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土着神(前編)

 城下に連なる家臣の屋敷。その庭で奇妙な光景が男の目に飛び込んできた。

男は城に努める者で、しがない役人だった。しかし、とある偉い人が夜に屋敷に来るようにと命じられた。

日頃から世話になっている偉い様なので、男は断れず、こんな夜更だというのに屋敷にやって来た。

庭には部屋からの灯りが、薄っすらと届き、奇妙な光景を男の瞳に映した。

 「おう、よく来たな」

部屋から繋がる縁側に、偉い様が座っている。 

 「この餌を太郎、いや犬の前に置いてくれるか」

恐らく犬の名は太郎というのだろう。偉い様が男に鶏肉を差し出す。肉は生ではなく、少し焙られていて、肉の匂いを引き出していた。

 「この肉を、この犬にですか?」

男は犬の方を見る。犬は首だけを地面に出し、からだは地中に埋められている。

犬の目は血走り、口から泡のような唾を出していた。

 「どうして、埋められているのですか?」

 「少し悪さをしたので、お仕置きじゃ。はははは」

偉い様は、顔を綻ばせて笑った。

男は偉い様が犬を飼っているのは知らなかった。そういう噂を聞いた事もない。不気味さを感じながらも、命令には逆らえず、餌を受け取り、犬の方へと向かう。

 「ああ、餌は食べさせずに、口の前に置くのじゃ」

 「わかりました」

餌は犬の口の前、今のままでは微妙に届かない距離に置かれた。

 「おお、丁度良い所じゃ。そのまま犬の前に立っていてくれるか」

偉い様は腰を上げ、犬の背後へと近付いてくる。手には大刀持っていた。

男は犬を見た。犬は埋められた体から首を伸ばし、必死で餌を食べようとしている。しかし届かない。

     グゥーーーー

犬は恨めしそうに唸り、男の顔を見た。凶暴な目だ。男は犬に恐怖し目をつぶった。

    シャキーーーーン!!    

          バシャ!

男を襲うように生暖かい液体が顔に飛んできた。

目を開けた男の足元に、舌を出した犬の首が転がっている。その目は、首だけの状態でも、男を瞳に映していた。

 「ひぇーー」

男は腰を抜かし、その場にへたりこんだ。

 「ああ、すまなかったな。犬がお前を睨むので、危ないと思い首を刎ねた」

偉い様の手には、血の付いた大刀が握られている。

 「顔を洗ってこい」

犬の生首に驚き、顔に掛かった液体の事を忘れていた。

男は手で顔を触り、液体を拭う。生臭い液体だ。

男は顔を拭った手を見た。手は真っ赤に濡れている。犬の血だ。恐らく顔も血まみれなのだろうと想像がつく。

男は震えながら、偉い様が指さす井戸へと足を向ける。背後で偉い様が、何か犬の処理をしている気配がする。しかし振り返るのに恐怖を覚え、真っすぐに井戸へと向かった。 

     グゥーー

耳元で犬の唸り声が聞こえた。

   他にも犬がいたのか?

男は自問する。その間も唸り声は聞こえ続けている。

おかしい、これだけ近い距離で聞こえるなら、姿も見えるはずだ。しかし、薄い灯りが零れる庭の中に犬はいない。

     グゥーーー    グゥーーー

男は耳を塞ぎ、その場でしゃがみ込んだ。

      キーーン  キーーン  キーーン

激しい頭痛と吐き気が男を襲う。意識が遠のき、何も考えられなくなっていく。

男はそのまま倒れ込んだ。

 「憑きよったか」

偉い様の声が、血臭漂う庭で、静かに響いた。




 「爺はおるか!   爺!   爺!」

城内の廊下で高い声が響く。

高価な着物を着た少女が、侍女を待つ事なく速足で歩いている。歳の頃ならまだ十歳半ばに満たない位だろう。侍女達は着物の裾を気にしながら少女の後を追う。

 「優香姫様、爺はここにおりまする」

少女、優香の前に初老の男が跪いた。藩の家老、小竹祐善こたけゆうぜんだ。口髭を生やし、人の好い笑みで少女を見ている。

 「爺、わらわの呼びに直ぐに来なければならぬぞ」

 「はははは」

少女の言葉に、満面の笑みで応える祐善。少女には姫と呼んだが実の孫にあたる。

祐善の娘が大溝藩藩主、分部信政わけべのぶまさの側室に迎えられ、五番目の子供を産んだ。女の子としては三番目、三女に当たる。しかし祐善にしては初孫で、ただ一人の孫だ。目に入れても痛くないという表現しか当てはまらない程、可愛がっている。

