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幻実記  作者: Silly
ケピラス編
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Episode43 戦いの幕開け

 緊張感漂う、狭い部屋の中で二人の男女が向かい合っていた。男は紫色の外套に身を包み、顔全体を鳥を模した仮面で覆っている。だんまりを決め込んで立ち尽くすその姿からは何を考えているかは全く窺い知れない。対して軽いウェーブの掛かった黒髪の女は腕を組み、険しい表情で男を睨むように見据えていた。


「……お前の言い方からすると、追跡されている可能性は高いのね?」


 女の問いに仮面の男はゆっくりと頷く。すると、更に女の顔は厳しくなる。


「いくら人間離れした力を持つお前でも、相手は黒衣の復讐者。勝算はあるのかしら?」


「正直なところ俺にも分からない。剣を交えた感想からすれば、あの男の方が力量は上だ。一筋縄でいく相手ではない。だから、あんたの指示を仰いだ」


 淡々と話す仮面の男に女は呆れた様子で深いため息をついた。


「言ってくれるじゃない。お前をウェイルに遣った時点でこうなることはある程度予期していたけれど、こう現実として突き付けられるとさすがの私も困るわよ」


「でも、策はあるんだろ?」


「……まあね。上手くいくかはお前の運次第かしら。もちろん、乗るわよね?」


「今更、無理難題を押し付けられたところで何も問題はないさ。これまで散々あんたに酷使されてきたんだからな」


「それはお前の望んだことでしょう。ただ、一つだけ言わせてもらうけどね。レイヴン、お前確実に死ぬわよ」


 女に面と向かって死刑宣告をされた仮面の男……レイヴンは大して動じることはなかった。


「メルトナ。俺は惚れた女の為なら、別に命なんて惜しくないさ」


「あのねえ……」


 メルトナ。そう呼ばれた女は不機嫌そうに眉を顰めるものの、満更でもない様子だった。


「お前はいつもそう。そういう戯れ言をさらっと言ってのけるから嫌いよ」


「……ここまでの話は全て計画の範囲内だ。“復讐者”を始末した暁には、エイギリカはもうあんたのものになる」


「その代償が唯一無二の部下の命とは……釣り合ってないわね」


「大陸と一人の人間の命を天秤にかけたら、どっちが重要かぐらいあんたには分かっているだろう」


 だが、メルトナは納得がいかないのか首を横に振った。


「それでも。私個人としてはお前を失うことの方が辛いのよ」


「あんたは今後のエイギリカを背負う財団の代表だ。そんな大層な役目を担う人間がそんなんでどうする」


「自分の立場くらいわきまえてるわよ。私が言いたいのは……」


「何にせよ、運が悪かったな。余計な邪魔が入らなければ、教会如きはどうにでもなった」


「いいえ。それがそう簡単な話でもないのよ」


「何?」


 訝しげに尋ねるレイヴンにメルトナは神妙な面持ちで答える。


「教会には“先生”がいるみたいよ。お前の戦った教会からの刺客、あれもそいつの差し金らしいわ」


「道理であの操り人形からは人ならざる者の気配を感じたわけか」


「その通り。これからは教会の一つ一つの動向にも注意を払う必要がありそうよ。教会には一月前に他の腕利きを多数遣ったけれど、先生の存在くらいしか情報は得られていない。しかも、一週間前から部下からの一切の連絡が途絶えている。殺られたと見て間違いないわ」


「だが、あんたを復讐者から守らなければならない以上、俺がここを離れるわけにもいかない。どうするんだ?」


「今のところ教会は放置する他に選択はないわね。最優先事項は復讐者の始末。これ以上アレを野放しにはできないでしょう」


「良い判断だ。二兎追う者は一兎も得ず。中途半端な状態で解決できるほど簡単な問題じゃない。ウェイルが落とされた今、教会もあっちに人材を割かざるを得ない筈だし、おそらく大丈夫だろう」


「そう願うばかりね。最後の最後でこんなにも問題が出てくるなんて、運命に見放されたようだわ」


「運命ってのは翻弄されるものだ。嘆いたところで何か解決案が出るわけでもない。俺は俺のできること、あんたはあんたのできることをするだけだ」


「……そうね」


 二人の男女は張り詰めた空気の中で、これから巻き起こるであろう壮絶な戦いを静かに見据えていた。

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