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幻実記  作者: Silly
盗賊街編
10/49

Episode9 決着

 怪物との一進一退の攻防が続く。ダウトは宣言通り手を出さずに、離れたところで退屈そうに欠伸あくびをしながらこちらの戦いを見ていた。お互いに手負いのせいかどちらの攻撃も決定打に欠けていて決着がつかない。腹部から止め処なく血は流れ続け、剣を振り下ろす度に力を失っていく。あとは時間の問題だった。


 怪物も頭部を撃たれてからは最初の頃にあった勢いはなくなって単調な攻撃になり、ある程度ならかわせた。こんな時、フィオが援護射撃でもしてくれればこちらが優位に立ち回れるのだが、彼女はいない。


 極度の失血で意識が朦朧とする中で、俺は仲間の重大さを痛感する。このまま戦闘を続けた場合、体力的に先に倒れるのは俺だ。ダウトは情報屋であって決して仲間ではない。怪物に襲われたとはいえ、俺を助ける義理もなくなったし今は傍観を決め込むつもりだろう。


 状況は非常にまずい。刻一刻とタイムリミットは迫っている。息切れはするし視界は段々と暗くなっていく。襲い来る疲労感と脱力感の波で俺は立っているのがやっとだった。怪物の攻撃を避ける余裕も最早ない。


 一旦、体勢を立て直そうと怪物から離れるが、怪物も時間をかけまいとすぐに距離を詰めて追撃してくる。怪物の角と長剣の刃が激しくぶつかり合い火花が散るが、やはり鍔迫り合いでは俺が劣勢に立たされる。もう怪物に電撃を使う力は残されていないようで、体毛の光が弱まっているのだけが唯一の救いだった。


 その泥沼のような戦いに終止符を打ったのは、夜の静けさをぶち壊すような激しい銃撃だった。全身に浴びた銃弾の雨に怪物は倒れ、俺も撃った人物の顔を見遣ると安堵の息をついて仰向けに倒れこんだ。


「待たせたね、ジン」


「そうだな」


 唐突に現れた狙撃者は紛れもない俺の唯一の仲間、フィオだった。彼女の右手には怪物を穴だらけにした短機関銃が握られている。


「どこほっつき歩いてたんだよ」


 冗談っぽく口に出したら、俺は自然と嬉しくなって勝手に笑ってしまった。ダウトに言われた“見限られた”という言葉が変に心に残っていたのもあるかもしれない。


「この“怪物も仕留められる武器”の調達の為に予想以上に時間が掛かってしまってね。君に一声掛けてから向かうべきだったよ」


「まったく、心配かけやがって」


「うん、ごめんね」


 素直に謝られてしまって、これ以上彼女を責め立てる気は起きず、俺は腹部の傷を鎧越しに押さえながら痛みを堪えてなんとか立ち上がった。さすがに、二日連続で人外と生死を賭けた戦いをして体力は限界をとっくに超えている。今は気力でなんとか体を支えている状態だ。村に辿り着くまでに倒れてしまうかもしれないが、フィオがいる事で安心できた。彼女にまた頼ってしまうのは情けない話だが、死闘を繰り広げて疲れきった今はそんな事を言っている状況ではない。


「ダウト、君もありがとう」


 彼女がダウトの何に対して感謝をしているかは俺に分からなかったが、ダウトも沈黙しているが満更ではない様子だ。彼はこちらに背を向け「情報が欲しければいつでも来い」とだけ無愛想に言って歩き去っていった。


「じゃあ、化け物も倒した事だし、村に行って休もうか。でも、今回は残念ながらデュランダルの情報は得られなかったね」


「ああ。徐々に近付いていければいいさ。焦らずとも時間はまだある」


 完全に化け物に食われてしまうその時までは。刻々とその時が迫っているという自覚はある。内に潜む怪物に徐々に心身を蝕まれているのを今でも生々しく感じる。けれど、まだ大丈夫だ。戦いを終えてその余韻に浸れるくらいには俺はまだ“人間”だった。


 まともに俺が動けるようになるまで少しばかり休んでから、村に向かって歩き始めた頃には空は明るくなり始めていた。フィオと他愛もない話をしながら歩いていて俺はふと思い浮かんだ疑問を意味もなく彼女に投げかけた。


「どうしてダウトは昨夜もここにいたんだろうな」


「さあ、どうしてだろうねー」


 心当たりがあるかのように、言葉とは反対にフィオはにやにやと笑っていたので、何か知っているのかと訊いた。けれど、彼女はにこにこしながら「知らない」の一点張りで、本当の事を話すつもりはなさそうだった。俺は仕方なく諦めることにする。


 村に着いて今朝のおばさんに民宿の部屋に案内された時には、眠気が押し寄せてきていた。おばさんがいなくなったのを見て、すぐに鎧と兜を脱ぎ捨てて布団に飛び込むと、この上なく幸せな気持ちになる。フィオはそんな俺の様子を見て柔らかな笑みを浮かべた。


「今日はお疲れ様」


「出発は明日の朝でもいいか? 少し休みたい」


「もちろん。君も疲れてるだろうし、私も休むよ」


「そうか……」


 会話を終えた瞬間、必死に保っていた意識は、仲間と再会できた事による安心感と、戦いで疲れた体を癒す布団の温もりでまどろみの中に一瞬で消えた。眠りに落ちる直前、「おやすみの一言ぐらいあってもいいよね」と拗ねたようにフィオが言っていた気もしなくはないが、俺に反論の余地もなければ返す気力もなかった。

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