

「もうすぐご老公が来られるでしょう。私は少し席を外します」

助が部屋を出て行った。太一は若の事が気になるのか、部屋に残った。

 「佐々木様はいないのかえ」

若の顔色を窺っている時、鶴江が侍女をつけずに入ってきた。

 「太一、若の具合はどうですか」

 「はい、あのままです」

 「そうですか」

鶴江は少しだけ若の顔を見ると、部屋を出て行った。

彼女が部屋を出る時、ナイフのような小刀で内側に貼られた護符に、気付かれないように傷をつけた。

暫くすると、光圀と助三郎が入って来た。光圀は無言で若の前に座る。

 「太一殿、しばし部屋から出てくれぬか」

助三郎が数珠を手にはめながら、太一に退出を促した。

「わかりました」

 「それと、腕にはめておられる数珠ですが、呪術が弱まっているようです」

 「呪術が?」

 「ついでと言っては何ですが、ご老公が念を込めてくださるそうです」

 「それは有り難い事です」

太一は、腕から数珠を外し、助三郎に渡した後に部屋を出た。

陽が落ち、締め切られた若の寝室から読経が聞こえる。

障子戸に漏れる行燈の明かりが廊下に映り、月明りの中で静かに揺れた。




 読経が止んだ。光圀と助三郎は別室へと姿を消した。

太一は若が心配で寝室に入った。若は部屋を離れる前と同じように眠っている。

光圀が祈祷したからといっても、直ぐに効果が表れる事は無いと分っている。

しかし、天下の光圀公の祈祷だ、もしやという期待もある。

太一が若の顔を覗き込んだ時、若が目を開いた。

ゆっくりと起き上がり、障子を開け外へと向かう。

 「若ーー!」

太一は慌てて後を追う。その途中で鶴江とすれ違った。

 「どうしたのじゃ太一」

 「若が外へ!」

太一が門の方角を指さす。着物からはみ出る腕に数珠が無かった。

 「太一、数珠はどうしたのじゃ?」

鶴江が少し慌てた表情で腕をとった。

 「母上! 今は数珠よりも若です!」

太一は鶴江の腕をほどいて、若の後を追った。

鶴江は月夜でも分かる、蒼ざめた顔で太一の後に門をくぐった。




 浜辺で白髪の老人が大呪たいじゅの準備を進めている。

光圀だ。城で祈祷をしているのは、弥晴が操っている式だった。

白髪の老人は、七人岬の輪廻を破壊する呪術の支度を進めていたのだ。

 「漁師の具合はどうですかな」

準備もほぼ終わり、傍に控える角之進に声を掛けた。

 「はい、ご隠居からの護符が効いているのでしょう、深く眠っております」

 「そうですか。城の祈祷もそろそろ終わるでしょう」

月明りでの作業で目が疲れたのか、光圀は目と目の間を指でさする。

 「ご隠居、大丈夫ですか?」

心配気に角が老人の肩に手を掛けた。

 「大丈夫です。これからが本番です。角さんも気合を入れて下さい」

二人が話をしていると、人が走ってくる足音が聞こえた。

音の方を見ると、若がこちらに向かって来るのが見える。

若は明らかに、常軌を逸しているのが分かる。

着物ははだけ、曲げもほどけ、目の下には隈が見てとれる。

頬はこけ、隈の上にある目だけが異様に生気を帯びていた。

若の後ろに太一の姿が見える。その遥か後方に鶴江であろう、婦人の姿がみえた。

若が砂浜に辿り着き、その場で倒れ込んだ。

「若ーーー!!!!」

太一が直ぐに駆け寄り、若を起こすがビクリともしなかった。

    ポツ!   ポツ!  ポツ!

若と太一を取り囲むように、九体の白い者が現れた。

若を起こそうとしていた太一が、その場で地に伏した。

すると、白い者が十体になる。白い者の輪の中にいる若と太一は動く気配がない。

白い者が囲む輪が徐々に縮められていく。

 「角さん、そろそろいきますか」

光圀と角之進が浜辺へと飛び出す。

角は白い者の輪に入り、素早く二人に護符を貼る。

 「オン・バサラダルマ・キリ」「オン・バサラダルマ・キリ」

光圀が千手観音菩薩の真言(マントラを唱え、印をつむいでいく。

     キューイーーーーーン

浜辺を大きく囲むように明かりが点在していく。光圀達が浜辺に配置した錫杖しゃくじょう法輪ほうりん水瓶すいびょう等の仏尊の持物じぶつが共鳴し、光を発しているのだ。

 「オン・バサラダルマ・キリ」「オン・バサラダルマ・キリ」

光圀の印を結ぶ指が速くなる。呼応するように共鳴音が大きくなっていく。

夜空に淡い光が立ち上がり、地上をゆるく照らす。

光が地上の白い者を包みはじめる。白い者が夜空からの光に溶け込まれていく。

共鳴音は経典の合唱のように浜辺に響いて、異空間を創り出しているようだ。

白い者が七体、夜空の光に吸い込まれるように登っていく。

     シュッ!  シュッ!  シュッ!

光圀が砂浜に残された三体の白い者に、葵退魔銃を放つ。

白い者は呪術込められた銃弾を受けると、煙のように四散していった。

浜辺に静寂が戻る。月夜の明かりが倒れている二人の男を優しく照らした。



 「ご老公様。大変お世話になりました」

翌朝、竹田裕理は光圀に深々と頭を下げた。

 「いやいや、私はお役目を果たしただけです」

城に残った助三郎から、昨夜の内に事情を聴いた裕理はすぐさま浜辺に向かおうとしたが、大呪の最中だからと助に止められていた。

 「佐々木殿から聞きました、水戸家の秘術を使っていただいたとか」

水戸家の秘術。「大呪千手観音救済魏せんじゅかんのんきゅうさいぎ」千手観音の力を借りて、地上に彷徨う霊を救っていただく術だ。

七人岬の輪廻は完成していない、それどころか、地縛霊が次々と魂を引き込み、霊力が強くなり強靭な鬼が創り出されていたかもしれない。

光圀はそれを防ぐため、最初に現れた地縛霊を千手観音に救済していただいたのだ。

残りの三体は、まだ魂と肉体が繋がっている状態なので、退魔銃で地縛の念を切り離した。

若と太一、そして漁師はやがて目を覚ますだろう。

 「鶴江殿には尼になるよう勧めておこました。そそのかされ、魔が差したといえ罪は罪」

鶴江は城下に立ち寄った僧侶に、これから浜辺に七人岬の霊が出ると言われ、それを利用すれば、腹を痛めた我が子が跡をつげるかもとそそのかされた。その時に、七人岬の呪いを防げる数珠を貰ったらしい。

 「寛大な処遇、ありがとうございます」

裕理は再び、深々と頭を下げた。

光圀は立ち上がり、天守てんしゅから遠く見える海を見つめた。

微かな潮風が老人の顎鬚を揺らす。

海には漁に向かう数隻の船が見える。

七人岬の霊は退治されたと、朝方に城から御触書おふれかきを出したのだ。

これで、浜と町には活気が戻るだろう。

しかし光圀の心は晴れない。

鶴江をそそのかした僧侶。そして、七人岬を召喚出来うる呪術の才。その目的。全てが謎のままだ。

光圀は視線を海から空に移した。

青く晴れた空の向こうには暗雲が立ちこめているよな気配が感じられる光圀だった。




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