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幻実記  作者: Silly
メアラーシティ編
21/49

Episode20 便利屋リリス

「まさか、あたいが利き腕をもがれるとはね……」


 なんて、恐ろしい少女だろうか。“便利屋リリス”の一員であるあたいの全力が彼女のあの大鎌の一振りで対処されるなんて思いもしなかった。肘から先を失った右腕に左腕で包帯を巻くが、なかなか出血が止まらない。獣男、あんたが力を与えたあの女の子は想像以上の化け物になったよ。あの調子じゃ、この都はもう終わりだ。みんな殺される。早くあたいもこの都から立ち去らないと大変なことになる。


 獣男はあたいを便利屋リリスの一人だと見抜き、依頼を持ちかけてきた。リリスの名を知っている者は多いが、その正体を知っている者は少ない。リリスに依頼をする者は“正体を知っているごく少数の人物”、またはその人物からリリスへの紹介状を渡されてやってくる。だが、あの男はそれを持ってもいないどころか、正体を知っているごく少数の人物でもない。


 もらうものはもらったから文句はない。ただ、あたいを知っていたあの男は気味が悪かった。奴の素性にリリスのの情報網を使って探りを入れても、何も情報は掴めないのだからなおさらだ。獣男が都を抜けて大陸を渡る手助けをしたことに後悔の念もなくはない。どんな仕事でも請け負うリリスだが、今回の依頼人はあまりに異常だった。あの男を探る手練れの女は現れ、商売道具の右腕も失い、散々な目に遭わされたがそれも仕事だと割り切るしかない。


 リリスはどんな仕事でも請け負うからこその“便利屋”。リスクは覚悟の上だ。


「無様なものだな、イカレ女」


 突然、暗い路地裏に響き渡った声にあたいは驚き、慣れない左手でククリを握り締め身構える。刹那、その声の主は屋根の上からあたいの目の前に降り立った。声の主の懐かしくも憎らしい顔を見て強い殺意が芽生える。


「今更、裏切り者が何のようだい。トゥルース」


 あたいは脅すようにククリの刃先を喉元に向けるが、そいつはそれを気にする様子はなかった。相変わらずの人を舐め腐ったようなその男の目つきに、殺意は増すばかりだが、残念ながらあたいにこいつは殺せない。トゥルースは頭もキレるが戦闘能力も人の域を超えている。化け物と化したあの少女ですら、おそらく、こいつには敵わない。


「その名はとうに捨てた。それで、怪物少女と戦った感想はどうだった」


「何故、あんたがそれを知ってるのさ。……まあ、いい。あんたの事だ、高みの見物でも決め込んでたんだろ。……感想なんて、右腕を失った、それだけだね」


「良かったな、イカレ女」


「あたいに喧嘩を売りにきたのなら、さっさと消え失せな」


「話は最後まで聞け。その右腕を取り戻す当てがあって良かったな、と俺は言っている」


「ハッ! 笑わせんな。裏切り者があたいに媚びでも売りにきたのかい? そんなことしてあんたに何の得がある」


「情報は金だ。リリスならそれぐらい分かるだろう。俺は最高の情報を売りに来ただけだぜ?」


「お前みたいな情報屋がいるかよ、トゥルース。一国の軍隊を壊滅状態までに追い込んだ化け物が情報屋気取りだなんて、何のコメディさ」


「俺はガキのまんまで、イカレ女は利き腕を失った。世の中はコメディだぜ」


 諦めの混じった乾いた笑みを浮かべてトゥルースは言った。相変わらず、こいつが何を考えているのか分からない。刃を向けられているというのに平気でウイスキーの瓶を直飲みするが、その子供のような見た目とはあまりに不似合いだ。


「誰があたいのこの右腕を治してくれるんだい」


「では、まずは情報料で金貨六枚を貰おうか」


 あたいは左腕でポケットから金貨を掴み取り、トゥルースに乱暴に投げつける。そいつは宙に散らばるそれら全てを器用に片手で受け取ると、金貨の数を数えて満足したようににやりと笑った。


「……ほら、これでいいだろ。あたいの気が変わらない内にさっさと教えて消えな」


「ロイ大陸の東、聖国領の街フラストに凄腕の義肢装具士がいる。値は張るが、リリスの管轄を離れてでも義手を作りに行く価値はあるぜ」


「義手ねぇ……」


 やはり、完全に元に戻すのはどの国に行っても無理だったか。リリスの知る中にもそういった再生技術を持つ者はいない。トゥルースの言う義肢装具士の話は初耳だが、偽物の腕を着けるなんてのは嫌な話だ。それに、わざわざ治療で別の大陸に行くのというのも面倒だった。


「その義肢装具士の作るものには魂が宿るという。まるで、本物の手足のようだと治療を受けた者は口を揃えて言うそうだ」


「きな臭い話だね。何者なんだい、その義肢装具士ってのは」


「名はルージェ。“魔族”だ」


「……なんて言った?」


「同じ事は二回は言わん。じゃあ、言われた通り俺は消えるぜ。イカレ女」


 愉快そうにトゥルースは笑うと、音もなく一瞬で屋根の上に飛び、夜闇の中に消えていった。静寂の中であたいは奴の言葉を反芻する。“魔族”の残党が、忌々しい戦争を起こした種族がまだ生きていると言うのか。……ロイ大陸に行く理由ができた。現地のリリスと連携して徹底的にそのルージェという奴を潰す。あたいの腕を治すのはそのついでだ。

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