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プロローグ 2
嫌な思い出は電車が進む度、少しずつ具体性を持って木村を襲ってきた。なすすべのない彼は思い出さずにはいられなかった。そして……
あの日は、と考え出す。
暑いじめじめとした季節にありがちな、大雨の中。
私たちが訪れる屋敷、いや館の云われ。そして謎。
不気味ななぞりによって殺められていく彼ら。
ああ、と彼は一つため息をこぼした。そして犯してしまったあの人のことも思い出す。
彼は何かに動かされていたのだ。彼は確実に私たちを殺そうと云う感情を持っていたのか?
持っていたなら、なぜ……
木村の頭の中は混乱を呈していた。
解決した事件のはずなのに、記憶がその事を無かったことにしている。
ダメだ!、と思っても記憶と云う奴は忘れようとさせる。
木村はかぶりを振った。そうだ、今さら考えても無駄なんだ。彼らは死に、犯人は捕まったのだ。
ふと、耳にアナウンスが飛び込んでくる。
「次は久留米、久留米です。お乗り……」
木村は立ち上がり、車窓を見た。懐かしいビル街が映し出されていた。