私と君の別れ際
駅のホームは見送りの人間でいっぱいだった。そんな中で、電車の中にいる人と話せる場所を取れたのはひとえに私の運のおかげだ。
「本当に忘れ物はない?」
「大丈夫だって。昨日の夜も確認したし、今朝も見た」
「じゃあ……ん」
最後に目を閉じた。
「え、ええっと……」
「いくらニブチンのあなただって、別れ際に何をしたらいいかくらい分かるでしょう?」
「……あ、ああ」
彼ときたら本当に言われるまで気づかなかったらしく、頷くまでに暫時硬直の時間があった。
「でもね、たぶんそれは帰ってくるときまでにお預けしておくのが本式なんだと思うよ。目を閉じて別れを惜しむんじゃなくて、しっかりと最後まで僕を見送ってほしい」
「恋人同士の間柄ではこちらが本式よ」
「なら、僕のわがままだ」
「嫌だわ、こんなときにやっとわがままを言ってくれるのね」
いつまでもこうしていたいと思う未練がましい溜息は、汽車の長く白い息と職員の怒声ににかきけされてしまった。もう出発の時刻は三分ほど回っている。
「さよなら、古河さん」
「またね、達也」
私の思いはとうとう最後まで届かなかったのか。言葉からは分からない。
その結果を知る日が来るかどうか、今は祈ることしかできない。
お題ひねり出してみたhttp://shindanmaker.com/392860からのお題。
『サヨナラにくちづけを』