 「爺、最近侍女達が、新しい着物の採寸をせかして、うるさいのじゃ」

優香の言葉に祐善は顔を曇らせた。

 「どうしたのじゃ爺?」

 「いえ、何もありませぬ」

 「そうか。その着物が白を基調の貧祖な着物なの。爺、あんな着物、優香は着たくない。父上に言って取り換えを進言しておくれ」

優香は父、分部信政と殆ど顔を合わせた事がない。優香には分からないが、他の子供達と比べ、遠ざけられている感は否めないでいた。だから祖父の祐善に甘えてばかりいる。

 「わかりました。殿には私の方からお願いしてみましょう」

 「頼むぞ、爺」

少女は祐善に信頼の笑みを見せる。祐善は笑顔で姫の頬をなでた。その後、踵をかえし、優香から離れる。その表情は怒りの表情で唇を噛みしめていた。



 「こらー!」

町の中で、怒声が響く。

 「やめれ」

光圀達は大溝藩の城下にきていた。宿を探している時に、この怒声を聞きつける。

騒ぎの方を見ると、棒を持った若い男が猿を追い詰めていた。それを老婆が止めているように見える。

 「貞作やめろ」

老婆が再び、制止の声を上げ、男の前を押さえている。その間に猿が手に何かを掴んだまま、逃げて行った。

 「おっ母、何故止める」

 「猿は猿神様の仕えじゃ」

 「しかし、こうも頻繁に食材を取られては」

 「今年は我慢じゃ」

振り上げた棒を降ろし、貞作は諦めた顔を老婆に向けた。

 「どうされましたかな?」

光圀は老婆の「今年は」という言葉に引っ掛かりを覚え、二人に声をかけた。

 「あんたらは?」

 「私達は見ての通りの旅の者です。宿を探している時に騒ぎが聞こえましたから」

 「宿をおさがしですか」

 「はい」

 「でしたら、私どもの宿へどうぞ」

老婆達は小さいながらも宿を営んでいる事を伝えた。息子の貞作も客が増えれば、猿への怒りも少しは落ち着くと思い、光圀達を率先して誘う。光圀達は親子が営む宿に泊まる事を決めた。



