2話
麗華が書庫から本を持ち出していき自室に戻ったのを見た影は、自らの主人の部屋に向かった。自らは影であるため、正面から主人の部屋に入ることはなく、天井部分へと向かった。今の主人は1人のようだ。
「何用だ、日川よ」
「我が主人よ、姫のことについてですが」
主人に姫、麗華のことを口に出せば、滅多に動くことのないこの屋敷の主人、緑川玲二郎の眉間にシワが寄った。珍しいこともあるものだと影、日川白葉は心の中で思う。それを口に出せば主人であり旧友の玲二郎は無言で魔術を放ってくるのは分かりきっていることであった。
「姫は何かを思い立ったのかのように、書庫に向かい歴史書と魔術の初歩的な本を手に取り部屋に戻っていきました。姫の生まれる前に出た占いの内容に意味があるのではないかと思いまして」
「確かに、麗華が生まれる前に出た占術の結果には『神の愛子』と出てはいたが、学ぶ事が果たしてその占術の内容に関係があるかは、まだわからん」
「確かにそうではありますが、もし姫が『神の愛子』である事が他の者たちに知られれば喉から手が出るほど欲しがるものも出てくるでしょう」
白葉が意見をすれば、何かを考えるように下を向いた玲二郎を見て、何か策を考えているのだと感じる事ができる。伊達に長いこと一緒に相棒をしているわけではなかった。
「白葉よ、お前の子の詩緒理と雅久を麗華の護衛として着けることはできるか?」
「可能ではありますが、詩緒理や雅久には、主人は自ら選ぶよう言い聞かせているため、着けれるかはあやつら自身が決めることでしょう」
「それでも構わぬ、麗華に会わせて見てくれ」
「承知」
主人へと報告も終えた白葉は、主人の部屋から消えるように去る。去った後、主人がため息をついたことを知らずに、自らの子供達の元へと向かった。