即身仏(前編)
霧が濃い山の奥。まだ朝が明けきれていない中、霧に反響するように読経が響く。
チリン!
微かな鈴の音が聞こえる。
読経をよみ上げている、僧侶らしき男の前に、突き刺された、細い竹の筒が見える。
チリン!
読経の合間に、微かに響く鈴の音。どうやら、竹の管を通して聞こえて来るようだ。
読経は、鈴の音を遮りながら、読み上げられていく。
お寺で聞く読経とは違い、般若心経等のどの経典にも属していない、独独のリズムで読み上げられていく。
やがて鈴の音は聞こえなくなり、男の読経だけが、霧に反響していた。
男は読経をやめ、印を結び、小声でマントラを唱える。
胸元で、印が紡がれていく。
ザク!!
刺された竹の横から、腕が出て来た。
明らかに人の腕ではない。腕は太く、手の平は大きい。生えている爪は長くどす黒く、薄い朝の光りを反射して、刃物のような鋭利さを感じさせる。
何よりも人と違うのが、皮膚の色だ。赤い血肉のような皮膚だ。
男は突き出された腕を見ても、驚く気配すら見せなかった。
男は脇に置いていた、長めの錫杖を拾い、腕へと振り落とした。
バキ!
骨が折れるような一撃を受け、腕が地中へと消えた。
「まだ早いは!」
霧を裂くように、男の声が一瞬だけ響いた。
霧が濃くなっていき、靄の中で再び、読経が響き出していた。
「ご隠居、ここを抜けると出雲の国にはいりますな」
身の丈二メートルは超える大男の角之進が、白髪の老人に話しかける。
「そうですな、出雲は神々の国、気を引き締めていきませんとな」
「やはり神の国は何か起こりますか?」
老人の横で歩いている、助三郎が眉をひそめた。
「いやいや、何が起きても不思議がない土地だという事です」
老人、光圀は前方を見据え、笑顔を見せた。気を引き締めないといけないのは本当だろうが、それだけでは旅は面白くない、気を引き締めながらも、何が起きるかを楽しもうとしているのだろう。
「ご隠居、村が見えます」
「何かあったのでしょうか、揉めているようですね」
遠目だが、畑の横で役人と村人が集まっているのが見えた。
「騒ぐでない、直ぐに通れるようになる」
「でも、今は通れないべ」
「暫くの辛抱じゃ」
役人が村人に御触れを出しているようだ。その御触れに対して、集まっているのだろう。
「どうしましたかな?」
光圀が穏和な笑みで、集団に話しかけた。
「ん! 旅の者か。悪いがこの先の山道は、暫く通れぬ」
「と、申されると?」
「うむ」
役人は光圀一行に、この先で山崩れが起き、道が塞がれている事を告げた。そして山越えをしたいなら、迂回するように勧める。しかし、その迂回路は大きく遠回りなものだった。
「どれ位待ったら、通れますかな?」
「暫くとしか、今は言いようがない」
役人は、村人達にも同じ事を告げ、「決して、山にはいらぬように!」と念を押し帰って行った。
「困りましたね」
「迂回しますか?」
光圀は助三郎の意見に、髭をさする。
「おまえさん達、何処に向かうだ?」
少し大柄な、村の男が近づいてきた。角之進よりも小さいが、畑仕事をこなしているのだろう、良い体付きをしている。
「俺は茂吉だ」
茂吉は光圀達に、人懐こい笑顔を見せた。
「はい、私は越後のちりめん問屋の隠居で三右衛門、これらは共の者で、助三郎と角之進でございます。私達は出雲の方に行きたいと思っていたのですが」
「出雲か、迂回すればますます遠くなるな」
「そうなんです」
「なら、道が通るまで、村に泊まるか?」
「よろしいので」
