表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻実記  作者: Silly
メアラーシティ編
15/49

Episode14 拘束1

にわかには信じられんな。十二、三歳の少女が連続殺人鬼だとは。君の方がよっぽど怪しいぞ」


「そうだろうな。俺だってこんな化け物が無実を主張したとしても絶対に信じない。だが、死体の傷跡と俺の持っていた長剣とナイフのどっちとも一致しないだろ」


 警官に連行されたのは、都の警察支部の取調室だった。両腕は手錠で拘束され、変な真似をすれば殺すと、部屋の端に立つ俺を連行した警官が目で言っている。怒りの矛先を俺に向けるのは筋違いというものだが、やはり同胞を殺された事にかなりの恨みがあるようだ。俺の取調べをしている髭面の男がこの警察支部の支部長らしく、取調中だというのにのん気に葉巻を燻らせている。


「嘘をついた様子はなし。君の言い分は確かに間違っていない。だが、だからと言って現場に居合わせた不審人物を易々と解放できないのも分かるだろう?」


「まあ、分からなくもないな」


「支部長!どう見てもこの男が犯人なのは明らかです!すぐにでも牢屋にぶち込みましょう!」


 俺の背後に立つ警官がどうしてこんな男の言う事を真に受けるのかと口を挟んでくるが、支部長の男は手の平でそれを制止した。


「オリバー君。確かに、彼はどう見ても普通の人間ではない。でも、だからと言って外見で人を判断してはいけないよ」


 警官はオリバーと言うらしく、支部長の男に言われると不満げながら黙って俯いた。目の前のこの男の信頼は厚いようだ。


「さて、では話の続きといこうか。君はメアラーシティの者ではないね。どこから来た?」


「クタラから。連れがこの都の海神って宿にいる」


「そうか、では後でその君の連れにも連絡を入れておこう。それで、ここに来た目的は?」


「旅の資金集めと情報収集だ」


「なるほど」


 てっきり、敵意を向けられたり怖がられたりすると思っていたが、支部長の男は怪物のような俺を目の前にしてやけに落ち着いていて、妙な違和感がある。


「どうしてそんなに冷静でいられる? 最悪の場合は殺し合いになると予想していたんだが」


「君、そう物騒な事を言うものではないぞ。まあ、前に君のような男を一人見た事があるからな」


「……何だと?」


 この男、俺に似た怪物を見たと言ったか。俺が険しい顔になったのに気付いて、支部長の男はさとすように言った。


「まあ、落ち着け。とりあえず、まずは自己紹介からだ。私はダイモン、この警察支部の支部長をしている」


「俺はジン。生憎あいにく、身分を証明できるようなものは持ち合わせていないが旅人だ」


「旅人に身分の提示は迫らんさ。それで、その男の話だが、君と同じく顔の一部が人間ではなかったよ」


「……続きを」


 もしかすると、俺とフィオの追っているデュランダルという男の手掛かりが得られるかもしれない。

ダイモンはゆっくりと濃い煙を吐き出して灰皿に葉巻を置くと、その男と出会った経緯についてをおもむろに語り始めた。


「一ヶ月ほど前になるが、怪物が深夜の都をうろついているという目撃情報が多数入ったのが事の始まりでな。別段、事件と言うわけでもなかったが、我々警察も危険を感じて怪物の捜索を始めた」


「それで、そいつは見つかったのか?」


「うむ、すぐに見つかったよ、三日後にね。路地で発見した時の男の風貌はあまりにも異様だったから、我々は彼を拘束したよ。にもかかわらず彼は友好的でどんな質問でも快く答えてくれた。彼は革命家で、思想を広めに大陸一番の規模を誇るこの都に来たらしい。彼の特徴としては顔の一部がまるで獣のような分厚い毛で覆われていた。そして、左手の甲に何か刺青タトゥーのようなものが彫られていたな」