 「さあ、こちらの部屋でおくつろぎ下さい」

老婆が光圀達を二階の部屋へと案内し、お茶を注いでいく。大きくはない宿だが、清潔感がある部屋だ。

 「女将さんは二人でこの宿を?」

 「はい、息子と二人でやっております」

 「それは大変ですね」

 「いえいえ、小さな宿ですから、何とかやってます」

光圀は障りのない話題から切り出す。相手に安心感を与えるためだ。

 「先程は大変でしたね」

 「いえいえ、恥ずかしい所をお見せしまして」

 「いやいや。この辺りは猿が多いのですかな?」

 「ええ、まあ・・  今年は猿神様の年ですから」

 「猿神様ですか」

女将は先程の醜態もあり、静かに語りだした。

二十五年周期で猿神様の年がきて、この時に猿が頻繁に町に出没しだすらしい。そして猿が何をしようと殺生してはならないと、城から御触れが出るという。

 「ほう、城から御触れが」

 「はい、町の者は食材を盗まれ、村の人達は畑の作物を荒らされます。それでも我慢の年なんですよ」

 「それは大変ですな」

 「まあ、この年の徴収は減らしてもらえますから、何とかやれてます」

女将は話を切り上げ、部屋を出ていった。

 「猿神ですか・・・」

光圀は顎鬚をさする。その姿を助三郎と角之進が見つめている。

 「ご隠居、何か気になる事が?」

 「ええ、藩をあげての殺生禁止ですからね」

 「でも、徴収が減らされるようですかから、藩も考えてますね」

 「そこですよ、大溝藩をあげての猿神信仰のようですから・・・」

光圀は湯呑に手を伸ばし、静かにお茶を口にした。



 「きゃーーーー!!!」

城内に少女の悲鳴が響いた。

 「どうされましたか姫様!」

お付の者達がわらわらと姫の寝室へとやってきた。

 「さ、猿じゃ!  猿がわらわの枕元に」

優香姫が言うには、息苦しさを感じ、目を開けた所、猿が自分の顔を覗き込んでいたらしい。しかし、部屋を見回しても猿の姿はない。 

 「確かにいたのじゃ・・」

優香は恐怖が抜けないのか、唇を震わせなが言葉を発した。 

「優香姫!  大丈夫か!」

祐善が知らせを受け、部屋に走り込んできた。

 「爺!」

優香は一番に信頼している祐善に抱きついた。しかし身体の震えはまだ止まらない。

 「大丈夫じゃ、儂が付いておる。大丈夫じゃ」

祐善は優香を抱えながら、布団へと運び手を握る。

 「儂が傍にいてるので、安心してお休み」

 「う、うん。必ず傍にいるのじゃぞ」

祐善は力強く頷き、優香を寝かしつけた。そして枕元に落ちている、姫の毛とは明らかに違う毛を拾い上げ、姫に気付かれぬよう懐の手拭いにしまった。

 「絶対に渡さぬからな」

祐善は、静かに寝息を立てる優香の頬を優しく撫でた。



    ウキーーー!!!!!

    バキ!    バキ!

光圀達が寝床に就いた頃、厨房の方で人とは違う声と、何かを叩く音が聞こえた。

 「何をしただ!」

女将が貞作の背後で青ざめた顔で立っている。

 「もう我慢できねえ」

血のついた棒を握りしめる貞作の前に、血まみれの猿が横たわっていた。

 「お前、なんて事を・・」

崩れ落ち、へたり込む女将。猿神の使いを殺してしまい。お城の御触れに背いてしまったのだ、無理もないだろう。

 「どうされましたかな?」

女将の背後から、光圀が声を掛けた。その後ろに助と角が控えている。

 「こ、これは・・   その・・」

御触れの事を知っている光圀に、猿殺しを見られ、女将は慌てた。

 「大丈夫です。我々は何も見なかったです」

光圀は安心できる笑みを女将に見せた。幸い他の客はこの騒ぎに気付いていない。

 「しかし、そのけものは何とかしないといけませんな。角さん、頼めますか」

 「はい、承知しました」

光圀は敢えて猿と呼ばず、獣と言った。

角がテキパキと猿の死骸を布にくるみ、さらに風呂敷で包み持ち上げる。

 「処分してまいります」

 「ああ角さん」

光圀は角を呼び寄せ、小言で何か指示をだした。角が宿から出ていく。大きな身体が闇の中に溶け込み、消えていった。

 「すみません。お客様にこんな事をさせて。貞作、あんたも頭をお下げ」

女将が深々と頭を下げた。

 「すみませんでした。明日の朝の仕込みをしようと厨房に入ったら猿が食材を荒らしていて・・・」

 「貞作さん、あれは野犬です。そうしておきましょう」

 「はい」

冷静さが戻ってきた貞作も、光圀に深々と頭を下げた。

厨房を後にし、光圀と助三郎は目を合わせ部屋へと戻った。

 「ご隠居、何か嫌な気が張ってましたが」

 「助さんにも感じられましたか」

 「ええ」

光圀は目を閉じ、思案を巡らせる。

 「多分、明け方までには来るでしょう」

 「猿神ですか?」

 「さあ・・  でも、それに近いかもしれません」

助が妖刀暁宗を取り出した。腰に差し気を引き締める。

光圀も札を取り出し、準備を始める。

 「弥晴はいますか?」

光圀は正面を見たまま声を発した。

     ニャー

いつ現れたのか、黒猫が光圀の横に鎮座していた。

 「手伝ってもらえますか?」

     ニャー

一鳴きした後黒猫は、襖を通り抜け出ていった。

光圀は瞑想するかのように、再び目を閉じた。



 角は一人暗い道を歩いている。手には先程の風呂敷包みが握られていた。

町から少し歩けば街道に出て、山までそんなに時間はかからない距離だ。山の中に猿の死骸を埋葬するつもりだ。人が通る場所に猿の死骸を放置すれば、殺生が禁止されている中で、撲殺された猿の死骸が見つかれば大変な事になるかもしれない。