「ハハハ、いいよ。俺達も道が通れない間、作物を隣の村や町に売りに行けなくなる。旅の話を聞かせてくれたら楽しいしな」
茂吉は村人達の方を見て、光圀達が滞在することに了承を得る。村人の中に反対する者もなく、暖かく光圀達を迎え入れた。
「さあ、入ってくれ。もてなしは出来ないけどな」
光圀達は一軒の空き家に案内された。空き家といっても、人が住んでいないだけで、よく手入れがされていて、雨漏りの心配も無さそうだった。
「布団と食材は後で持ってきてやるよ、そのかわり自炊しろよ。ハハハ」
「家をお借りしてよろしいのですか?」
「困った時はお互いさまじゃよ、気にするな」
茂吉は途中の仕事があると言って家を出て行った。その後、別の村人が布団と野菜を持ってきて、興味深気に光圀達を見た。
「茂吉さんを筆頭に、この村の人は親切ですね」
「いやいや、みんな退屈が嫌いなんじゃ、人が来れば話を聞けて、情報も得られる」
「情報?」
「んだ、どこの村、町で何が起きているとか」
「ほう、最近何かありましたかな?」
人は自分が知っている事を話したがるものだ。光圀はこの村人が話したくて仕方がないとみて、話題を振ってみた。
「そうだな最近の話だと、山の上の寺が潰されてのう」
「潰れたのではなく、潰されたのですか?」
「んだ、お殿様の怒りに触れたとかで」
「お殿様? 松平綱近様か?」
「そうだ」
寺を潰すとは中々ない事だ。光圀は顎鬚をさすり少し考える。
「何故潰されたのか分かりますか?」
「いや、そこまでは分からね、しかし茂吉は知っているかも」
「茂吉さんが?」
「んだ、あいつは話したがらないが、野菜なんかをよく寺に持って行っていたからな」
「茂吉さんがね」
光圀は再び顎鬚に手を当てる。
「そうだ、お侍様が数人、襲われたという事もあったな」
「お侍様が?」
「んだ、深手はおっていないという噂で、鬼にやられたらしい」
「鬼ですか・・」
村人は夜にでも、旅の話を聞かせてくれと、仕事へと戻って行った。
「ご隠居、これは何かありそうでね」
「うむ、綱近殿には弥晴に確認してもらいますか」
ニャーー
いつの間にか、光圀の横に鎮座していた黒猫が小さく鳴いた。
「頼みましたよ」
白髪の老人が、黒猫の顎を指で撫でる。黒猫は、もう一度小さく鳴いた後、助三郎が開けた戸口から出て行った。
戸口からは、畑に実る作物が見える。裕福な村だ。しかし、潰された寺と、通行止めの山道。何かが起きようとしていると、光圀は顎鬚をさすり、畑の向こうの山を見ながら思った。
薄暗い光が刺す山の中、侍達が歩を進める。
昼時を過ぎた頃合いだが、木々に遮られた山中に、届く光は少ない。
「こっちか?」
「はい、こちらから禍々しい気が感じられます」
侍達の中に、何人かの僧兵が混じっている。一人の僧兵が、侍の問いに対して、山の奥を指さした。
「急ぐぞ、陽があるうちに始末をつける」
「そうですな、陽が沈めば、奴らの力は強くなるらしいですからな」
侍達は険しい山中を、僧兵の導く方へと、足を速める。
「ここです」
僧兵が木々の向こう、少し切り拓かれた場所に足を踏み入れた。
明らかに、人の手によって更地になっている場所だ。
更地には、所々に細い竹の筒が差し込まれていた。
「これは、間違いない」
一人の侍が筒がある場所を調べ、他の侍と僧兵を見て頷いた。
「今の内に始末するぞ!」
「はい!」
「力一杯、突き刺せ!」
侍が槍を持つ部下達に指示を出した。槍が大きく振りかぶられ、地面へと突き刺さる。
バキ! バキ! バキ!
