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幻実記  作者: Silly
城下街ウェイル偏
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Episode42 協定続行

 三日が経ち、ブランクとの約束の日がやって来た。フィオの状態は良好で、もうしっかりとした足取りで歩けるまでになっていた。これなら、激しい戦いはまだしも、ペースを守ればケピラスまで歩いていくことはできるだろう。フィオには、予め会う前にブランクのことを伝えておいた。今、待ち合わせ場所の宿へ、無事に退院した彼女と並んで俺は向かっている。


「まさか、私達を追ってきていた魔族がこの街にいたなんてね……」


「確固たる証拠を得たわけではないけどな。おそらく、あの出で立ちからして間違いないと思う」


「獣男の情報は全くだったけど、彼と行動をともにすれば、何か分かるかもしれないね」


「そうだな」


 突然、フィオは立ち止まって俺の方に向き直ると、いつもの優しげな笑みを浮かべて口を開いた。


「本当にありがとね、ジン」


「いきなり改まってどうしたんだよ」


「君が毎日のように病院に見舞いに来てくれたから、私もリハビリを頑張れた。感謝してもしきれないよ」


「急に言われると照れるな……。礼には及ばないよ、俺達は仲間だ」


「……私は勝手に一人で行動して多大な心配と迷惑を君にかけた。でも、責められるべき立場の私に君は何も不平不満を言わなかった。せめて、お礼ぐらいは素直に受け取って」


「……分かったよ。どういたしまして」


「うん!」


 満面の笑みでフィオは明るく返事した。太陽に照らされた彼女の顔はあまりにも綺麗で、思わず胸がドキッとした。


「どうしたの? 顔赤いよ」


「いや、何でもない。……ほら、早く行くぞ」


「ちょっと、病人をそんなに急かさないでよー」


 フィオに火照った頬を見られたくないからか、いつもよりも早足で俺は歩く。彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、そんな俺の後ろをついて来ていた。


「初めまして、ジンの仲間のフィオです」


「ああ、初めまして。彼から話を聞いていると思うが私はブランクだ。怪我の治りが良さそうで何よりだよ」


 すでに宿の食堂で俺達を待っていたブランクとフィオは軽く自己紹介を交わすと、彼はすぐに本題を切り出してきた。


「どうだ? ともにケピラスに行くか?」


「喜んで。私にはあの仮面の男に借りがあるし。それに、腕の立つ仲間が一人でも多いと心強いからね」


「俺もフィオと心は同じだ。仲間を酷い目に遭わされておいて、このまま黙って見逃すつもりはないな」


「良い返事だ」


 俺達の答えを聞いて満足そうにブランクは笑った。


「出立は明日だ。滅び行くこの街に長居する意味はない。二人ともそれでいいな?」


俺達は同時に深く頷いた。国王の座が不在となり、この数日間で城下街ウェイルは随分変わってしまった。街全体が荒み、通りでは常に怒号が鳴り止まず、酷い有様だった。これから起こる二大勢力との戦争に巻き込まれる前に、一刻も早くこの街を出たいのは皆同じだ。


「では、解散。明日の早朝に街の北門にて待つ。遠方にあるケピラスまで長い旅になる。今日中に食料の調達は各自で済ませてくれ」


 ブランクは俺達の反応を待たずにくるりと踵を返すと、すたすたと歩き去ってしまった。忙しい男だが、今の彼はやけに焦っているように見えた。やはり、どこまでかは知らないがブランクのことを知っていた仮面の男を早く捕まえたいのだろう。街を出て暫くしたら少し探りを入れてみるか。


「彼、普通じゃないね。ただ向かいに座っているだけなのに、金縛りにあったみたいだったよ……」


「そうなのか? 俺は何も感じなかったが」


「他の冒険者や旅人が彼……ブランクという男を避ける理由が分かった気がする。魔族であれ何であれ、彼の内に秘めたどす黒い感情は相当なものだよ。細心の注意を払ってブランクには接触した方がいい。私達を殺すことなんて、彼には何の躊躇いもない。敵に回してはいけない相手だ」


 いつになく真剣な表情でフィオは問う。俺は唾を飲み込んで、黙って頷くことしかできなかった。


「じゃ、明日の出発に備えて支度をするよ。私達も行こう」


 フィオは有無を言わさず俺の右手を握って勢いよく立ち上がり、足早に歩き出した。彼女をここまで怖れさせるとは、一体ブランクとは何者なのだろうか。謎は益々深まるばかりで、頭に掛かったもやは一向に晴れそうになかった。

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