Episode41 二度目の情報
メアラーシティの路地裏で、再び二人の黒い男が向かい合っていた。煙草を吸っている深くフードを被った少年の表情は明るいが、対する黒い外套を着込んだ男の表情は暗い。
「次はケピラスか、黒服も忙しいな」
やれやれ、と黒衣の少年は煙草の煙を吐き散らして言った。
「大損を被ったんだ。商売をやってるお前なら私の気持ちも分かるだろ?」
黒服と呼ばれた男は笑みを崩さぬまま、憤怒に満ちた暗い瞳で訊く。少年は快く頷いてみせた。
「もちろん。いいぜ、調べてやる。いくら出す?」
「言い値で構わん。何としても財団から来たあの男の情報が欲しい」
一寸の迷いもなく即答する黒服に、少年は面白いというように口の端を吊り上げた。
「如何なる代償も厭わない、か。黒服らしいな。その揺るがない信念に敬意を表して、今回はサービス価格だ。この前の半分、金貨十枚で手を打とう」
「……悪いな」
「ただし、財団の間者からは大した情報を得られないから時間は掛かるぜ。今回はエイギリカの“便利屋”を使う」
黒服の目が疑念を孕んだものに変わった。
「正気か? 一度袂を分かった連中にお前がどうやって接触する」
「何、簡単な話だ。便利屋の顧客の名前ぐらいは俺の頭にちゃんと残ってる。その名義で依頼を入れれば受けるさ」
少年は更にその笑みを強めるが、黒服の表情は曇ったままだった。
「疑われはしないのか? バレれば間違いなく奴らは裏切り者のお前を総出で殺しに来るぞ」
「自分の身の安全くらい自分で守るさ。黒服こそ俺の実力は分かってる筈だぜ」
「ははは、それもそうだな。あの血塗れた戦いの生き残りには無用な心配だったか」
「お互い様だ。……情報についてだが、少なくとも一月はもらう。今回ばかりは相手が相手で黒服の影を使うわけにもいかないぜ」
「ケピラスに着くまでに間に合えばいいさ」
「交渉成立だ。一月後、もう一度顔を見せに来い。その時には黒服に必要な情報を用意しておこう」
「恩に着る」
その言葉を最後に少年の前に立っていた黒服と呼ばれた漆黒の影は霧散する。少年はそれを見届けると、すっかり燃え尽きてしまった煙草の吸殻を宙に投げ捨てた。
「賽は投げられた。財団に教会、魔族に怪物、誰が生き残るか見ものだな」
愉快な様子で少年は夜の都で一人、暗い微笑みを浮かべていた。




