表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻実記  作者: Silly
城下街ウェイル偏
39/49

Episode38 復讐者と烏

 迂闊だった。刺客は二人しかいない、という先入観に囚われた結果、多くの犠牲者を出した。街に入る前から、沢山の人間が死ぬ予感がしていたが、結局、未然に防ぐことはできなかったのだ。


 刺客の排除には成功したが、その代償は大きい。しかも、その刺客とは単なる操り人形に過ぎない。他の警備場所でも同じ化け物が出現したとの情報があった。こいつらを操っている人間が必ずいる筈だ。しかし、今のところそれを見つけ出す術はない。


 まずはウェイル王の身の安全を確保するのが先決だ。そう思い私が駆けつけた時には、すでに城門を守る兵士も全滅していた。


「惨いな」


 どの死体も一部が原型を留めていなかったり、中には元は人間だったとは思えないほど悲惨なものもあった。やはり、襲ってきたあの人形は複数体ばら撒かれているようだ。このままでは王の命も危ない。急がねば、と思った矢先、邪魔者が現れた。


 昼間にあのジンという青年の言っていた、例の鳥の仮面を被った男だ。声を出そうにも音がない。半信半疑だったが、実際にこの状況に直面すると、襲われた王室の人間の話も馬鹿にはできないな。


 仮面の男は長剣を抜くと、すぐさま襲い掛かってきた。向こうも最初から殺り合う気らしい。私は右手で握る小機関銃の銃口を近付いてくる男の眉間に向けて連射する。


 男は私の出方を予測していたかのように身を反らして華麗に銃撃をかわすと、その体勢のまま長剣を私の腰辺り目掛けて振り切った。やけに手際が良い。私のことを知っているのか? だが、そんなことを考えている暇はない。左手で軍刀を引き抜いてその一撃を受け止める。


 激しく鋼鉄同士がぶつかり合い火花が散るが、音はしなかった。鍔迫り合いの一瞬に仮面の男の顔面に更に何発か叩き込むが、彼は弾かれたように仰け反ってそれも回避した。


 私は確信した。この仮面の男も、あの青年と同じ“似て非なる者”だと。容易く銃弾を避ける尋常ではない反射神経と身体能力に、発生する全ての音を掻き消す異能。普通ではない。何が目的で私を襲うのかは知らないが、殺す前に色々と聞き出さねばなるまい。


 影を生成する隙もないほどに仮面の男との戦いは熾烈を極めた。小機関銃は途中で弾切れを起こしたが、新たな弾丸を装填する時間もない。ただの鉄塊を地面に捨てて、私は止むを得ず軍刀のみで彼と一進一退の攻防を繰り返していた。夜明けが近くなるにつれて、男の猛攻は更に勢いを増す。


 明けの明星が見え始めたその時、仮面の男の様子が変わった。前触れもなく私と距離をとるように素早く後退し、背を向けて逃げ出したのだ。ここで逃がすまいと私は影を総動員して男を追いかける。八体の影は個々の能力では私自身に大きく劣る。だが、動きを止めるのには十分だ。


 影を使って仮面の男を取り囲み、追い詰める。男は何度も影を切り裂くが、ばらばらになった体はすぐにまた再生する。いくら傷付けたところで所詮は影に過ぎない。実体はあれど不死身に限りなく近い存在だ。鉄剣如きでは何の影響もない。加えて、影の攻撃は生物にちゃんと当たる。相手する者からすればかなり厄介であろう。もう音も聞こえるようになっていたので、私は嘲りを込めて満面の笑みで彼に言った。


「まだ戦いは終わっていない。さあ、どちらかの命が尽きるまで、続けようじゃないか」


「悪いが時間切れだ。あんたは何も分かっちゃいない。そのまま一生“復讐”に躍らされていればいい」


「……お前、どこまで知っている?」


「じゃあな」


 仮面の男が天を仰ぐと、彼の外套の背を突き破って美しい黒翼が生え出てきた。そして、何をするか勘付いた私が影で総攻撃を仕掛ける前には飛び去っていった。生憎、飛び道具は捨ててしまって、大空に逃げられてしまうと追撃する手段がない。だからといって、手元にある軍刀を投げ付けるわけにもいかないだろう。ここは、諦めるか。あの仮面の男が飛び去ったのは北西の方角。その先にあるのは大国ケピラス。つまり、あの男の雇用主は……。


「無事だったか、ブランクさん」


 仮面の男と全く同じ声がして驚いて振り返った私が見たのは、漆黒の全身装甲を着た青年、ジンだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