次々と槍が、竹の筒を掘り返すかのように、地面へと刺されていく。
槍は地中に埋められている、何かを潰して、何度も何度も突き刺ささる。
「殺ったか」
「これだけ刺したのですから、仕留めたものと思われます」
「よし、次の竹筒に行くぞ」
ズズズズズズズ
侍達が次の竹筒の所へ移動している時、背後で音がした。
皆が振り返ると、先程槍を突き刺した地中から、腕がはい出している。
明らかに人間の腕ではない、赤い血肉のような腕、五本ある指の一本だけが異様に長い。爪は黒く、僅かなに届いた陽の光を鈍く反射させていた。
ズズズズズ
もう片方の腕が地中からできた。地面に腕を付け、何かが地中から這い上がろうとしているのだ。
「切り伏せろ!」
異様な光景にのまれていた侍達が、気を取り直して、這い出してくるものに切りかかって行く。
シュッ!
地中から出ていた腕が消えた。と同時に上空に、陽を遮る影が生まれる。
地中から這い出してきたものが、腕の力だけで、上空へと跳ね上がったのだ。
ガキ! ガキ! ガキ!
這い出したものが、着地すると同時に、次々と侍達の首が飛んで行く。
「オン・バサラ・・・」
僧兵達がマントラを唱え、印を紡いでいく。高野衆ほどの力はないが、密教系の寺で、呪術を体得してきた出雲藩の呪術部隊だ。
「キェーーーーー」「喝!」「喝!」
這い出したものが、見えない糸で捕らえられたかのように、着地した時に動きを止めた。
薄い陽を浴び、這い出したものの姿が浮かびあがる。
人の首を一瞬で跳ねるものとは思えない、華奢な体つき。大きな目、白目がない黒い目。ただれて潰れたような花。耳まで裂けている口、そこから伸びる犬歯。そして、額から突き出した角。
鬼だ!
「オン・バサラ・・」
呪術部隊がマントラへの念を強め、残っている侍の方をみる。
残った侍は五人。侍達は頷き、刀を抜いた後、それぞれ鞘を地へと捨てた。
それぞれの侍達は、しっかりと刀を握り、ゆっくりと鬼へと近づいていく。
呪術で捕らえているとしても、相手は鬼だ。どんな力を持っているか分からない。慎重に近づき、一斉に切り伏せる策なのだろう。
侍達が鬼から一定の距離で止まり、刀を上段に構えた。
「うりゃーーー」
五方向から同時に刀が振り落とされる。鬼が切り殺されれたと思えた時、侍達が血しぶきを上げながら、倒れていった。
鬼が呪縛を解き、長い爪で侍達を、逆に切り殺したのだ。
呪術部隊は、再びマントラを唱え、印を紡ぎ、もう一度鬼を呪縛しようと試みる。しかし鬼の動きは止まらず、次々と僧兵の首を跳ねていった。
薄く光が差し込んだ光が、血の海を反射させる。
鬼はゆっくりと首がない死体に近づき、腹に口をあて、鋭い歯を立てた。
グニャ ズズズ バリ! ゴキ!
鬼が人の肉を喰らい、内臓をすすり、骨を噛み砕く。
「美味いか? 初めてにの人肉は」
いつにまにか、血だまりに僧侶がたっていた。
「まだ早いが、動きはまずまずじゃのう。それに、呪縛されたふりをできる・・ フフフ頭が良い」
僧侶は錫杖を鬼の肩にあてた。
「お前の名を、早童子と名付けよう」
チリン!
チリン!
潰されていない、竹筒から音が伝わる。
「お前達はまだ早い、もっと、もっと人を恨め、憎め、そしてこの世を恨め」
チリン!
