Episode40 リオンド滅亡
「ケピラスは知っているか?」
宿の食堂で合流した開口一番にブランクはそう言った。
「知らないな。土地には疎いんだ」
「ケピラスはエイギリカ二大勢力の一、アギア財団の本部のある大国だ。そして、私を襲ってきた仮面の男はその方角に逃げていった。この意味が分かるか?」
試すようにブランクは笑う。
「つまり……あの男の雇い主は財団の人間なんだろ」
「その通り。となれば、消去法であの人形を放った者は教会からの刺客ということになる。ここで質問だ。ジン、私達はどちらを追うべきだ?」
「唐突だな……。それよりも、国王は無事だったのか?」
ブランクは両手を広げて首を横に振った。真っ黒な瞳に暗い怒りの感情が見える。
「駄目だったよ。私と君の警備していた南と西の人形は倒せたが、北と東は落とされたらしい。私が着いた時にはすでに国王は頭蓋を潰されて息絶えていた。おまけに、人形二体の行方も分からない。あれだけの人員を配備していて何たる失態だ」
「命懸けで守ったんだ、そう酷い物言いをするな」
「結果が全てだ。おかげで情報料に多額の金をつぎ込んだ私は大損だよ。ウェイル王が死んだことで依頼の意味もなくなり、報酬が支払われることもない。文字通り頭を失ったこの国ももう終わりだ。だから、戦争に巻き込まれる前に私達はこのウェイルを出た方が得策だな」
「だから、どちらを追うべきか、か。俺達にはもうその選択しか残されていないと、そう言いたいわけだな。でも、これ以上この国の事情に首を突っ込んでも何も得はないんじゃないか? わざわざ危険を冒してまで刺客を追う意味はない」
ブランクの言わんとしていることがようやく飲み込めたが、あまり合理的ではない。納得のいかない俺に彼はまた試すような微笑で問うた。
「確かにそうだ。だがな、ジン。君は仲間を傷付けられて黙っていられるほど薄情な人間ではないだろう?」
「……」
答えられなかった。少年の化け物に追い詰められた時に助けられたとはいえ、フィオに重傷を負わせたあの仮面の男は憎かった。このまま放ってはおけない。
「実を言うと、私もあの仮面の男を追う理由ができた。お互いの利害は一致している。どうだ、このまま手を組んでケピラスまで出向いてやろうじゃないか」
「……最初から選択肢なんてないわけか。しかし、まだ療養中のフィオをここに置いて行くわけにもいかない。危険が増すというのならなおさらだ」
「そんなことは分かっている。すぐにとは言わないさ。最低でもあと三日は私もこの街に居座るよ。それまでに結論を出してくれればいい。長年中立を保ってきた国が徐々に滅びていく様を見届けるのも悪くない。幸い、この街のギルドはまだ営業停止には至っていない。三日もあれば旅の資金をある程度貯めるのに十分だろう?」
「承知した」
このブランクという男はどこか歪んでいる。会話の節々で彼の異常さが感じられる。信用はしていないが、あの少年の化け物を屠るほどの腕は信頼できる。間近でこの男に探りを入れられることも含めれば、このまま行動をともにする方が都合が良い。
「君の連れの回復を祈るよ」
「感謝する」
「では、そろそろ私は失礼するとしよう。調べ物が増えたからな」
「最後に一つ訊いてもいいか?」
「構わない」
「……あんたが仮面の男を追う理由は何だ?」
「彼は私が会ったことがないにもかかわらず私のことを知っていた。追う理由としてはこれで十分だ」
「そうか、腑に落ちたよ」
「……三日後、この場所で」
「ああ、分かった」
「ではな」
ブランクはくるりと踵を返し足早に歩き去っていった。その様を見て、俺は予感が確信に変わった。彼の背中はメアラーシティで俺達を尾行してきた漆黒の影に酷似していた。間違いない。あの男が、魔族だ。