 顔の一部が獣毛に覆い尽くされているような男は、人間からしたら確かに化け物に映るだろう。


「それが、俺のような人物って意味か」


「うむ。彼は自分の顔が異様である理由を、同志との誓いと言っていたよ」


「同志との誓い……どういう意味だ?」


「何が言いたいのかは、私にもさっぱり分からんかったさ。だが、一種の戒めか何かなのだと自己解釈したよ。政治活動しているような連中の言葉を深く考えるのは面倒だ。それから、彼には“この都で目立つような事をするな”とだけ強く忠告をして解放した」


「随分と甘いんだな」


 そんな意味不明な事を口走っている男を逃がしたとは、警察はそんな簡単に釈放するのか。すると、ダイモンは不満そうな顔をして、火の消えた葉巻をもう一度咥えて火を点けた。


「犯罪を犯してもいない者を見た目が怪しいという理由だけで捕まえるわけにもいかんだろう」


 結局は、面倒を避けたわけだ。都の平和よりも、自分達の身の安全を第一に考えている。


「その獣男、あんたの忠告に対して何か言っていたのか?」


「“俺は平和主義者ですから、メアラーシティの皆様に迷惑をかけたりはしませんよ。世界に平和が訪れる事を俺は望んでいるんです”と言っていた」


 綺麗事を羅列したような、嘘で塗り固められたような言い回し。もしも日常的にそんな話し方をしている人間がいるとしたら、そいつは絶対まともじゃない。


「嘘臭いな」


「その言葉には同意する。だが、厄介事を持ち込まれて仕事が増えるのは我々もごめんだ。彼の言葉を一応は信じる事にした」


 事が起きるまでは野放しにする、触らぬ神に祟りなし、そういう事だろう。


「それから動きはあったのか?」


「自分の外見を考えて彼が行動してくれるようにしたのか、怪物の目撃情報は激減したよ。そして、約一週間前には完全に途絶えた」


 一週間前、それは、どこかで聞いた事のあるフレーズだ。それも、ついさっき聞いたばかり。俺が警察に拘束されているのもその事柄が大きく関係している。


「その時を境に始まったのは……」


 ダイモンの表情が険しいものへと変わる。


「そう。都を恐怖に陥れた連続殺人事件だ」


「道理で、後ろに立っているオリバーさんはいきり立って俺を犯人扱いしたり睨んだりするわけだな」


 オリバーは怒り心頭で今にも俺に殴りかからんばかりの形相だが、ダイモンがそれをたしなめて、なんとか争いにはならなかった。もしも取り調べ役がオリバーのような男だったら、本当の事を言っても頭ごなしに否定されて信じてはもらえなかっただろう。信頼ある支部長は偉大だ。


「時期的にも刺青の男がこの事件の裏で糸を引いている可能性は高い。一体、彼はどこに行ったのか」


「でも、都の外に出られたら、ここの警察にはどうしようもないよな」


「なんだと! 貴様、我々を愚弄するか!」


 事実を認めずに感情をぶちまけて怒鳴り散らすオリバーとは違い、ダイモンは返す言葉もないと頭を押さえていた。


「支部の無能を露呈するようだが君の言う通りだ、ジン君。我々が自由に動けるのはメアラーシティという狭いおりの中だけ。

 だがな、もう同じ失敗を繰り返すつもりはないのだ。君には悪いが“不審人物”にはもうしばらくここにいてもらうぞ」


 そうなるのは予想していた。表面では俺を信用しているように見せて、その実、疑っているのは間違いない。連続殺人事件は一週間前から始まっているというのに、今日、都に来たばかり俺が犯人のわけがないだろう。警察の頭の悪さに俺は心の中でため息をつく。


 まあ、この外見で信じろというのも無理な話だ。人間は自分と違う者に対して警戒心と嫌悪感を抱く。

オリバーの態度が顕著なだけで、ダイモンも表には出さないが俺を危険視している。だから、監視下に置きたいのだ。


「ああ、わかった」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