薄日が消え、闇が支配を始める山に、鈴の音が小さくこだました。
陽が沈んだ村、光圀達にあてがわれた家に、村人が数人集まって来ていた。
それぞれが食べ物を持ってきており、光圀も助三郎が作った煮物で、村人をもてなしていた。
「爺さん達、ここまでの道中、面白い事があったかえ?」
「そうですな、色々ありましたぞ」
光圀は、退魔の事は言えないので、それ以外の面白話を皆に聞かせた。
「それは大変だが、面白いのう ハハハハハ」
皆、話し上手の光圀に乗せられ、食事の席は賑わった。
村人達が翌日の仕事があるからと、名残惜しそうに席を立って行く。最後に茂吉が席を立とうとした時に、光圀が声をかけた。
「寺の事?」
「そうです、潰されたと聞いたのですが」
「・・・ 村の者から聞きましたか」
茂吉は探られたくない事があるのか、神妙な面持ちで下を向いた。
「とても良い住職様でしたが、お代官様といざこざがあったみたいで」
光圀がもつカリスマ性か、茂吉は村の者にも話さなかった事をポツリとこぼした。
「茂吉さんは、お寺とどんな縁があるのですかな」
代官とのいざこざを、わざと聞かずに光圀は、茂吉と寺の関係を尋ねた。いざこざ話に興味を示して、野次馬的な立場を避けるためだろう。
「俺と寺ですか?」
茂吉もいざこざの件を聞かれると思ったのだろう、少し間をずらして返事をした。
「俺は孤児でした、あの寺で世話になり、この村を住職に勧められ、ここで暮らすようになった」
「ほう、それでは潰された寺と住職様が気になりますね」
「ええ、でも住職様は強い人ですから、大丈夫だと思います」
「住職様はお強いのですかな?」
「ええ、大陸からの知識も豊富で、色んな事を知ってます。だから大丈夫です」
寂しい笑顔を見せた後、茂吉は帰って行った。光圀も聞きたい事があったのだが、これ以上引き止めるのをやめ、顎鬚をさすりながら、寂しげな背中を見送った。
翌日光圀と角之進は、潰された寺へと向かった。助三郎は村に残り、情報を得る為に、村人の仕事を手伝うように指示を出した。
「結構な山の上に寺がありますな」
急な坂等があり、角之進は光圀を気遣いながら、先を進む。
「そうですな、しかしここまで行き止まりの土砂崩れはなかったですね」
「さようです、通行止めの関もなかったですな」
山の上にある寺を調べに来たが、その手前で道が塞がれているかもと、覚悟してきたのだが、その心配はなく、寺の前に着いた。
寺と言っても、看板が外されており、建物の形で寺と分かる感じだ。しかし、潰されてまだ二ヶ月位なので、荒れているという感じでもない。二人は門をくぐり、境内に足を踏み入れた。
「角さん!」
「はい!」
光圀は門をくぐった瞬間に、異様な空気を感じ、角に声を掛けた。角は霊感が無いので、異様な空気は分からないが、大男のも感じる気があった、人に殺意を向ける気、殺気! だ。
シュン!
門を抜けて直ぐ左手にある木から、何かが飛び降りてきて、角之進に鋭利な爪で攻撃を仕掛けてきた。
鬼だ、鬼は刃物のような爪で、次々と角へと攻撃を仕掛ける。
光圀よりも、角へと攻撃を仕掛けてきたのは、角が放つ闘気のせいだろう。鬼は本能的に、光圀よりも先に角之進を殺さねばと動いたのだ。
シュッ! シュッ!
鬼の素早い突きと、刀さばきのような爪の太刀筋を、角は紙一重でかわしていく。しかし鬼の攻撃は止まらない、人ならば疲れて、動けなくなるか、動きが鈍くなっていてもおかしくない。だが、鬼は止まらない、変わらなスピードで、次々と攻撃を仕掛ける。
バシ!
角が突かれてきた鬼の腕を掴んだ。鬼のスピードが落ちてきたのではない、角の目が鬼の動きを捕らえだしたのだ。
闘いで強靭な肉体と、磨かれた技は必要だ、しかしそれ以上に相手を捕らえる目、次の動きを予測できる感と経験が勝敗を左右する。
角は掴んだ鬼の腕をひねり、背負い投げで地面へと叩きつける。鬼は背負われる直前に、自分で跳躍し地面に掴まれていない手を着き、角の顔面へと蹴りを入れる。大男は腕を放し、蹴りをかわすと、鬼との距離を置いた。
角之進は片方の唇を吊り上げ、口元に笑みを浮かべる。楽しいのだ。自分の力を出せる相手が目の前にいる。人相手では、角の力は強すぎる。人以外、異形の者なら角は力を存分に使える。角はこの為に水戸家に仕えていると言っていいくらいだ。
ギャワーーーーン!