角は夜目を活かし、迷う事なく道を進む。山の中に入り、少し開けた場所に風呂敷を降ろした。

 「たくさんいやがるな」 

角は唇を吊り上げる。暗い中、表情は分からないが、恐らく笑っているのかも知れない。

     ウキーー

         キーーー 

            キーーー     キーーー

角の言葉に、身を潜めていた山の獣が騒ぎだした。

     獣、   猿だ!

数十匹の猿の群れが、暗闇の中で角を取り囲んでいる。

        キーーー!!!

一匹の猿が角に飛び掛かっていった。

        バキ!     バン!

角はその猿に正拳を叩き込む。

頭の形が無くなった猿が、木へと打ちのめされ、血しぶきをあげた。

     キーーー!!!

       キーーーーー!!!

         キーーーーー!!!

次々と猿が角へと飛び掛かっていく。そのことごとくを角は拳と蹴りで粉砕していく。

まさしく粉砕なのだ。角の拳と蹴りを受けた猿は、原型を留めることなく血しぶきを上げていった。中には角にしがみつき、牙を立てる猿もいるが、猿の牙位では角に大きな傷をつける事は出来ない。しがみついてきた猿の頭を掴み、握りつぶしていく。

どれだけの数の猿が肉塊へと変貌しただろうか、攻撃が止み、身を潜める猿の気配だけが闇の中に感じられる。

     ピキーーン!

闇の中で空気が変わる。霊力がない角にも感じられる位の変化だ。

     サァーーーー   ガサ   ガサ

風が流れ、木々の葉を揺らす。

何かがゆっくりと角へと近づいて行く。

      ガサ    ガサ 

木々をかき分け、黒い大きな影が角の前に立った。

月明りが、影の正体を照らす。

        猿だ!

所謂いわゆるニホンザルだが、体格が違う。角よりも低いだろうが近い背丈があるだろう。体付きもニホンザルというよりはゴリラに近い。この群れのボスだろう。

 「猿人か・・」

角は妖獣の類で猿人がいる事を聞いている。しかし猿人は自分の身長を優に超えると聞いていた。

 「変化へんげか」

年を経た獣は、妖力を得て変化する事がある。猫又もその一種だ。角の前の猿もそうなのかもしれない。

宿を出る前の光圀の言葉を思い出す。

 「角さんの敵が現れるかもしれません」

角の敵とは、あんな猿の群れではない。角の力を試せる相手。角が水戸家に仕える理由だ。

角は再び唇を吊り上げると、拳を握り身構えた。



    ギャオーーーー!!

咆哮を上げながらボスが角へと攻撃を仕掛ける。腕を上に振り上げての単純な攻撃だが速い。そして重い。常人が受ければ骨が粉砕するだろう。角はその腕を流し、掌底をボスの胸へと放つ。

大木おも砕く角の掌底だ。しかしその掌底を受けながら、ボスは腕を横に薙ぎ払ってきた。

角はその攻撃を後ろに跳び躱した。ボスはそのまま角へと突進していき、体当たりの如く、身体をぶつけてくる。

    バキ!

身体と身体がぶつかる音。角はそのままボスの身体を受け止めた。先程の掌底を受け止められた仕返しと言わんばかりに、真正面から受け止める。そのまま抱え込み、横へと投げ飛ばした。

      ギャオーーーー!!   ギィーーー!

