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幻実記  作者: Silly
メアラーシティ編
16/49

Episode15 拘束2

 小窓から差し込んだ朝日と共に目が覚めた。残念ながら、起きて最初に目に入ったのは綺麗な海などではなく、冷たい鉄格子てつごうしだ。あれからダイモンに色々と質問された後、俺は半ば強制で牢獄に入れられた。やはり、このつらでは致し方ないが決して良い気分ではない。


 ダイモンの言っていたようにフィオのところに連絡がいったらしい。そのおかげで今、彼女と格子越しに再会する事ができている。手錠を掛けられた俺の不甲斐ない姿を見て彼女は不機嫌そうに眉をひそめていた。


「何かあったとは思っていたけど、まさか警察のお世話になっているとはね。朝から警官に呼び出されてせっかくの景色が台無しだったよ」


「悪いな。まあ、この顔では犯罪者と間違えられてもしょうがないだろ」


「警察が怪物を捕まえたと都でも騒ぎになってる」


「そうか」


 フィオは呆れるように頭を押さえながらため息をつく。


「そうか、じゃなくてさ。もっと危機感を持ってくれないかな。これでは当初の目的どころか君が事件の犯人にされてしまう」


「それは困るな。俺は犯人じゃない」


「そんなことは分かってるよ。で、真犯人の顔は見たの?」


「ああ。昨夜、俺が追跡したあの少女だ。おそらく……合成魔獣」


「それは……災難だったね」


 大鎌のように変化した両腕と獣を思わせる強靭な両足。生身で容易に壁をよじ登るあの少女は人外そのものだった。ダイモンの言っていた刺青の男と何か関係があるのも間違いない。もしかしたらフィオならその男について何か知っているかもしれない。


「顔の一部が獣毛に覆われていて左手の甲に刺青のある男は知ってるか?」


「知らないよ、どうして?」


 どうやら、男とフィオとの面識はないらしい。俺はダイモンから聞いた刺青の男の話を詳細に彼女に伝えた。


「……少なくともデュランダルではない。彼に自分から出向くような度胸はないよ」


 フィオは露骨に不快そうな顔をして吐き捨てるように言った。奴を思い出すだけで胸糞悪いらしい。


「手掛かりを掴めたと思ったんだがな。それは残念だ」


「追ってみる価値はありそうだけどね、あの男と繋がっている可能性は高い。それにしても、こうも頻繁に危険と出くわすなんて君は運が良いのか悪いのか」


「悪いんだろ? 未だに真犯人は都に潜んでいて俺は獄中だ」


「その通りだよ。……私は資金を集めながらその女の子を探す。君も早くこんな所から出てきてよね」


「言われなくてもそうするつもりだ。じゃあ、今度は中央部の人気の料亭の感想でも聞かせに来てくれ」


「こんな時に馬鹿を言わない。また来るよ」


 冗談半分で言ったつもりだったがフィオには面白くなかったらしく、彼女はここに来てから何度目かの深いため息をついた。迷信かもしれないが、そんなにため息をついていては幸福が逃げてしまうのではないかと少し思ったが口にすると本当に怒られそうなのでやめておく。


 踵を返してフィオは手を振りながら部屋から出て行った。脱獄してみようかと一瞬だけ考えるが、無言で俺を睨むオリバーを見て断念する。フィオが出て行って部屋の扉が閉じられた瞬間、部屋の隅で俺を監視していたオリバーはすぐに鉄格子の前まで寄ってきて拳銃の銃口を俺に向けた。


「もし暴れるつもりなら、殺す」


 無抵抗の人間に殺意を表明して銃を向けるなんて警察のする事だろうか。だが、オリバーの目には俺が化け物としてしか映っていない。


「おいおい。それが住人の平和を守る警察の台詞せりふかよ」


「黙れ。お前のような怪物が都の平和を乱すんだ」


 酷い言いようだった。どうやらオリバーは俺を犯人と決め付けて疑わないらしい。殺気立った彼の雰囲気からして本当に撃たれそうなので俺は言われたように口を閉じた。少女の動向が気になるが、監禁も同然な今の状態の俺には何もできない。


「一つだけ、聞いてもいいか?」


「何だ、化け物。まさかここから出たいなんて言わないだろうな」


 いちいち面倒な男だが、ここで文句を口に出しては問答無用で射殺されかねない。


「そうじゃなくて、俺のこの怪物面に傷を付けた少女の話だ」


「お前の言っていた真犯人って奴の事か? そんな嘘、信じるわけないだろ」


「信じる信じないは自由だがな。なあ、オリバーさんよ。この都で虐待を受けている、または親に捨てられて泣きついてきた女の子はいなかったか?」


 予想通り、オリバーはその質問を聞いた瞬間に顔を引きつらせて焦ったように答えた。


「あ、あったら、どうしたって言うんだ?」


 そのあからさまな態度はあったと言っているようなものだ。俺は自分の推測を頭の中で確信する。


「一人の幼い少女を守る事すら、ここの警察にはできないんだな。お前らが面倒を避け続けた結果が今回の事件って事だよ」


 言いたい事を言ってすっきりしたと思って、俺は自分の軽率さにすぐに舌打ちする。これ以上、オリバーを刺激すると本当に撃たれそうだから黙ろうと思ったのに、感情が高ぶってつい言ってしまった。しかし、後悔してももう手遅れだ。怒りに我を忘れたオリバーは目を血走らせ音を立てて歯軋はぎしりしている。その直後、牢獄に乾いた銃声が鳴り響いた。

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