鬼が腹の底から吠えた。人間など、腕を払うだけで殺せる。そう思っていたのに、目の前の大男は殺せない。悔しいのだ。
角が腰を落としながら素早く動く。鬼の後方に回り込み、タックルの要領でに鬼の腰を捉える。そのままブレーンバスターで、脳天から叩き落そうとした時、急に腰から腕をほどき、後方へと跳躍した。
ドスーーーーン
角が居た位置、鬼の背後にもう一体の鬼が現れる。でかい鬼だ。
角よりも二回り位は大きい。そして太い。
腕も太い。脚も太い。腰も太い。首回りも太い。どんなダメージも受け止められると思われえる位、筋肉の鎧に身体を包まれている。
太い鬼が、白目が無い赤い目で角を見る。常人なら卒倒してしまいそうな強い視線だ。
だが角は唇を吊り上げ笑う。自分よりも強いと思われる相手が来ても、角は唇を吊り上げ笑う。
シュッ!
光圀が葵退魔銃を取り出し、鬼へと放った。当てるというよりも威嚇が目的の攻撃だ。
「角さん! 一旦引きますぞ!」
「わかりました」
角自信、闘いたい気持ちが強いが、相当強いと思われる鬼が二体。光圀を危険にさらす訳にはいかないので、指示に従う。それに、今無理して闘わなくても、近いうちに闘えるだろうとも思う。
寺を後にする二人を、鬼達は追っては来なかった。
寺に刺す夕日が、二体の鬼の影を伸ばす。その影に錫杖を持った影が加わる。
シャリン!
錫杖の輪が静かに響く。寺に伸びた影は、錫杖を持った影一体だけに変わっていた。
「何か分かりましたかな?」
夜、村人達と食事を済ました後、光圀達は今日の報告を話し合った。
「はい、今は楽になったようですが、昨年まで年貢と畑の作物の献上量が多く、苦しい時期があったそうです」
「楽になったのは何故ですかね?」
「理由は分かりませんでしたが、寺が潰される前、急に取り立てが楽になったようです」
「寺と関係がありそうですね」
光圀は顎鬚をさすり、茶をすすった。
「ご隠居の方はどうでしたか?」
「はい、鬼が出ました」
「鬼ですか」
助三郎に昼間の件を話ながら、光圀自身、頭の中で鬼の事を整理してみる。
「あの鬼は、変化の鬼ですね」
「変化の鬼?」
「考えて、自律する動きがありましたから、元々は人か他の生き物が鬼になったようです。」
鬼には様々な種類がある。式鬼のように、この世にいない鬼が召喚されるもの、または自己の魂を鬼化するもの。山や海の精が集まり鬼となるもの。そして、生き物が鬼に変化するもの。
召喚されたものや、魂が鬼化したものは、どこか幻影じみた所があり、精が変化した鬼は思考が弱く、本能または使命のみで動いている。しかし生き物が変化した鬼は、自律していて思考しながら動く。
「すると昼間の鬼は現世の者ですか」
角が唇を吊り上げて笑みを浮かべた。嬉しいのだ、また強い相手と闘えるのが。
式鬼や魂を鬼化して生まれる鬼は、術者の器量に比例する。しかも術者を倒せば、鬼はこの世から消える。どこか幻のような所がある。しかし変化の鬼は違う。真に生きている鬼なのだ。
「しかし変化の鬼が二体同時に現れるというのは、珍しいですね」
助は冷めた湯呑を取り、口に近づけた。
「はい、二体は仲間のようでした」
変化の鬼が二体同時に出現した事は、光圀にも記憶がない。しかも鬼は元来徒党を組まないのだ。
「裏がありそうです」
光圀は冷めた茶を喉に流し、確信があるかのように、小さく呟いた。