表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻実記  作者: Silly
城下街ウェイル偏
36/49

Episode35 正体不明の協力者

 城壁付近での警備が始まっても、その日、フィオが来ることはなかった。よっぽど、彼女は俺に怒っていたのか。それは、おそらく違う。彼女に限って約束を破棄するような真似は絶対にしない筈だ。まだ出会って数ヶ月だが、俺は彼女を信じていた。


 そして、翌日の早朝。思いもよらない悪い報せが俺の元に届いた。長い金髪の女性が何者かに襲われ、意識不明の状態で病院に運び込まれた、と。その報せを訊いてすぐに俺は宿を飛び出し、襲われた女性がいるという病院へ向かった。広大なウェイルの街を無我夢中で走り回った。


 襲われた金髪の女性は、やはり、姿を消していたフィオだった。彼女は病院のベッドで死んだように静かに眠っていた。


「彼女はどこで襲われたんですか!?」


 フィオの看病を行なっていた看護師に尋ねる。


「まず、落ち着いて下さい」


 この状況で落ち着いていられるか。だが、今は看護師と言い争っている場合ではない。彼女を斬り付けた人物が、一体、何者なのか突き止める必要がある。


「彼女は路地の行き止まりで倒れていたところを、昨夜遅く偶然通りがかった街の住人に発見されたということです。この時点で、彼女は何者かに背中を深く切り付けられており、切り口からの出血が深刻で、あともう少しで命を落とすところでした。ですが、もう背中の切り傷は縫合できたので問題ありません。運良く臓器まで刃物が届いていなかったので傷口が治れば回復後も支障はないと思います。ぎりぎりのところで助けられて本当に良かったです。あと数日もすれば目を覚ますことでしょう」


「そうですか……ありがとうございます」


 フィオが無事で安心したが、どうも腑に落ちない。一体、誰がフィオにこんな真似をしたのか。それに、彼女がそこらの相手に遅れをとるとは思えない。


「おや、ジンじゃないか」


「あんたは……ブランクさんか」


 ブランクは薄笑いを浮かべたまま、堂々と病室に入ってくると、横たわるフィオのことを見た。


「一体、何しに来たんだ?」


「昨晩、この街で人が切られたと聞いて少し気になってな。いやはや、まさか君の連れだとは思わなかったよ」


「ああ、俺の仲間だ。悪いが、興味本位で来たのなら帰ってくれないか?」


「そう冷たくするなよ。別に何かしようってわけじゃないんだ。容態は?」


「命に別状はないそうだ。本当は昨日の警備が始まる前に宿で合流するつもりだったんだが……」


「当然、彼女を傷付けた奴を追うんだろ?」


「当たり前だ。仲間をこんな目に遭わされて黙っていられるか」


 ブランクは満足そうに頷くと、宿の時と同じように右手を差し出してきた。


「だったら、私にも協力させてくれ」


「えっ?」


「人手が増えても困ることはないだろ? 別に対価として何かを要求するわけでもないし、悪い話じゃない筈だ」


「しかし……いや、なんでもない」


 お前はメアラーシティにて俺達を尾行してきた影の本体、魔族ではないのか、という言葉が出そうになったが、そこは何とか押し留める。確信がない今、ブランクに追及することはできない。彼があの魔族と違った場合は疑われるし、もしそうだとしても簡単に尻尾は出さないだろう。


「なら、お願いしよう。改めて、よろしく。ブランクさん」


 ブランクが何を考えているのかは分からないが、手を貸してくれるというなら、彼のことも探れるし、人数が多い方がフィオを襲った犯人を見つけやすい。ここは好意に甘えることにしよう。俺は差し出されて手に自分の右手を重ね、再び、固い握手を交わした。


