神殺し
勇者でも知らない事はある
聞いていた話しが、真実を隠されたものだったとしても
それが悪意に満ち、ねじ曲げられ、伝えられたものでもだ...
あの若者は、結果的に知らずに死んだのだ
あの日以来罪の意識に...
ー血に濡れた主教の手記帳よりー
神々しくも禍々しい神殿で、邪神とかした女神と勇者の激しい戦いが繰り広げられていた。
どのぐらいの時を戦っているのか、勇者の動きにはすでにキレはなく、邪神の攻撃を寸でのところでかわし続け、最後の力を振り絞った最大の一撃を放つ機会を勇者はうかがうことしかできなくなっていた。
だがその時は唐突に訪れる。
邪神とかした女神の攻撃を掻い潜り続けた結果、運良く空振りした攻撃でバランスを崩したのだ。
「ウォー!」
その隙を見逃さず、勇者は邪神の核に剣を突き立てる。
パリンと核が割れ、邪神は苦しいみながらその巨体を地に倒す。
「や、やった...」
邪神の倒れたすぐ側に、長い長い死闘を繰り広げたであろう勇者がへたり込む。
「少年よ、ありがとう。そしてすまないことをした。」
ハッと、勇者が顔を上げるとそこには先程まで戦っていた邪神ではなく、顔だけ女神に戻っているという、不思議な状況になっていた。
「私の消滅まで時が余りないが、聞いて欲しい」
勇者は頷く。いや、頷く事しかできないぐらい疲弊していたので言葉がでなかったと言うべきか。
「私を殺す事により、少年にはこれまでにない力が宿る...しかし、邪神となったにせよ、女神を殺し、神殺しに少年はなってしまった。」
神殺し、勇者はその本当の意味を教えられないまま送り出され、邪神と化した女神を殺してしまっていた。
「神殺しの呪いは少年が死ぬまで解けぬ。故に、すまない...少年よ..き.ぼ..う...を.すて...ない.で....」
そう言い残し邪神、いや女神は粒子の如く消えていった。
「神殺し...うっ!?」
ドクンと、胸が焼けるように熱くなる。
あまりの熱さに両手で胸を押さえ床を転げ回る。
どのぐらいの時が経ったであろう?勇者は、いや、神殺しはゆっくりと意識を手放た。
邪神イルヴィスと勇者カルナスの戦いはこうして幕を閉じた。
そして、勇者を送り出した教会は、教会地下に封印した女神の神器が石になるの
を見ると、邪神が勇者によって討たれたことを知り歓喜する。
だが、勇者が戻って来ることはなく、相打ちなり勇者もまた死んでしまったと思った教会の信徒達は悲しみにくれ、その偉業を英雄譚として各地に広める活動をする。
しかしその一方で、神殺しの本当の意味を知っている一部の者達は勇者が戻って来ない事に笑みを浮かべるのであった。
プロローグ的なものです。
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