Episode46 制裁
枢機卿様に暇乞いをして大聖堂を出て、私は制裁の面々の待つ教会地下に向かっていた。まさか、尊敬するあの御方からあれほどのお言葉をもらえるとは思っていなかったので、今もまだ気分が高揚している。これまで教会、聖ミエル様、そして何よりもナイーラ枢機卿様に尽くしてきた甲斐があったと、改めて思う。路頭で迷っていたこんな私を救ってくれたあの御方の役に立てたというのなら、それほど嬉しいことはない。
だが、一つだけ納得のいかないこともある。それは、枢機卿様が“先生”と呼ぶ、突然に現れたあの刺青の男のことだ。確かにあの男の持つ技術は圧巻の一言に尽きる。教会選りすぐりの精鋭部隊“制裁”の力を更に底上げしたことには私も感謝している。しかし、それ故にあの男がどれだけ危険な存在かも分かった。まだ日が浅いというのに枢機卿様はあれを信頼しすぎている。
あの男が枢機卿様に刃を向けようものなら私が直々に始末する。不本意ではあるがあの男の力を貸し受けたことで、私も今や体の半分が化け物なのだ。そこらの小隊程度は一蹴できる自信がある。あの男の実力は不明だが、単身で今の制裁全員できるような相手はいない。制裁は私の指示一つで動く教会最強の部隊。抜かりはなかった。
「戻ったのか、隊長」
制裁の本部に入ってすぐに私に声を掛けてきたのは、部屋の壁に寄り掛かった長身の男、ウェイル王暗殺の実行犯である人形遣いヤクシャだった。
「ええ。枢機卿様は大層お喜びになられたわ。貴方に任せて正解だったようね、私も感謝するわ」
「報酬相応の働きをしたまでだ」
いつものように素っ気なく答えるヤクシャ。しかし、彼としても計画が上手くいったことが嬉しいのか口角が僅かに吊り上がっていた。
「隊長! ヤクシャに良いところを全て持ってかれて不完全燃焼のアスタ達はどうすればいいのよ?」
次に離し掛けてきたのは、殺伐としたこの場所には不釣合いな十代半ばの幼げな少女。しかし、そんな彼女も制裁の名に恥じない高い実力を持った兵士の一人だ。
「しょうがないのよ、アスタ。隠密行動が重要な今回の任務で適任だったのはヤクシャ。どちらかといえば荒行事が貴女の得意分野でしょう?」
「でもさー」
「それくらいでやめとけ。これからウェイルとの戦が激しさを増すし、その時に遊びにでも行けば済む話だろ?」
駄々を捏ねるアスタを諌めたのは大柄な男、私の教会軍在籍時の同期でもあるウィルバだった。
「ウィルバが言うならそうする!」
「まあ、まずは隊長の話を聞いてからだな」
元気良く返事をするアスタの頭をウィルバがポンポンと優しく叩く。すると、彼女は歳相応の可愛らしい笑顔で嬉しそうに跳ねていた。
「それで、隊長。次に俺達はどうすればいい?」
「枢機卿様の指示があるまではそれぞれ自由に行動してもらって構わないわ。ただし、連絡は逐一すること。いいわね?」
制裁の面々、ヤクシャ、アスタ、ウィルバの三人は頷く。優秀な部下三人を見回して私は笑みを浮かべた。枢機卿様、私達の準備は万全です。必ずやあの忌まわしき財団の女狐を仕留めて見せましょう。