ボスは直ぐに起き上がると、角を威嚇するように吠えた。

そして、再び角へと突進していく。

角はこの時代の様々な拳法に精通している。しかしその技を使う事はない。相手が拳法家ならそれを使うだろうが、力で来る相手には力で戦う。

角を両腕を大の字に広げ再びボスを迎え討つ。

   バキ!

肉と肉がぶつかる音、いや、中の骨がぶつかり合っているのかも知れない。それ程の衝撃が角を襲う。恐らく、ボスも同じ感覚だろう。

角は再びボスを抱え込む。でも今度は投げる事はない。そのまま締め付ける。ボスも角の腕の中、渾身の力で腕を振りほどこうと抵抗する。

      バキバキ!

骨が砕ける音。

角に抱えられたボスの腕の骨が砕けているのだ。

      ボキボキ!  バキバキ!

ボスの胸骨が砕け、あばらも砕けていく。

ボスは口から泡を吹き、悲鳴すら上げる事なく絶命していた。

角が腕の力を緩める。

     ドサ!

ボスの身体は、冷たい土の上に横たわった。

薄っすらと夜が明けかけ、淡い光が立ちすくむ角を照らした。



 宿の一階。この宿を営む親子が寝入っていた。いや、正確には寝入っているのは母親だけだ。息子の貞作は先程の怒りの勢いで猿を殺してしまい、まだ興奮が冷めないのか、眠りの入り口にいるような状態だった。

      ウキ!

浅い眠りの中、猿の声が聞こえる。

      ウキ!

また聞こえた。

      ウキ!

貞作がむくりと起き上がる。目は開いているが虚ろで、焦点が定まっている感じではない。

そのまま厨房に行き、包丁を手にする。ゆっくりと方向を変え、寝床へと向かう。

      ウキ!

貞作は、猿の声に命じられるように、包丁を寝ている母親の上で振り上げた。

      バキ!

振り上げた腕が、助三郎の手により押さえられる。 背後の、光圀の姿も見える。

      キーーー!!!

腕を止められ、暴れる貞作の口から、獣の声が発せられる。先程からの猿の声も貞作自身が発していたのだろう。

助が貞作の首に軽く手刀を叩き、気絶させた。何か仕掛けられているのか、この騒ぎでも女将は起きる気配がない。

     スーーーーー     サーーーーー

部屋の温度が一気に下げるように、霊気が流れてきた。

     ボッ    ボッ    ボッ

光圀達を囲むように鬼火のような、淡いオレンジの炎が部屋の中に現れる。

    ケヒ!        ケヒ!       ケヒ!

鬼火に照らされるように、三匹の猿が姿を現す。只の猿ではない、白毛の猿だ。

猿の顔はオレンジの炎に照らされ、憤怒の表情を浮かべていた。まるで猿を模した明王のようだ。

猿が囲みの輪を縮めていく。部屋の霊気が強くなり、息苦しさを感じはじめる。このままでは霊気の圧力から呼吸困難を起こしてしまうかもしれない。

 「オン・マユラキランディ・ソワカ   オン・マユラキランディ・ソワカ

   オン・マユラキランディ・ソワカ  オン・マユラキランディ・ソワカ  オン・マユラキランディ・ソワカ」

光圀が孔雀明王呪を唱え、印を紡いでいく。孔雀明王呪に呼応するかのように、部屋の四隅から青い光が現れた。貼られた呪符が光っている。恐らく弥晴が仕込んだ物だろう。

光圀の背後からもまばゆい光が昇り、部屋中を照らし出す。光のシルエットに孔雀の姿が見える。

シルエットの孔雀が大きく羽を広げた。光は様々な色を放ち、猿共を畏怖を与える。

      キーー!  キ! キ!   キーーー!!!

白猿達が悔し気な鳴き声出し、それぞれ怒りの表情から苦悶のひょうじょうへと変化していた。

         オン・マユラキランディ・ソワカ!!!

光圀が紡いだ印を解き、一気に溜めた気を放出した。

           ウギーーーー!!!!!

部屋中には、夜の暗さが戻り、宿屋の親子は目を覚ます気配はない。

 「猿神ですか・・・」

光圀の声が、暗い部屋で静かに響いた。
















 



 


























     

袖もぎ様



 


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