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幻実記  作者: Silly
城下街ウェイル偏
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Episode28 不穏な影

 宿に戻った俺とフィオは部屋に備えられた椅子に向かい合わせに腰掛ける。まずは彼女から先に口を開いた。


「魔法の話、だったよね。これに関しては私も詳しくは知らないけれど、私の知っていることを話すよ。まず、魔法を使えるのは“魔族”のみ。呪いはこの限りではないけどね。彼らは大昔から大陸各地で暮らしていた種族で、人間に酷似している。文献にも魔族についての事柄が多く残されているんだ」


「魔族、か。その種族だけなんだな。魔法を使えるのは」


 フィオは深く頷いた。


「そう。魔族が魔族と呼ばれるのは魔法を自在に操れることに由来している。それは、例えば何もないところから火や水を生み出したり、空を飛んだりとか。昔の人々はその理解の範疇を超えた力を魔法と名付けて、魔法を扱う彼らを魔族と呼び、畏怖と崇拝の対象とした。……最初はね。いつしか、自分達と違うというたったそれだけの理由で、魔族を恐れ疎ましがるようになったんだ。傲慢な人間達に住処を追われて、戦いを好まない魔族は次第に人間の住む場所から姿を消していった。酷い話だよ。彼らはどこかで、今もひっそりと暮らしているといわれている。これが私の知る魔法と魔族についての全てかな」


 フィオの言う通り理不尽な話だ。戦いを好まないという魔族の性質たちからして人間に危害を及ぼすようなことはなかっただろう。しかし、人間は種族の違いなんて些細なことを理由に彼らを追い出したのだ。


「話すことは話したし、そろそろジンが何を見たのかを教えてもらってもいい?」


「……分かった、ありのままを話そう」


 それから、俺の身に起きたこと全てをフィオに見たまま伝えた。店に入る前から俺達が何者か尾行されていたこと。そして、その何者かはまるで“影”そのもののような信じ難い姿をしていて俺の前に現れたあと意味深げな言葉を残し一瞬で煙のように姿を消したこと。

 

 フィオは話を聞き終わると顎に親指を当てて俯き、険しい顔で唸った。彼女も尾行されていることを薄々は感付いていたようだが、危害を加えられない限りは様子見をするつもりだったらしい。それから暫くして一つの結論に至ったのか彼女は顔を上げて静かに口を開いた。


「魔族と魔法に関しては前に古い文献で目を通した程度で、直接、私が魔法を見たことがあるわけじゃないからジンの見たものを魔法と断定はできないけど、おそらくそうだと思うよ」


「何か理由があるのか?」


「うん。まず、いくら魔法といえども生命の創造だけはできない。ただ、それに近い形として自分を模した分身を作り出すことができるらしいんだ。その分身は本体と意識を共有していて、視覚などから得た情報をそのまま本体に伝え、本体が消滅を命じれば最初から何もなかったかのように消える。君の見た影はその分身の特徴によく似ていると思わない?」


「そうだな」


「何を企んでいるのかは知らないけど、その影が魔族によって作り出されたものである可能性は極めて高いだろうね」


 影の姿は人間のようであったし、跡形もなく姿を消したのも彼女の話と辻褄が合う。それにしても、影越しに本体が俺のことを見ていたというのは何とも不気味な話だ。


「一体、何の目的でその魔族は影による俺達の追跡を?」


「ジンを見て影は“似て非なる者”と言ったんだったね。だとしたら……刺青の男の関係者か何かかもしれない。君とその男の共通点は人間であり化け物であること。多分、その魔族は何らかの目的で合成魔獣を追っているんだ」


「俺とフィオの他に奴を追う者がいるということか?」


「おそらく、ね」


 複雑そうな表情でフィオは言う。彼女の推測がもしも当たっていたのなら、必ずどこかで影の本体と遭遇することになる。


「果たして、敵か味方か。どっちだろうな」


「……少なくとも味方ではないよ。影は本体と同等の力を持つというけど、相対した感想は?」


「今まで感じたことのないような重圧だった。正直、俺達二人で戦ったとしても勝てるかどうか分からない」


「そっか……。厄介事がまた一つ増えたね」


「ああ」


 突如として俺の前に現れた影。あれを敵に回すとなると気が滅入ってしまいそうだ。それなりの危険を覚悟してはいたが、もう一度気を引き締めなおさなければならない。今まで俺は二体の強大な化け物と戦ってきた。だが、あの影はそいつらを遥かに凌ぐ強さを持っている。とてもじゃないが、今のままでは全く歯が立たない。内戦が勃発しているエイギリカ大陸に渡るとなればなおさら、これまで以上に戦いの激しさは増す。俺には、もっと力が必要だ。何者にも負けない強さが。


「深く考えていてもしょうがないね。今はとりあえず体を休めて明日に備えよう」


「分かった」


 フィオに促されて俺は全身装甲を脱ぎ捨て、ベッドに仰向けに倒れ込む。ナタリアとの戦いで体は疲れが溜まりきっており、目を閉じれば、すぐに眠れてしまいそうだ。俺に続いて彼女もすぐに隣のベッドに潜り込んだが、その顔はいまいち気分が晴れないように見えた。刺青の男のことといい俺達を追っていた影といい彼女も考えることが多いのか。


「フィオ」


「何?」


「色々と考えていても埒が明かないよ。明日のことだけ考えて今はゆっくり休め」


「……そうするよ」


「じゃあ、おやすみ」


「おやすみ」


 悩んでいても仕方あるまい。俺は彼女に言った言葉を自分にも言い聞かせて眠りについた。

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