Episode26 復讐者の嘆き
「許してくれ……頼む……」
私を殺そうとしたゲリラの男は、恐怖に顔を引きつらせて跪いていた。随分と身勝手なものだ。殺意を向けるなら、殺される覚悟を持たなければなるまい。
「ああ、許すさ」
私は男のこめかみに突きつけていた小機関銃を脇腹のホルスターに戻す。後は、逃げるなり何なり好きにすればいい。止めを刺す必要はない。男は安堵したようにほっとため息をついた。そして、次の瞬間、男は何を血迷ったのか懐からナイフを取り出し、私の心臓目掛けて突き刺そうとした。
せっかく助けた命を棒に振るとは馬鹿な奴だ。二度目はない。私は体を斜めに反らすようにしてその攻撃をかわしながら腰に差した軍刀を抜き、不意打ちをかわされて驚いたように目を見開いた男の眼球に軍刀の先端を突き刺す。刃は頭蓋を貫いて、男は痙攣を起こしながら地面に崩れ落ちる。
どうやら、自分に何が起こっているのかを理解できていないようだ。眼球を潰され脳髄に大穴を開けられれば、直に息絶える。一度は見逃してやったというのに、再度、私に刃を向けるとはあまりにも愚かだ。学習能力が決定的に欠けている。この大陸に入ってから、何人殺してきたか。紛争地帯である事はすでに聞いていたが、ここまでとは。私は快楽殺人者などではない。しかし、一度許したところで何も改善がされないのなら、殺すしかないだろう。
暫く歩いていると目的地が見えてきた。城下町ウェイル。ここ、エイギリカ大陸の二大勢力のどちらにも属さない中立国家。安全の確保と同時に、調べた限りではギルドが存在するらしいので小遣い稼ぎには最適だろう。それに、私の追う人物がいるかもしれない。あの男はメアラーに渡ったと聞いていたが、最近、この大陸の南側の港でそれらしき人物が目撃されたらしく、道なりに北上して来たのならばウェイルにいる可能性は高いのだ。
ふと、不吉な予感がした。以前、奴らに襲撃される直前に感じたものによく似ている。また、大勢の人が死ぬのか。その時が、いつになるのかは分からない。しかし、もしもその根源と成り得る者に会ったのならば、その時は抹殺するのみだ。後悔先に立たず。手遅れになる前に鉄槌を下さねばならない。事が起きた後に残る自身の無力感ほど虚しいものはない。
それとも、これはあの男との再会を暗示しているのか。それならば、復讐の終わりは近いだろう。死んでいった者達の深い悲しみと憎しみ、怒りがやっと報われる時が来た。必ず、お前達の無念は晴らすさ。私は過去の亡霊だ。故に、過去に大罪を犯したあの男を殺す。この先にあるのが修羅の道だろうと、過去に見たあの地獄には遠く及ばない。
余計な事を考えている暇はない、か。どうなるにせよ、予感の真偽を確かめるにはウェイルを散策しなければならない。……できれば、無駄な戦いは避けたいものだ。