 フィオの寝ている病室を出て、俺達は今後の方針を話す為に宿に向かっていた。相変わらず奇妙な笑顔を崩さないブランクの思考は全く読めそうにない。


「さっきは訊きそびれたが、どうして俺に協力する気になったんだ?」


「ああ、単純な話だよ。金の為だ」


 ブランクは当たり前のことのようにそう言ってのけた。


「どういうことだ? 俺からは金をとらないんだろ?」


 彼は自信満々といった表情で頷く。


「もちろん。私が金を受け取るのはこの国からだ」


「ますます意味が分からないな……」


「君の連れは“背後から鋭利な刃物で切られた”。それは、この国の王室の人間達を襲った刺客の手口と一致する」


「つまり、フィオ……彼女を襲ったのは王室に差し向けられた刺客ってことか?」


「その可能性は大いにある。そして、刺客を私達の手で捕らえられれば……言いたいことは分かるな?」


「国から莫大な報酬金が送られる。あんたの言った通り単純だな。……あんたに人間的な一面があると知って安心したよ」


「ははは、私を一体何だと思っていたんだ」


 魔族、とは口が裂けても言えない。だが、ブランクの目的の一部が分かっただけ良かった。彼が人並みの欲望を持ち合わせていることに安堵する。赤の他人の為に損得抜きで動く人間は異常だ。金の為、これほど信頼できる理由はない。正義やら何やらの綺麗事を並べる者の方がよっぽど危険である。


 他者に話を聞かれたくないという理由で、俺とブランクは王室に用意された宿の彼の個室にて作戦会議を始めた。


「あんたはどこまで掴んでるんだ?」


 まずはお互いの情報共有からだ。とはいっても、俺はまだ街に来たばかりで何も知らないので、ブランクから話を聞くだけになる。


「残念ながら、さっき言った以上のものはない。刺客の手口が鋭利な刃物で背後から一撃を加えるということ。あとは、刺客の影が現れ始めたのが五日ほど前からということぐらいだな。そういえば、被害者の一人が妙なことを言っていたらしい」


「妙?」


「確か、切られた時に“声が出なかった”と。それも、刺客を見つけられない要因の一つだそうだ。曰く、刺客は一切の音を発することがない。足音一つ立てず、狙った相手の悲鳴すらも掻き消す、と」


「待て、音がないと言ったか?」


 音がない。その現象に、俺は一度直面している。ウェイルへ向かう道中、リオンド領国境付近の山の麓にて、俺を襲った奇妙な風貌の男。あの男と戦っている時も終始無音で、近くで寝ていたフィオも気付くことができなかった。あの仮面の男がウェイルへの刺客の可能性は高い。


「ああ。それに、不可解な点なら他にもある。まだ死人は一人も出ていないことだ。君の仲間も重傷を負わされはしたが、死んではいない。自分の姿を隠し通せるような人物がターゲットを取り逃がすような真似をすると思うか? 私にはわざと生かしているように思えてならない」


「そのことについては俺には分からないが……一切の音を立てないって話は心当たりがある」


「ほう? 是非お聞かせ願いたいな」


 俺はブランクに仮面の男と戦った時の話を覚えている限り話した。


「烏の仮面を被った長剣使い、か。そいつと会ったのはいつだ?」


「今から約八日前だな」


「……仮にその仮面の男が刺客だとすると、リオンド領手前のあの山からたったの三日でこのウェイルに辿り着き、すぐに王室の人間を襲ったことになる。しかし、それは無理だ。昼夜ずっと歩き続けても最低四日は掛かる距離だからな。空でも飛べるのなら別だが」


 即ち、彼は刺客と仮面の男は全くの別人だと言いたいようだった。でも、直接あの男と一戦交えた俺にはそうは思えない。何かを見逃している気がしてならなかった。


 お互いの知っていることを全て話し終えると、ブランクはこれからの行動について切り出した。


「あまり出過ぎた真似はするなよ。実力の分からない相手に挑むのは愚者のすることだ。とにかく、今は情報がなさ過ぎる。当面は夜中に警備をこなしつつ、昼間は情報収集に尽力することにしよう」


「情報屋に当てはあるのか?」


 ブランクはその笑みを更に凶悪に歪めて、徐に立ち上がった。


「まあな。では解散だ。今夜、もう一度宿で落ち合って成果を語り合うとしよう。なあに、心配はいらない。君の連れみたいにはならないよう最大限警戒はするさ」


 彼は手を振ってくるりと踵を返すと、ブーツで床をコツコツと鳴らしながら部屋を出て行った。何かを隠しているのは確かだが“今のところ”は味方と考えよう。俺は無言で彼を見送った。


「……俺もやるだけやってみるか」


 情報集めはいつもフィオがやっていたのでどうすればいいのか全く分からない。

しかし、今はそのフィオがいないのだから、俺が動くしかないのだ。自室に戻って手早く準備を済ませると、俺はすぐに街へと繰り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